2005年9月13日 講義

 

 

第10講 社会的総資本の
     再生産と流通(第3篇)

 

1.はじめに

① 第1、2篇と3篇との関係

● 第1、2篇の主題は、個別資本のもつ循環、回転上の制限と当為

● 第3篇の主題は、社会的総資本の制限と当為

 1)社会的総資本は、生産された商品のすべてについて買い手を見出しうる
   のか――社会的総資本としての拡大再生産の可能性と条件

 2)社会的総資本の再生産条件の撹乱による恐慌の必然性


② 社会的総資本の運動とは何か

● 社会的総資本の運動は、「個別諸資本の回転の総体から成り立つ」
 (⑦ 556 / 352ページ)

● 社会的総資本の運動の特徴

 1)単に資本の循環のみならず、一般的商品流通を包括する

 2)個別諸資本の循環のからみ合いにおいて社会的総資本の運動がとらえられ
   る

 3)社会的総資本の運動としては、生産手段と労働力の価値的補填と素材的補
   填が求められる

 

2.社会的再生産の学説史

① 再生産論のポイント

● 社会的総資本の運動は、商品資本の循環の形態において考察される

 1)W' =c+v+m ――すべて商品形態(素材的形態)としてある

 2)c、v、mは素材的に生産手段や労働力として補填されねばならない
   ―― 生産手段の生産諸部門と消費諸手段の生産部門の区別

 3)二つの部門のc、v、mが一定の比率で釣り合わねばならない

● 学説史――否定の否定の発展法則


② 重農学派ケネー

● ケネーの「経済表」は、「資本主義的生産の最初の体系的把握」
 (⑦ 569 / 359ページ)

● 商品資本が社会的再生産の出発点ととらえられ、農業と工業という二大生産
 部門の商品交換を、地主の地代ともからませて価値的、素材的に補填


③ スミス――ケネーの否定

● ケネーの重農主義を否定し、労働価値説にたって資本主義的再生産を一般化
 してとらえようとした

 ・生産諸手段( Ⅰ 部門)と消費諸手段( Ⅱ 部門)に区別

 ・Ⅰ のvとmが Ⅱ の資本として機能することを明らかにした
  →スミスは、「核心に迫っていた」(⑦ 585 / 369ページ)

● スミスの欠陥

 ・個別資本はc、v、mに分かれるとしながら、社会的総資本としてはv、m
  に分解されるとした

④ マルクス――スミスを否定し、ケネーの再生産論の立場を
        復活させる否定の否定

● 反駁とは、より普遍的立場から、批判の対象を普遍のもとに包摂される一つの
 特殊的契機にすぎないことを明らかにすること

● スミスの誤りは、労働価値説をつらぬこうとしながらも、労働の二面性(価値
 移転と価値創造)を理解しないところにあったと批判

 

3.再生産表式

① 単純再生産表式

● Ⅰ 4000c +1000v +1000m =6000
 Ⅱ 2000c + 500v + 500m =3000

● Ⅰ 4000c は、Ⅱ の個別資本相互間で交換により消費

● Ⅰ の1000 と1000 は、生産手段の v m 素材的
 ――消費手段と交換されねばならない

● Ⅱ の 2000c は、消費手段の素材的形態――生産手段と交換されねばならない

● Ⅰ(v+m)= Ⅱcの交換により、Ⅰ 、Ⅱ とも価値的、素材的に補填

● Ⅱ の 500 v と 500m の Ⅱ の労働者と資本家によって消費
 →均衡条件は、Ⅰ(v+m)= Ⅱc

● 貨幣の還流

 ・Ⅰ の資本家は、Ⅰ の労働者に1000vを支払い、労働者はそれで Ⅱ 1000c の消
  費手段を購入

 ・Ⅰ の資本家は、自分の手にする1000m でⅡ1000c の消費手段を購入

 ・Ⅱ の資本家は手にした2000の貨幣でⅠ(v+m)の生産手段を購入
  ――貨幣はⅠの資本家に還流

 ・Ⅰ 4000c と Ⅱ 500v, 500m は、それぞれ内部交換で貨幣還流→不破氏、特別
  に論ずる意義なし。生産物の移動は、同じ額の貨幣が反対方向に移動


② 拡大再生産表式

● Ⅰ 4000c+1000v +1000m=6000
 Ⅱ 1500c +750v +750m =3000→均衡条件は、Ⅰ(v+m)>Ⅱc


③ 拡大再生産均衡条件の展開

● mの一部は蓄積、一部は消費に
 ・mはm(c)+ m(v)+ m(m)に分解される
 ・Ⅰ 1000m のうち 500m が蓄積に
 ・500m は、Ⅰ c:v=4:1の比率で、400m(c)+ 100m(v)
  → Ⅰ 4400c〔4000c + 400m(c)〕+1100v〔1000v + 100m(v)〕
   +500m(m)= 6000 4400c +1100v +1100m = 6600(二年目)

● Ⅰ 部門の蓄積は Ⅱ 部門の蓄積を規定する

 ・Ⅰ 100m(v)はそれに相当するⅡ 100m(c)を求める

 ・Ⅱ 100m(c)はⅡ c:v=2:1の比率で Ⅱ 50m(v)を必要とする

 ・したがって Ⅱ 750m =100m(c)+50m(v)+600m
  →Ⅱ 1600c〔1500c+100m(c)〕+800v〔750v+50m(v)〕
   +600m(m)=3000
   Ⅱ 1600c +800v +800m =3200(二年目)
  →よって展開された均衡条件は Ⅰ v+m(v)+m(m)= Ⅱ c+m(c)
  〔Ⅰ 1000v +100m(v)+500m(m)=Ⅱ 1500c +100m(c) 〕


④ なぜ等式が不等式で示されるのか

 Ⅰ(v+m)= Ⅰv+m(c)+m(v)+m(m)
 Ⅰ v+m(v)+m(m)= Ⅱc+m(c)
 ∴ Ⅰ(v+m)> Ⅱc〔c+m(c)〕

 

4.再生産表式の意味するもの

● 再生産表式は「もっとも抽象的な表現」(⑦ 818 / 501ページ)

● 再生産表式に影響する様々の要因の捨象

 ・とくに労働力の価値どおりの販売を前提

 ・この前提は、資本蓄積の一般的法則のもとで崩れる

 ・そうなれば、再生産表式全体に撹乱が生じる
 
● 再生産の「正常な進行の諸条件」は「異常な進行の諸条件に、すなわち恐慌の
 可能性に急転する」(⑦ 801 / 491ページ)→均衡は偶然、恐慌は必然

 

 

*次回は恐慌論 ①です。