2003年 講義

 

 

第4講 認識における自由

 

1.形式的自由

● 意志は、「実践的精神一般」(§4 註解)

 ・思惟が客観的事物に働きかけ「おのれに現存在を与えようとする衝動」
  (同追加)

 ・特殊的意志は「形式的な意志であり、外の世界を自分の前に見出す」(§8)
   ──「主観的な目的を客観性へ翻訳する過程」(同)

● 即自的な自由

 ・即自的な自由は、「われわれにとっての自由」にすぎず、また「不自由でも
  ある」(§10 追加)

 ・「直接的ないし、自然的な自由」(§11) ──「もろもろの衝動、欲求、傾
  向」(同)

 ・たんなる自由に「決定する意志」(§12)、として、形式的な自由に過ぎな
  い

 ・即自的な自由では、「目的」の実現される保証がない ──「内容はまだこの
  意志の自由と内容と作品ではない」(§13)

 ・「恣意」(§15)又は恣意的な「選択の自由」(同 追加)── 偶然的な決定

 

2.恣意のもつ矛盾

● 恣意の矛盾

 ・ 自分では自由に決定した内容でありながら、その内容は、「与えられた内容
  および素材への依存」(§15)── 「意志として存在するような偶然性」
  (同)

 ・ 意志の対象となる客観的事物に支配され従属している

● 「意志は自由か必然か」の哲学論争

 ・18世紀初頭の哲学論争

 ・意志自由論
  ── 人間は客観的法則に拘束されない意志の自由をもち、自由に行為しうる

 ・決定論
  ── 人間は客観的法則に支配されているから、自由意志は幻想に過ぎない

 ・この論争に決着をつけ、自由と必然を統一のうちにとらえたのがヘーゲル
  ⇒恣意はこの論争の二つの側面を反映したもの。恣意は自由であって自由で
   ない

● 恣意は、「特殊性の突出」(§15 追加)

 ・理性的な意志(理にかなった意志)は、「ことがらを妥当するようにさせ
  る」

 ・恣意は、「自分一個の特殊性を最も多く突出させる」

 

3.恣意から普遍的に自由な意志へ

● 恣意のもつ矛盾による認識の発展

 ・「恣意の偶然的な決定」(§17)にもとづく衝動は「もろもろの衝動の抗
  争」生みだす(同追加)

 ・抗争をつうじて、衝動は純化され「素材に形式的な普遍性」(§20)をもた
  らす

 ・この普遍性を意志がとらえたとき、恣意から解放され、本当に自由な意志
  (即自かつ対自的に自由な意志)となる

● 普遍的な意志とは、必然性を揚棄したものとしてうちに含む意志

 ・恣意は決定する自由ではあっても、客観的事物の普遍性(法則性、必然性)
  に支配されている

 ・本当に自由な意志は、事物の普遍性を認識したうえでの決定をする自由

 ・「恣意を揚棄されたものとして自己のうちに含んでいる本当に自由な意志
  は、その内容が即自かつ対自的に確実なものであることを意識している」
  (『小論理学』下 90ページ)

 ・「自由は、必然性を前提し、それを揚棄されたものとして自己のうちに含ん
  でいる」(同 116ページ)

 

4.普遍的に自由な意志から、
  概念としての自由な意志へ

● 本当に自由な意志は概念の自由意志

 ・「即自かつ対自的に有る意志は、真に無限」(§22)── 自らを外化し、ま
  た自己にたちもどることを無限にくり返すことで、認識は前進する

 ・本当に自由な意志は、客観的事物の「普遍性」をのりこえ、ついには、「概
  念」(真にあるべき姿)に到達する(§22)

 ・ 事物の概念は、具体的普遍(普遍と特殊の統一)(§24)

● 本当に自由な意志は、主観性と客観性の統一

 ・ヘーゲルは、主観も客観も一面的であり両者の統一に真理があると考える

 ・ 本当に自由な意志は、具体的普遍として、自らを特殊化し、たんなる主観性
  から客観へと自らを具体化する(§25、26)

 

5.『法の哲学』は自由な意志の現存在

●『法の哲学』の対象となる広義の「法」は、自由な意志の現存在(§29)

● エンゲルスの自由論

 ・ヘーゲルの自由論を継承・発展させながらも、自由を「自然的必然性の認識
  にもとづいてわれわれ自身ならびに外的自然を支配することである」(全集
  ⑳ 118ページ)と無段階的にとらえる

 ・ そこから意志の自由とは「事物についての知識をもって決定をおこなう能
  力」ととらえる(同)

● エンゲルス批判

 ・「事物についての知識」をもたずに決定する自由(形式的自由)を否定する
  もの ── ひいては人権宣言の意義を低からしめるもの

 ・その後の科学的社会主義の自由論を一面的なものに

 ・ 科学的社会主義の自由論を本来の基盤に軌道修正するためにも、ヘーゲルの
  自由論を学ばねばならない

 ・ 法、権利、道徳、家族、市民社会、国家のすべては真に自由な意志を実現
  し、確保するものでなければならない

 ・ カントは、法を自由の制限ととらえているが、正しくないばかりか、特殊的
  個人の恣意を政治や法の実体的な基礎とするもの(§29)

● 自由の現存在の発展する諸段階(§30)

 ・弁証法的な発展の諸段階

 ・第一部 抽象的な権利ないし法、第二部 道徳、第三部 倫理

 

6.ヘーゲルの自由論と科学的社会主義の自由論

● ヘーゲルの自由論は、認識の発展に伴う段階的発展

 ・形式的自由から普遍的自由を経て、具体的普遍としての自由へ

 ・形式的自由(決定する自由)を「自由なものである意志の本質的モメント」
  として評価
  ── フランス人権宣言の思想、良心、表現の自由を積極的に評価したもの

 

7.区分(§33)

● 即自かつ対自的に自由な意志の発展段階

① 抽象的権利ないし法

 ・意志は、直接的、抽象的なものとしての人格

 ・意志の現存在としての物件


② 道徳

 ・自己のなかへ折れ返った、自己反省した意志

 ・善と主観的意志 ── 当為の関係


③ 倫理

 ・①②の統一

 ・善が外的世界に実現

 

*次回、第5講は、第34節から第48節まで。