『人間解放の哲学』より

 


あとがきにかえて

 私たち広島県労働者学習協議会の出版編集委員会と高村是懿さんとの共同作業による本づくりもこれで三冊目となりました。『ヘーゲル「小論理学」を読む』(一九九九年)、『変革の哲学・弁証法』(二〇〇一年)、そして今回の 『人間解放の哲学』です。
 いずれも、広島県労働者学習協議会での高村さんの講義がもとになっています。
 なぜ、高村さんという著者がいながら、広島県労働者学習協議会編なのかについて説明したいと思います。
 私たちの編集作業は、テープおこしから始まりました。当初、「高村さんという著者がいるのだから、協力はするけれども、わざわざ労働者学習協議会編とうたう必要はない」と私たちは考えていました。しかし、高村さんが 「労働者学習協議会の存在理由は、学習を運動として組織することにある。集団で論議しながら、本をつくることがまさに組織化することだ。そのことをきちんと表すべきである」といい、編集委員会で論議のすえ、「高村さんがそこまで言うなら」と著者と編者を併記することにしたのです。
 ですから、当初は、私たちの編者としての自覚と役割は消極的なものとして始まりました。しかし、二冊目、三冊目となるにしたがって、私たちの編者としての果たす役割が増し、より積極的なものへと発展しています。
 そのことを今回の『人間解放の哲学』のなりたちに即して説明しましよう。
 講座は講義一時間と討論一時間で構成されています。編集委員のほぼ全員がこの講義を受講し、討論に参加しています。その討論もふまえ、高村さんが第一次原稿を書きました。それを手分けしてパソコンに入力し、編集委員に配布して、泊まり込みの会議を実施。そこでかなり激しい論議をして、問題点を洗い出し、討論に基づいて、高村さんが改稿。高村さん自身のなかでも、数度にわたる書き直しがあったようです。そして数次にわたる編集会議がもたれ、さらに検討を集団的に加えています。
 こういうやりとりをしながら、できるだけ正確で、できるだけ分かりやすい原稿をめざしました。高村さんの見解と私たち編集委員の見解のすべてが当初から一致しているわけではありません。当然、異論もあります。しかし、私たちは「真理の前にのみ頭を垂れる」精神で、それぞれの見解をたたかわせるなかで意見を一致させ、そのことを通じて真理へ接近しようとしてきたのです。
 内容上の最終的な責任は著者である高村さんが負っています。と同時に、私たち編集委員会は、「あれこれ問いただす」ことをつうじて、高村さんの見解がより鮮明で、誤解の少ないものになるよう発展させていく任務と責任を分担しています。私たちは、こういう共同作業を「広島県労学協スタイル」と勝手に呼んでいるのですが…。
 本の作り方からも分かっていただけると思いますが、この『人間解放の哲学』は、従来の通説とは異なる見解を含み、問題提起をしています。ヘーゲルは、「哲学もしくは何かある学問が完全無欠でない、と人々が言うときには、彼らの考えていることは明らかに、『それが完全なものにされてしまうまでわれわれは待たなくてはならない、というのも最善のものがまだ見つかるかも知れないから』ということなのである。しかしこういう態度ではなにひとつ前進させられはしない」(『法の哲学』世界の名著四四ハページ)といっています。著者も私たちも「誤りを犯さないものは何もしないものだけだ」をモットーに、科学的社会主義の学説を少しでもより豊かなものに前進させることを願って、大胆に問題提起をさせてもらったつもりです。ですから、ぜひそういうものとして批判的に検討していただくことを望んでいます。
           *      *     *
 本書、編集中に広島市長選挙があり、新しい共同の力で、秋葉忠利氏が再選されました。長野県や熊本市、兵庫県尼崎市などにつづいて、保守王国といわれた広島の地で「自治体らしい自治体」「住民が主人公」の流れが勝利したことは、大きな喜びです。
 これから、変革の流れはますます力強いものになっていくことでしょう。それを押しとどめようとする力も増すに違いありません。階級闘争が歴史をつくるのです。そして、二一世紀は、二〇世紀以上に、本書のテーマである自由と民主主義が鋭く問われ、かつ、勝利をおさめていくにちがいありません。
 本書の批判的検討、論議を通じて、自由と民主主義についての理解が深まり、かつ自由と民主主義を血肉化していくたたかいに、いささかでも貢献できれば、幸いです。
 なお、本書校正後の、六月二一日、日本共産党綱領改定案が発表されました。ですから、本書で引用している綱領は、改定案以前のものを使用していることをお断りしておきます。
 最後になりましたが、今回も、学習の友社にご助力いただき、出版することができました。この場をお借りして深く感謝いたします 。

二〇〇三年 六月 二八日 ルソーの誕生日に   
  編集委員を代表して
                   佐田 雅美

 

 

● 編集委員(あいうえお順)
 権藤郁男・佐田雅美・武田一平・竹森鈴子・津田広志・二見伸吾・平野光子

●編集・出版協力者
 大石秀一・栗栖清子・玉谷由美・橋本和正・浜崎理恵・平野百合子・安光より子・山本一人・山本繁子・山根岩男