2004年 講義

 

 

第16講 国家論

 

1.革命の哲学

① 国家論における二つの評価

● ヘーゲルをめぐる相対立する二つの評価の分岐点をなすのが、第三章国家

●『法の哲学』出版当時のプロシアの政治状況

 ・1807年からの、シュタイン=ハルデンベルグの改革(上からの改革)

 ・ヘーゲルは、プロシアが官僚群により絶対主義国家から近代国家体制に移行
  することを期待

 ・1814年のウィーン体制で、プロシア改革挫折

 ・1820年カームスバートの決戦--大学の自治と自由奪われる。教授の追放

 ・1820年『法の哲学』序文、1821年出版

● ヘーゲルの本音は革命の哲学

 ・1827年「一般ドイツ実用百科事典」(ヘーゲル生存中)の「ヘーゲル」の項
  目で初期諸論文を強調
  ── フランス革命の光と影を追求

 ・「青年時代の理想は、反省形式へと、同時にひとつの体系へと変化」(シェ
  リング宛手紙)


② 国家論は、三重の意味で革命の哲学

● フランス革命を指導したルソー

 ・自由な意志にもとづく自由な国家(社会)の形成

 ・一般意志による統治の人民主権国家

 ・ルソーの理念は、一面では恐怖政治を生みだし、一面では挫折してブルジョ
  ア民主主義国家に

 ・この経験のなかから、ヘーゲルの革命の哲学が生まれてくる

ア)第一の革命 ── 一般意志による国家統治

● 挫折したルソーの一般意志による統治の実現

イ)第二の革命 ── 優秀な官僚群による一般意志の形成

● シュタインの改革に学びつつ、かつ恐怖政治を回避しようというもの

ウ)第三の革命 ── 市民社会(資本主義社会)の矛盾の克服としての政治的革命

● マルクスの市民社会それ自体の革命との違い

 

2.真にあるべき国家とは何か

① 「国家は倫理的理念の現実性」(§257)

●「倫理とは、現存世界となるとともに自己意識の本性となった、自由の概念」

 ・つまり、倫理とは自由の概念が主体的にも客観的にも実現されること

● 国家は、「実体的意志としての倫理的精神」(同)が、はっきりとした姿を現
 わすこと

 ・国家という共同体の精神(民族精神)は、普遍的実体的意志としてあらわれ
  る

 ・国家は、この普遍的実体的意志を個々人の自己意識に反映し、個々人も普遍
  的実体的意志をつうじて、実体的自由を国家のうちにもっている


② 国家は、即自かつ対自的に理性的なもの(§258)

ア)真にあるべき国家は、絶対的に理性的なものとして「現実的」(序文)

●「理性的である」とは、「普遍性と個別性とが相互に浸透しあって一体をなし
 ている」という「実体的一体性」→両者の一体化を実現するものが、普遍的実
 体的意志

イ)国家の実体的一体性において、自由は最高の権利を得る

●「即自かつ対自的な国家は、倫理的全体であり、自由の実現態である」(§258
 追加)

 ・「自由を現実のものにするということこそ世界の絶対的目的」(同)

● 個々人は、国家において最高の自由を手にするから「個人の最高の義務は、国
 家の成員であることである」(§258)

● 国家において、「客観的自由と主体的自由とが一体をなす」(同 註解)

ウ)国家と市民社会とを取り違えてはならない

● 市民社会では、個々人のê 利益(所有と人格的自由の保護)が究極目的

● しかし、国家は共同体の精神であるから、個人はこの精神を身につけ、普遍的
 生活を営むことによって「客観性、真理性、倫理性」(同)をもつ

● よって、国家の使命を個人の利益とする社会契約説は正しくない


③ 国家の理念をめぐる議論

ア)ルソーの社会契約論批判

● ルソーには、「意志を国家の原理として立てたという功績がある」(同)

 ・しかし、ルソーは、国家のもつべき普遍的意志を「個別的意志から出てくる
  共同的なものとして捉えたにすぎない」

 ・国家を個々人の恣意にもとづく契約ととらえた

● ルソーは、理性的なものではなく「個別的意志から出てくる共同的なもの」を
 国家の原理としたから、暴力による支配という「途方もない光景をひきおこし
 た」(同)

 ・個別的特殊的意志の原理は、理性的な普遍的意志に高められなければ自由に
  なれない

イ)フォン・ハラーの「国家学の復興」批判

● 国家における「偶然的なものの外面性を、国家の史的発展の諸契機ととらえず
 に、国家の実体ととりちがえる説」

 ・ヘーゲルは、富と貧困の対立を「国家の史的発展の諸契機」ととらえ、理性
  的な国家を提起

 ・ハラーは、フランス革命を激しく批判することをつうじて「国家の理性的内
  容と思想の形式」とを放棄

● ハラーの主張は、「より力のある者の支配こそ神の永遠の秩序」というもの

 ・いっさいの法律、立法に対する「心からの憎しみに身を委ねてしまった」も
  の

 

3.国家論の構成

① 国家の理念(有機的一体性)の現実化 ── 体制ないし憲法(A国内公法)

② 諸国家間の関係における理念 ──(B国際公法)

③ 国家の普遍的理念
  ── 世界史のなかでおのれの現実性をあらわす精神(C世界史)

 

*次回第17講は、第260節から第274節まで。