2004年3月9日 講義

 

 

第7講 契約・不法

 

1.第七講の主題と、第二部、第三部との関係

● 第一部の第二章 契約、第三章 不法

 ・共同体の一員として生活するなかで、権利、義務が具体的なものになる

 ・契約 ── 民事事件の根本問題

 ・不法 ── 刑事事件の根本問題

● 法、道徳、倫理

 ・法 ── 法によって規制される消極的な生き方

 ・道徳 ── 主観的により善く生きる積極的な生き方

 ・倫理 ── 客観的により善く生きる積極的な生き方

 

2.契約

● 契約 ── お互いに相手の所有物を相手の所有と認め、売りましょう、買いま
 しょうの合意をすること

● 身分から契約へ

 ・契約は、自由な人格を前提とする

 ・資本主義は、自由な人格を生みだす

● 契約自由の原則

 ・「契約は、恣意から出発する」(§75)

 ・契約のもつ恣意は、契約を不法に導く

● カントの結婚契約説批判

 ・カント--結婚は、肉体の相互使用、契約

 ・しかし、肉体は、人格と不可分であり、「外面的な物件」ではないから、
  契約の対象にはなしえない

 ・同様に肉体を売る契約は、人格性の放棄

 ・婚姻は両性の合意にもとづく一種の契約と解すべき

 

3.社会契約説批判

● 社会契約説(ロック、ホップス、ルソー)

 ・自由で平等な個人が自由な意志にもとづき契約して社会、国家を形成した

● 社会契約説批判

 ・国家と個人を切り離し、国家以前に個人があったとするアトミズムは誤り
  ── 個人の自由は、真の共同体である国家で開花する

 ・国家は理性的であるべきであり、個人の恣意に委ねてはならない

 ・国家は、支配階級の恣意に委ねられてはならないとの意味も

 

4.契約から不法へ

● 契約のもつ恣意の要素に、不法への契機がある

 ・特殊的な意志は、「洞察および意欲の恣意性と偶然性というかたちをとっ
  て」法を不法に転化させる(§81)

● マルクス『資本論』

 ・株式会社は、「会社の創立、株式発行、株式取引にかんするぺてんと詐欺の
  全体性を再生産する」(『資本論』新日本新書版⑩ 760ページ)

 ・ワールドコム、エンロンの粉飾決算で、株式会社制度の危機が叫ばれる
  ── 日本でも同様

● 簿記と会計の区別(角瀬保雄「会計から現代資本主義を見る」経済2003年12月
 号)

 ・簿記 ── 企業の内部管理のため、正確性を期す

 ・会計 ── 投資家に企業を売り込むためのもの。粉飾のない会計なし

 

5.不法

① 不法は、仮象である

● 不法とは、本来の法(即自的な法)と個人の特殊的意志との対立

● 法の本質に不適合な意志として仮象

● 仮象は、仮象ê であるが故に本質である法に回帰すべきもの


② 無邪気な不法

● 主観的法が、客観的に不法な場合(自分では、自分の方に権利があると確信し
 ている場合)

● 民事法では、権利根拠が多様だから、争う双方に、一応の権利根拠が認められ
 ることが珍しくない


③  詐欺 ── 外面的合法と内面的(実質的)不法の結合

 

6.強制と犯罪

① 不法という回り道をしての強制

● 法は、自由の意志の現存在

● しかし、強制的に、法を破壊する者は、法による強制を受ける
 ──「強制は、 強制によって揚棄される」(§93)

● 法は、自由の現存在でありながら、不法という回り道をとおって強制となって
 あらわれる(§94 註解)


② 犯罪は否定的無限判断

● 犯罪は権利一般を否定するものとして否定的無限判断

 ・民事事件は、「私のもの」であることが否定されるのみの否定的判断

● 刑罰は、否定の否定(§98 追加)

● 刑罰の正当性はどこにあるか

 ・予防説、威嚇説、矯正説 ── 犯罪は罪悪、刑罰により善をなす

 ・刑罰は不正にたいする正義の回復としてのみ正当性をもつ


③ 量刑

● 刑罰は、復讐ではない

 ・被侵害利益と量刑の価値的同等性 ── 侵害形態の同等性は、単なる復讐

 ・アメリカのイラク攻撃は、戦争開始根拠の不存在のみならずテロへの復讐と
  して、価値の同等性を失っている

● 量刑のなかには個別意志が普遍的意志に向う道徳の概念が要請されている

 

7.法から道徳へ

● 刑罰は、個別的意志を普遍的意志との対立として定立、し普遍的意志に前進さ
 せる

● 道徳も同様の意志の発展形態をとる

 

*次回8講は§105~§127です。