2004年 講義

 

 

第13講 市民社会

 

1.市民社会論から何を学ぶべきか

① 市民社会の矛盾

● 今日は、市民社会の総論の一部を(§182から§185)

●「市民社会」の由来

 ・アリストテレスの「コイノニア・ポリティケー」(市民共同体)に由来
  ── 国家と社会との区別なし

 ・社会契約説も、社会と国家を区別せず

● ヘーゲルがはじめて、国家と社会を区別

 ・市民社会 ── 経済社会 国家 ── 政治社会

 ・「市民社会論」で、資本主義経済社会を分析し、その止揚を訴える

 ・資本主義の矛盾は、ヘーゲルの時代よりはるかに深刻かつ鋭くなっている

● ヘーゲルは市民社会の矛盾を特殊と普遍の対立と闘争としてとらえた

 ・マルクス、エンゲルスのとらえ方とは異なる

 ・しかし、ヘーゲルの矛盾のとらえ方には現代的意義がある ── 民主連合政府

 ・市民社会は、エゴイズムの社会であり、これを国家という普遍性によって真
  の共同体にかえようとするもの


② 市民社会から未来社会へ

●"普遍的国家"としての資本主義国家

 ・ブルジョア民主主義革命は、普遍的な自由と民主主義を実現する普遍的国家
  を誕生させた

 ・しかし実体は、ブルジョアジーという特殊的階級支配の機関

● マルクス「ユダヤ人問題によせて」

 ・ブルジョア民主主義革命は、封建制のもとでの普遍的共同体(コルポラツィ
  オーン、ギルド)まで解体

 ・政治的国家は、「利己的な人間」の自由を生みだした

 ・人間解放は、真に普遍的な国家のもとで、個人が共同体と一体化する関係の
  なかで実現されるととらえた

● ヘーゲルとマルクスとは、国家と市民社会の対立と統一をどうとらえるのかに
 ついて共通の問題意識

 

2.市民社会とは何か

① 市民社会は強制国家(§182から§184)

● 市民社会は、「欲求のかたまり」(§182)としての「特殊的人格」(同)によ
 る、特殊性を原理とする社会

● しかし、市民社会は、特殊的人格相互の関係をつうじて普遍性に媒介される

 ・市民社会は、「強制国家」(§183)
  ── 特殊的人格は、市民社会から生まれる普遍的な法則(法律、経済法則)
  によって強制される

● 市民社会において、特殊性と普遍性という二つの契機には、「独自の現存在」
 (§184)が与えられる

 ・特殊性 ──「思いのままに活動する権利」(同)

 ・普遍性 ── 特殊性を支配する威力


② 特殊性の権利のもたらすもの(§185)

●「特殊性はそれだけになると、……主観的好みを自由自在に満足させるから、
 ……おのれ自身とおのれの実体的概念を滅ぼしてしまう」(同)
 →「"大洪水よ、わが亡きあとに来たれ"」(あとは野となれ、山となれ)
 (『資本論』② 464ページ)

●「市民社会は、こうした対立諸関係とそのもつれ合いにおいて、放らつな享楽
 と悲惨な貧困との光景を示すとともに、このいずれにも共通の肉体的かつ倫理
 的な頽廃の光景を示す」(§185)→「一方の極での富の蓄積は、同時に反対の
 極での……貧困、労働苦、奴隷状態、無知、野獣化、道徳的堕落の蓄積であ
 る」(『資本論』④ 1108ページ)


③ ヘーゲルのプラトン『国家』批判

● では、特殊性はすべて否定され、普遍性のみが支配すれば、真にあるべき社会
 になるのか

● プラトンの『国家』

 ・普遍性のみの支配する国家--特殊性の原理(主体的自由の権利)の否定

 ・「プラトンの国家は特殊性を排除しようとしたが、それは何の役にもたたな
  い。というのは、こうした救助策は、特殊性を解き放って自由とする理念の
  無限の権利と矛盾するからである」(§185 追加)

● ソ連、東欧の誤り

 ・「社会主義の原則を投げ捨てて、対外的には、他民族への侵略と抑圧という
  覇権主義の道、国内的には、国民から自由と民主主義を奪い、勤労人民を抑
  圧する官僚主義…専制主義の道を進んだ」(新綱領)

 ・一党支配体制のもとで、国家の普遍的原理が一切を覆いつくし、個人の主体
  的自由の原理を否定


④ 特殊と普遍との統一

● マルクスも、所有について、生産手段の普遍化(社会化)と生活手段の特殊化
 (個人的所有)の統一を

● 主体的自由の権利を保障しつつ、その「特殊性を解き放って自由とする」
 (§185追加)普遍性(国家)が求められている

 

*次回第14講は、第186節から第208節まで。