2005年9月27日 講義
第11講 恐慌論 ①
1.恐慌論の道具立て
① 恐慌の可能性、根拠、運動論
● 第11、 12講で恐慌という資本主義の"不治の病"を理論的に解明
● 不破『資本論』の恐慌論の組み立て
・恐慌の可能性、恐慌の根拠・原因、恐慌の運動論という三つの観点から、恐
慌論を組み立てる
・哲学的カテゴリーとしては、可能性と現実性、根拠(原因)と帰結(結果)
・「運動論」は不破氏の独自の概念
● マルクスの「61〜62年草稿」で使用されているカテゴリー
・可能性と現実性
・事柄と条件
・根拠、原因
● 問題は、恐慌の「必然性」の解明にある
・「資本論の弁証法」は、恐慌論で最も威力を発揮する
② 可能性と現実性、偶然性と必然性
● ヘーゲル『小論理学』に学ぶ
1)可能性と現実性
●「現実性」とは、「内的なものと外的なものとの統一」
・内にあるものが、外にあらわれでたものが現実性
・現実のなかには、一時的・偶然的現実(単なる現存在)もあれば、本質的
・必然的現実(真の現実)もある
●「可能性」とは、内にあって、外にあらわれうるもの
・内にあるものが、現実性となっても矛盾はない(おかしくない)という「或
るものが自己矛盾を含まないということにすぎない」(『小論理学』85
ページ)
・すべてのものは、矛盾を含まないかぎり、可能であると同時に不可能
・「このような可能、不可能の議論ほど空虚なものはない」(同)
→抽象的可能性
2)偶然性と必然性
●「偶然性」とは、抽象的可能性が外にあらわれでて現存在を獲得したもの
・偶然的なものは、たまたま他のものの力を借りて生まれた一時的なものにす
ぎない
・偶然的なものは自分の力で生まれたわけではないから、他のものとして生ま
れた可能性もある
・偶然的なものは一時的なものだから、そのまま亡びることもあれば、他のも
のに吸収されて亡びることもある
・偶然的なものが他のものに吸収されるとき、それは「有るものとしての可能
性であり、かくしてそれは条件である」(同 92,93ページ)
●「必然性」とは、諸条件(事柄、条件、活動)が揃ったとき、他のものの力を
借りないで、そのようなものとして生まれるべくして生まれた現実性
・「事柄」とは、現実性の内容を規定する本質的条件――「事柄は内容諸規定
によって自己を事柄として示すとともに、また諸条件から出現するものであ
る」(同 101ページ)
・「条件」とは事柄と結びつき、事柄に吸収されながら事柄を現実性に転化さ
せるのに役立つ非本質的条件――条件は、自らは亡んで他のものである事柄
のうちに生きる→事柄と条件の結合から生まれる可能性が「実在的可能性」
(同 94ページ)、「具体的可能性」
●「活動」とは具体的可能性を現実性に転化させる働き「事柄に存在を与える運
動」(同 101ページ)
● 事柄、条件(両者を合わせて具体的可能性)と活動が結合して生まれる現実性
は「外的必然性」
・他のものの力を借りないで自己産出するといっても、三つのモメントに媒介
されて現実性となるところから外的必然性とよばれる
・これに対して「内的必然性、 」とは、全く自力で自己産出して現実性となる
必然性
3)根拠と帰結(根拠づけられたもの)、原因と結果
●「根拠」と帰結(根拠づけられたもの)とは、あるものを、内にあるものと
外にあらわれたものとの関係において「二重にみよう」(同 36ページ)と
するもの
・内にある根拠が外にあらわれると、帰結(根拠づけられたもの)となる
・根拠は他のものの力を借りて帰結となる
● へーゲルは、「事柄と活動」を合わせて「根拠」とよんでいる
・事柄と活動も条件という他のものの力を借りて現実性となるところからそう
よんだものか
2.マルクスの恐慌論
① 恐慌の抽象的可能性
● 「恐慌とは、独立化した諸契機のあいだの統一の、暴力的な回復」
・「恐慌とは、独立化した諸契機のあいだの統一の暴力的な回復」
( Ⅱ 694ページ)
・商品という統一物が商品と貨幣の対立を経て「販売と購買の分離」「価値の
担い手としての貨幣と支払い手段としての貨幣の分離」に
● 恐慌の抽象的可能性
1)第一の可能性――販売と購買の分離
2)第二の可能性――価値の担い手としての貨幣と、支払い手段としての貨幣
の分離
● 恐慌の抽象的可能性は、商品流通一般の場合においてもすでに存在している
● この抽象的可能性が、具体的可能性に転化するのは、舞台を資本主義的生産様
式の場面に移さねばならない――『資本論』第一部から第二部に
② 恐慌の具体的可能性
● 『資本論』第二部で、資本主義的生産様式の全体像が取り扱われ、恐慌の抽象
的可能性は具体的可能性に転化する
・生産過程と流通過程の統一した「過程のなかに、さらに発展した恐慌の可能
性」(同 694ページ)が存在する
● 「事柄は、それ自体同時に再生産過程であるところの流通過程においてはじめ
て現われうる」(同 693ページ)
・この「事柄」はヘーゲルのいう「事柄」
● しかし、第二部では恐慌の事柄、条件は明らかになっても、恐慌は「ただ不完
全にしか説明されないのであって、『資本と利潤』の章で、その補足を必要と
する」(同 693, 694ページ)――「活動」は、第三部で
③ 恐慌の可能性から現実性へ
● 「恐慌の一般的可能性がなぜ現実性となるのかについての研究」は、「すなわ
ち恐慌の諸条件の研究」(同 695ページ)
・この場合の諸条件は、事柄、条件、活動の全体を意味するもの
● 「だれでも恐慌の原因を問う場合には――なぜ恐慌の抽象的な形態、恐慌の可
能性の形態が、可能性から現実性になるのか、を知ろうとしているのである」
(同 696ページ)
・この場合の「原因」は、「事柄と活動」のみならず、「条件」をも含むもの
と解すべき
*次回は恐慌論 ②です。
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