2003/06/03 講義
第4講 ルソーの社会契約論②
1.ルソーの問題提起
●「市民の世界に、正当で確実な何らかの政治上の法則がありうるかどうか」
(14ページ)
● 力による支配(パワー・ポリティクス)への批判
・事実(力による支配)と権利(支配の正当性)の峻別(17ページ)
・「力は権利を生みださない」「ひとは正当な権利にしか従う義務がない」
(20ページ)
・「権利は自然から由来するものではない。それはだから約束にもとづくもの
である」(15ページ)
● 服従契約としての社会契約論批判
・グロチウスの奴隷契約批判――身を売って何も残らない契約はあり得ない
(契約は双務契約としてのみある)(21ページ)
・安寧確保の奴隷契約批判(21ページ)
・自由と引き替えに生命を買い戻す奴隷契約批判――戦争に負けたものを殺す
権利なし
――人民を奴隷にする服従契約はすべて不法、無効
● 支配の正当性は、服従を否定する社会契約からのみ生ずる
・「もし人民が服従することを簡単に約束すれば、この行為によって〔主権者
としての〕人民は解消し、人民としてのその資格を失う」(43ページ)
2.未来社会としての社会契約
① 「各構成員の身体と財産を、共同の力のすべてをあげて守り保護するよう
な、結合の一形式を見出すこと。そうしてそれによって各人が、すべての
人々と結びつきながら、しかも自分自身にしか服従せず、以前と同じよう
に自由であること。」(29 ページ)
● 社会契約の目的は、真にあるべき共同社会の形成にある
・真にあるべき共同社会は、社会の構成員の「人格と財産」を保護、発展させ
る社会――「身体」(personne)は、「人格」と訳すべき
・共同社会は、人間の類としての自己完成能力(人間不平等起原論 53ページ)
を発展させ、人間性を全面的に開花させるものでなければならない(=人間
解放の実現)
・共同社会は、すべての構成員のより豊かな生活を保障するものでなければな
らない
● 目的実現のための人民の結合の形式は、「すべての人たちと結びつきつつ」
「自由である」こと
・自由を他者に媒介されつつ、媒介を揚棄したものとしてとらえている
――ヘーゲルやマルクスの自由論の基礎となるもの
・ロックの自由論は、「国家からの自由」という消極的自由(逃避の自由)に
すぎないのに対し、ルソーの自由論は、「自由と必然の統一」を唱える積極
的なもの
・「最高の自由は、最高の共同」(ヘーゲル)
・1人はみんなのために、みんなは1人のために
② 「われわれの各々は、身体(人格)をすべての力を共同のものとして一般
意志の最高の指導の下におく。そしてわれわれは各構成員を、全体の不可
分の一部として、ひとまとめとして受け取るのだ」(31ページ)
● 真にあるべき共同社会は、一般意志を持って共同社会の意志(国家意志、国家
の統治意志)とする
・一般意志と全体意志との区別
●「ルソーは、国家の法律は、一般意志(普遍的意志)から生じなければならな
いが、といって決して全体意志(万人の意志)である必要はない、と言ってい
る。もしルソーが常にこの区別を念頭においていたら、かれはその国家論にか
んしてもっと深い業績を残したであろう」(『小論理学』㊦ 岩波文庫 129
ページ)
●「一般意志とはすなわち意志の概念」(同)
・ヘーゲルの言う「概念」とは、「真にあるべき姿」
・ヘーゲルは、はじめてルソーの「一般意志」を正しく理解した
・真にあるべき共同社会は、人民の「真にあるべき国家」「真にあるべき政
治」を求める意志を統治意志(統治の原理)とする社会
・だから、「一般意志は、つねに正しく、つねに公けの利益を目ざす」(46
ページ)
③ 「私たちはみんな共同に、自分の財産、人格、生命、そして自分の力のいっ
さいを、一般意志の最高指揮にゆだねる、そしてみんなで一緒に、全体の分
別できない一部としての各自の部分をうけとる」(「エミール」下巻、岩波
文庫232ページ)
④ 社会契約は、「各構成員をそのすべての権利とともに、共同体の全体にたい
して全面的に譲渡することである」(30ページ)
● 全面譲渡の目的は、真の平等の実現
・不平等をもたらしたものは、生産手段の私的所有(とそれに基づく「略奪」
【搾取】)
・生産手段を共同社会に全面譲渡することによってはじめて不平等の物質的基
盤を消滅させることができる
●「彼自身と、彼がもっている財産がその一部をなす彼のすべての力とを、その
とき現にあるがままの状態であたる」(37ページ)
・「個々人から財産をうけとる場合、共同体は、彼らからそれをはぎ取るので
はなく、むしろかえって、彼らにその合法的な占有を保障し、そのうえ横領
を真の権利に、享有を所有権に変えるだけ」(40ページ)
・「各個人が自分自身の地所にたいしてもつ権利は、つねに、共同体が土地全
体にたいしてもっている権利に従属する。(同)
● ルソーは、自分の労働にもとづく所有と搾取による所有とを区別している
・「所有権は、主権がなによりも尊重しなければならない権利だ。それは、個
別的、個人的権利であるかぎりは、主権にとって神聖不可侵の権利だ。全市
民の共有のものとみなされるばあいには、すでにそれは一般意志に支配さ
れ」る(「エミール」下巻234 ページ)
・「生存するために必要な広さの土地しか占拠しないこと」「必要と労働にも
とづいて先占権を認める」(38ページ)
・「彼の分け前がきまった以上、彼はそれで辛抱しなければならない。共同体
の財産にたいしては、もう何も権利はないのである」(同)
● 全面譲渡による真の平等の実現
・「人間は体力や、精神について不平等でありうるが、約束によって、また権
利によってすべて平等となる」(41ページ)
・「社会状態が人々に有利であるのは、すべての人がいくらかのものをもち、
しかも誰もがもちすぎない限りにおいてなのだ」(同)
● 集団主義との批判と反批判(「ルソー研究」より)
・ギールケ「あらゆる個人主義的な出発と目標にもかかわらず、その時々の多
数者のうちにあらわれる主権の絶対的な権利が結果として生ずる」(同96
ページ)
・ヴォーン――ロックの社会契約とちがって、ルソーにおいては個人の力と自
由とを全面的に譲渡するのであるから、それは個人人格の破棄であり、減却
であって、「極端な形式の集団主義」(同114ページ)
→何のための全面譲渡か、一般意志とは何かを全く理解していない
・批判者は、真にあるべき社会をどのようなものとしてとらえているのか(ル
ソーの社会契約国家以上主のを提起しうるのか)
・ルソーが服従契約を否定しているのを無視している
⑤ 社会契約国家は、社会に生産手段を全面譲渡し、
真の自由と平等を実現する社会
● 人間の疎外された自由・平等という類本質回復する人間解放の社会
・「立法の体系の究極目的」は、「自由と平等とに帰する」(77ページ)
● マルクス・エンゲルスは、資本主義を止揚した未来社会を「各人の自由な発展
が万人の自由な発展の条件であるような一つの共同社会」(全集④ 496 ペー
ジ)「生産者の自由で平等な協同団体を基礎にして生産を組織しかえる社会」
(同第21巻172ページ)、「各個人の完全で自由な発展を基本原理とするよ
り高度な社会形態」(『資本論』④ 1016ページ)として、生産手段を社会
化することによる自由・平等の社会をとなえた
→ルソーの社会契約国家は、マルクス・エンゲルスの社会主義、共産主義国
家と基本的に同じもの
● この未来社会の観点からも、ルソーを科学的社会主義の源流ととらえることが
重要となってくる
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