『ヘーゲル「法の哲学」を読む』より

 


あとがきにかえて

 高村是懿著、広島県労働者学習協議会編の著作もこの『ヘーゲル「法の哲学」を読む』で五冊目となりました。
 第一冊目出版の契機となった広島県労働者学習協議会の哲学ゼミナールで、ヘーゲル『小論理学』の難解な用語と格闘したのがついこの間のことのような気もしますし、長い年月が経ったような気もします。悪戦苦闘の連続でしたが、「概念論」まで読み進んだころには、ヘーゲルの発生論的方法と弁証法への理解が深まり、ヘーゲルの論理学を「社会と自分自身の『あるべき姿』とを変革の立場で重ね合わせる」生き方の問題として捉えることができるようになっていました。
 そして一九九九年、編集委員会をつくり、この学習の成果を全国の仲間のものにと、『ヘーゲル「小論理学」を読む』(学習の友社)を出版しました。その後、高村哲学ゼミナールは、すべて高村是懿著、広島県労働者学習協議会編の著作として、世に送り出されることとなりました。『変革の哲学・弁証法』(二〇〇一年、学習の友社)では、レーニンの『哲学ノート』を読んで弁証法のおいをしながら、哲学とは何かを学びました。『人間解放の哲学』(二〇〇三年、学習の友社)では、人間の類本質である「自由な意識」と「共同社会性」について学び、それを疎外するものは何か、そして疎外からの解放のみちすじを探究して、「科学的社会主義こそ、人間解放をめざすヒューマニズムの理論である」という結論に到達しました。『科学的社会主義の源泉としてのルソー』(二〇〇四年、一粒の麦社)では、フランス革命を導いたルソーの思想を検討し、科学的社会主義への継承・発展について考察しました。
 こうして広島県労働者学習協議会では、編集委員会で高村さんとともに哲学講座の中身を充実、発展させ、出版を重ねてきましたが、昨年九月に念願の出版社、「一粒の麦社」を設立しました。広島における「学ぶ喜び」「論ずる喜び」の発信基地でありたいという私たちのねがいを実現したものです。本書『ヘーゲル「法の哲学」を読む』は、「一粒の麦社」の二冊目の本としてみなさんにお届けするものです。

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 本書のもとになった哲学ゼミナール「ヘーゲル『法の哲学』に学ぶ」は、受講生の『人間解放の哲学』のなかで学んだことをさらに源泉にたちもどってより深く学びたいという思いを受けて開講したものです。広島市内での教室とともに、CDと講義録で学ぶ通信講座も併設し、全国から大勢の方に受講していただきました。
 難解な文章を、まるで外国語を翻訳して読み聴かせるような高村さんの講義に感嘆し、ヘーゲルの人間に対する洞察の鋭さや、発生論的方法の妙、弁証法的展開の面白さに魅了されました。討論のなかでは、ヘーゲルの今日に通じる問題提起に触発されて、現代社会のあり方に憤ってみたり、自らの変革の立場を問い直してみたり…。話が尽きないこともありました。ヘーゲルの自由論の奥深さへの感銘や、『小論理学』で学んだヘーゲル弁証法が生きた形で展開されていることへの感激が語られ、有意義な時間を共有することができたと思います。ルソーからヘーゲルへ、そしてマルクス、エンゲルスへと人間解放の思想、理論が継承・発展されるのを強く感じ取ることのできる講座でした。
人間らしく生きることが無惨にも踏みにじられ、自分らしく生きることがひどく難しい今日の社会。そういう現代社会と正面から向きあい、人間の尊厳と個人の尊厳が守られ、人間が人間らしく、その人がその人らしく生きることのできる「真にあるべき社会」をめざしてたたかうことが求められています。そのためにもヘーゲルのいう学習という「厳しい労働」を積み重ねて自ら陶冶することを、情勢は私たちに求めているのではないでしょうか。

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 『ヘーゲル「法の哲学」を読む』は、高村さんの長年の研鑽の到達点を少しでも理解しやすいものにするために、編集委員会で討議を重ね、そのなかで理論的にも発展し、より充実したのものとなりました。新しい問題提起も含め、自信をもって世に問えるものになったと確信しています。
 二〇〇年近く経って、ようやく真意を評価されつつあるヘーゲルも、この著作とともに得心の内に眠ることができるのではないでしょうか。
 今、私たちは歴史の逆流に直面しています。確固とした信念をもって、まっすぐ前を向いて歩いていくためにも、学習の必要性、学習教育活動の重要性を痛感しています。本書が今まさに求められている書として、広くより多くの方に愛読されることを願うものです。

二〇〇五年 八月 六日 被爆六〇周年の日に  
  編集委員会を代表して
               竹森 鈴子

 

 

 

● 編集委員
 垣内真・権藤郁男・佐田雅美・竹森鈴子・平野光子・平本憲一・二見伸吾・山根岩男・山本一人