2005年8月23日 講義
第9講 資本の回転(第2篇)
1.資本の回転とは何か
① はじめに
● なぜ循環と併せて回転が論じられるのか
● 資本の循環と資本の回転の同一と区別の統一
・資本の生産過程と流通過程の統一としては同一
・資本の循環は流通期間の短縮による剰余価値の増大、資本の回転は回転速度
の増大による剰余価値の増大として、区別される
② 剰余価値の年率
● 剰余価値の生産を一年単位(決算単位)でみる
● 剰余価値の年率= 一年間の資本の回転数×剰余価値率/前貸し可変資本
= 一回転の剰余価値*1年間の資本の回転数/前貸し可変資本
= 1年間の資本の回転数*剰余価値率
● 一年間の剰余価値の総量は、同じ資本価値をもつ資本でも回転数によって異な
る
● 剰余価値の年率を考えるうえで、固定資本と流動資本の区別が重要となる
2.固定資本と流動資本
① 固定資本、流動資本とは何か
● 生産資本における回転の相違からみた区別
・流動資本(原材料と労働力)――資本の一回転で、その価値は全部生産物に
移転
・固定資本(工場、機械)――一回転でその価値は一部しか生産物に移転(償
却)せず、残りの価値は現物形態にとどまる
● 同じ生産資本のなかの区別ではあっても、可変資本と不変資本の区別は剰余価
値を生産するか否かの区別であるのに対し、流動資本と固定資本の区別は回転
に伴う価値移転の違いによる区分
② 固定資本と流動資本の区別を論ずる意義
1)古典派経済学の誤りを克服
・スミスは可変資本と流動資本を混同することにより、「剰余価値形成と資本
主義的生産との全秘密」(⑥ 345 / 221ページ)を消し去る
2)固定資本が現物形態にとどまるかぎり、生産資本ではあっても、非生産的、
逆算的資本であることを明らかに
・現物形態の固定資本は価値形成に寄与しないだけでなく、「モラーリッシュ
の摩滅」(⑥ 265 / 170ページ)の対象に
3)固定資本の平均償却年数は恐慌の期間を規定する
③ 「固定資本と流動資本」の学説史
● 否定の否定による認識の弁証法的発展の歴史
● ケネー――農業生産資本の回転の仕方の違いに注目して、「原前貸し」と「年
前貸し」を区別
● スミス、リカードウ――最初の否定
・唯一の進歩は「諸カテゴリーの一般化」――原前貸しは固定資本、年前貸し
は流動資本に
・あらゆる資本の区別をごちゃまぜにして、すべてを固定資本、流動資本で裁
断
・流動資本と流通資本(貨幣資本、商品資本)とを混同――回転速度の増大に
よる固定資本の早期償却をとらえられず
・流動資本を可変資本と混同――資本主義的搾取の秘密を隠蔽
● マルクス――否定の否定
・ケネーの生産資本内部の区別を生かしつつ、同一と区別の統一の弁証法を駆
使して、固定資本と流動資本の概念を純化
・スミスの「流動資本」から、「可変資本」としての労働力と「不変資本」と
しての原材料を区別
・労働力と原材料は価値移転の点で同一だからスミスの誤りが生じたことを説
明
3.資本の回転上の制限と当為
① 資本の生産・流通上の制限と当為
● 労働期間の長い生産部門では、資本の回転が遅いため、巨大な前貸し資本を
要するという制限――株式会社と信用制度という当為
● 生産過程における自然過程による労働時間の中断の制限――技術革新による
当為
● 通流時間の制限――輸送・交通手段の発達による当為
② 資本の回転における前貸し資本の制限と当為
● 通流時間が生産時間を中断する制限――追加資本による連続生産の当為
● 回転期間の短縮は貨幣資本を遊離するか――マルクスの錯覚。銀行資本によ
る信用創造に金融肥大化の原因
③ 可変資本の回転
● 剰余価値の年率増大のための回転速度の増大
● 生産資本の回転によって剰余価値の年率が規定されるところから、剰余価値
は流通過程から生まれる仮象が生じる――リカードウ学派崩壊の原因
● ビッグ・プロジェクトでは生産資本への圧迫が生じ、市場の撹乱要因となる
4.剰余価値の流通
① 剰余価値分の流通に必要な貨幣はどこから生じるか
――剰余価値分も含めて資本の回転はうまくいくのか
● 剰余価値分の流通は追加貨幣を必要とする
諸商品の価値総額
● 流通に必要な貨幣量= ──────────────────
貨幣の流通回数×流通する貨幣総量
● 必要貨幣量を超過する貨幣は蓄蔵貨幣に
● 追加貨幣は、蓄蔵貨幣から流出する
② 剰余生産物の買い手はいるのか
● 第3篇再生産論の課題
● この問題を考えるうえでは、貨幣流通の源泉となる二大階級間の貨幣流通を
考えるだけでよい
● 剰余価値の資本家相互間の流通から信用制度が生まれる
・資本家の蓄蔵貨幣は、銀行資本の手に集中し、利子生み資本となり、資本家
は剰余価値の分け前を手にする
*次回は第3篇(第7冊)です。
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