2004年3月23日 講義

 

 

第8講 道徳とは何か

 

1.よりよく生きる

● 哲学の課題ê は、真理、真実とよりよく生きることの探究

 ・ソクラテス「たましいをすぐれたものに」「ただ生きるということではなく
  て、よく生きるということ」

● 科学的社会主義の哲学でも、よりよく生きることはその課題の一つ

 ・マルクス――若い時に人間論の探究あり。史的唯物論では道徳はイデオロ
  ギーの一つとして片付けられているのみ

 ・日本共産党21回大会決議 ── 10項目の市民道徳を提言

 ・同23回大会決議 ──「社会の道義的危機を克服する国民的対話と運動を」

 

2.道徳とは何か

① 道徳は当為の立場

● 抽象的人格から、自覚的に無限に発展する主体へ

 ・自由な意志のおのれ自身への無限の折れ返りとしての「反省」

 ・「人間が自己自身を絶対的なものと知り、かつ自己を規定するということ
  が、人間の高い価値」(§107 追加)

● 道徳は、内心における主観的意志が、正義・正しさを追い求め、それと一致す
  べきだとする「当為」の立場

 ・「道徳的立場は、対自的にある自由」(§106 追加)

 ・道徳的立場は「主観的意志の正ないし権利」(§107)

 ・倫理の世界ではじめて、主観的意志と正義とは一致するに至る

 ・道徳と社会・国家のあり方との同一と区別の統一


② 内心の意志から福祉(幸福)へ

● 正しさを求めてよりよく生きる意志は、現存在(客観)へ移行する目的の実行
 となってあらわれる。

 ・外にあらわれた主観的意志は、正義を求める意志のあらわれとしての普遍性
  をもつ

 ・目的の実行は、「私の意志と他の人たちの意志の同一性を内に蔵している」
  (§112)

● ここに法と道徳のちがいがある

 ・法は、禁止を命ずるだけだから、他の人たちと関わりなし

 ・道徳は、よりよく生きる積極的生き方として、他の人たちと関わらざるをえ
  ない

 ・道徳的な正しい行為の三つの契機


① 企図と責任 ── 行為は主体的意志の企図として責任を伴う

② 意図と福祉(幸福)── 共通な相対的価値としての万人の福祉

③ 善と良心 ── 普遍的価値


3.企図と責任(第一章)

● 行為は責任をもたらす

 ・私は私の行為がもたらした結果に責任(道義的責任)を負う

 ・ただし、自分の所行のなかで、「企図のなかにあったものだけ」(§117)

 ・行為と結果との間に必然的な因果関係がある場合のみ、結果に責任を負う

● 個別の中の普遍を知るべき

 ・必然的結果という場合、個別に含まれる普遍が必然的にもたらす結果まで含
  む

 ・普遍的なものを知るべきとの要請は、「企図」から「意図」への移行をもた
  らす

 

4.意図と福祉(第二章)

① 意図の権利

● 個別の真理は普遍

 ・個別の行為は、普遍的内容を含む

 ・普遍的なものを意志することが「意図」

 ・未必の故意は個別的故意が普遍的故意になることを認めたもの

● 意図の権利

 ・行為者が、自分の個別的行為が普遍的な質と結びついていることを知ってい
  ること

 ・未成年者、精神障害者には、意図の権利は認められない


② 欲求の満足としての幸福

● 意図のなかの普遍と特殊

 ・意図は一方で普遍を認識しつつ、他方で特殊的欲求と満足を見出す

 ・一つの矛盾

● 幸福追求権は、主体的自由の権利の一形態

 ・主体が満足をうる権利は、主体的自由の権利(古代と近代の区別の転回点)
  の一形態

 ・欲求の充足による満足がしあわせをもたらす

 ・意図に含まれる、個別に含まれる普遍の認識により、福祉(幸福)は「万人
  の福祉」へ ── ベンサム「最大多数の最大幸福」

● 幸福追求権はまだ正義ではない

 ・幸福追求権も国家の従属的契機にすぎない

 ・幸福追求権も生の尊厳をおかすことはできない

● 生の尊厳

 ・万人の福祉は「生命としての人格的現存在」(§127)

 ・危急権の前には、絶対的権利としての所有権も制限される

 ・93年憲法に、生存権的規定はあるが、国家の義務として規定されているのみ

 ・「資力限度の恩恵」

● 主体的自由の権利と幸福追求の権利の一面性は、両者の統一としての「善と良
 心」に

 

*次回、第9講は、第129節から第138節まで。