2004年 講義
第18講 主権在民の人民主権国家
1.『法の哲学』の国家体制① 憲法の下に、君主権、統治権(司法権、福祉行政権を含む)、立法権 ● 君主の権力も、「憲法および法律の普遍性」(§275)のもとに ● しかし、君主は、国家意志の最終的決定者として、統治権の頂点に ・君主を補佐する最高審議職(§283) ・政府と諸官庁は、最高審議職の指揮下に入り、最高審議職が統治行為に対す ● 統治権の中心を担うのは、普遍的身分を代表する最高審議職を頂点とする官僚 ・「教養ある知性と合法的な意識」(§297)を持つ官僚は、「国家の柱石」 ● 立法権は、憲法を前提とした法律を制定する権力(§298) ・憲法は、「立法権によってじかに規定されるものの圏外」(同) ・市民社会の職業身分を反映した身分制議会(土地貴族の上院、商工業身分を ・議会の主たる役割は、政府(国家)と市民社会との媒介(§302) ・一般意志による統治という国家精神のもとでは、立法権と統治権の区別も相 ・議会は、最高官吏のオンブズマン(§301)
● ヘーゲルの官僚中心の国家体制は、民主制への批判から生じている ● 民主制批判の二つの側面 ⅰ)恐怖政治の経験から、人民全体(集団としての人民)への不信頼 ⅱ)理性的国家は、恣意(諸個人の特殊的意志)の寄せ集めからは生まれない
2.ヘーゲルの主権在民論批判① 世論と人民をどうみるか ●「諸個人のたんなる原子論的な群れ」(§273 註解)は国家体制をつくりえない ● 世論 ・「世論はそれ自身の現存する矛盾、現象としての認識」(§316) ・「世論のなかでは、真理と限りない誤謬とがきわめて直接的に結合」(§317) ・「世論は、尊重にも、軽蔑にも値する」(§318) ・世論のなかに、一般意志も存在するが、「この実体的なものは、世論からは ● 人民 ・人民(個々人の集まり)は、「定形のない塊り」であって、「その動きとふ ② 普通選挙制と代議制をどうみるか ● 普通選挙制は、無関心層を増大させ、一党一派の手中に陥り、偶然的利益に支 ● 議会は、人民の一般意志を理解しない ・一般意志の理解は、「深い認識と洞察の結実」であり、最高官吏の方に適正 ・プロシアの「シュタインの改革」を念頭に
●「君主主権に対立させられた国民主権は、国民についてのめちゃな表象に基づ
3.ヘーゲルの主権在民論批判の批判① 人民主権国家をどうやって実現するのか ● ヘーゲルは、真にあるべき国家を一般意志による統治、治者と被治者の同一 ● しかし、問題はどうやって、理性的意志である一般意志を形成するのかにある
● 人民の一般意志は、人民のなかから生まれなければならないと同時に、人民か ・この矛盾をルソーもヘーゲルも解決しえなかった ・ヘーゲルは一般意志を発見する「時代の偉人」を官僚群におきかえることに ● プロレタリアート執権論 ・人民の意志を一般意志という「定形のある塊り」に導く、組織された労働者 ・これにより、一般意志は、人民のなかから生まれ、人民をつうじて形成され ・1843年夏のマルクスはまだ、ヘーゲルの「定形のない塊り」を正面から批判 ・1843年末の「ヘーゲル法哲学批判序説」ではじめて、「定形のない塊り」の
・社会共同体を発展させるルールが民主主義 ・民主主義的原則の一つが、社会共同体の意志は全体意志で決定するという手 ・しかし、多数決は必ずしも真ならず ● 他方で一般意志にもとづく統治は、治者と被治者の同一性を実現する民主主義 ● マルクス、エンゲルスのプロレタリアート執権は、主権在民と人民主権という ・主権在民 ── 普通選挙にもとずく民主共和制 ・人民主権 ── 一般意志による統治 ・労働者階級とその政党の導きにより、主権在民を人民主権に結びつけ「主権 ● 日本共産党の「国民が主人公」の国家は、主権在民と人民主権の両者を含む
4.国際公法と世界史● 国家は、対外的には、国家主権をもつ独占国家 ● 国家間の関係は、条約(国家間の契約)または戦争によって規定される ● 国家間の特殊性は、「普遍的精神すなわち世界の精神」によって支配される ・世界精神としての国連憲章 ● 世界史は、「精神の自己意識と精神の自由との必然的発展」(§342) ・世界精神は、自由な精神から生まれる真理のもつ力によって威力を示す ・イラク戦争における国連の役割
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