2006年9月23日 講演
● 聴 講(1:02:32)
『「資本論」の弁証法』出版記念講演
「資本論」を弁証法的に読み解く
1.経済学者でも研究者でもないのに、
なぜ『「資本論」の弁証法』を出版したのか
●『資本論』を読み通し、全体を理解するのは難しい
・文章も難しいし、13冊の大部
・「労働者階級の聖書」として、多くの人が何度となく挑戦しながら、途中で
挫折
・科学的社会主義の古典中の古典でありながら、「定年になって暇ができた
ら」、「死ぬまでに一度読み通してみたい」、何年もかけて苦労しながら読
む古典にとどまっている
● 『資本論』を弁証法的に読み解けば、分かりやすく全体をとらえうるのではな
いか、の問題意識
・『資本論』「あと書き〔第2版への〕」のなかで、わざわざ、「資本論の方
法」は弁証法だと述べられている
――マルクスはヘーゲルの『法の哲学』に倣ったもの
・その方法を使って読み解けば、マルクスの論理の展開を骨太くとらえうるの
ではないか
● レーニンはそれを実現しようとしたが、時間的余裕がなかった
・『哲学ノート』――「ヘーゲルの〈論理学〉全体をよく研究せず理解しない
では、マルクスの〈資本論〉……を完全に理解することはできない」
・レーニンの意志を引き継ごうとした者はいたが、実現されず
・ローゼンターリ、イリエンコフの『資本論の弁証法』、見田『資本論の方
法』、角田『資本論の方法とヘーゲル論理学』←いずれも『資本論』のなか
にあれこれの弁証法的カテゴリーを見出そうとするもの
● この前人未踏の課題に挑戦したい
・『資本論』を弁証法的に読み解くのなら高村にも可能なのではないか
・それによって『資本論』の解釈に新しい視点を盛り込めるのではないか
・この課題に挑戦したのは正解だったと思われる
● 現行の労働者が読み通し、理解しうる『資本論』に
2.『資本論』を弁証法的に読み解くとは、
何を意味するか
① 「一つの芸術的全体」
● 「たとえどんな欠陥があろうとも、僕の著作の長所は、それが一つの芸術的全
体をなしているということなのだ」(全集 111ページ)
・それが「弁証法的に編成された」著作の特徴
● 真なるものは「必然的に体系」(『小論理学』14節)「真なるものは具体的
なものであって、それは自己のうちで自己を展開しながらも、自己を統一へと
集中し自己を統一のうちに保持するもの、一口に言えば統体としてのみ存在す
る」(同)
・「絶対者の学は必然的に体系でなければならない」(同)のであって「非体
系的な哲学的思惟は、……主観的な考え方にすぎないのみならず、その内容
から言えば偶然的である」(同)
② 萌芽からの発展
● 最も単純なもの、低度のものから出発しながら、次第により複雑なもの、高度
なものへと論理を弁証法的に発展させることにより、体系を構築していく
・一つひとつの論理を並列的、継起的に「また」によって結合するのは、偶然
の寄せ集めであって真理ではない
・一つの概念、カテゴリーから、次の概念、カテゴリーへの移行における弁証
法的展開を積み重ねることによって、「萌芽からの発展」が明らかにされ、
全体が一本の木という体系として完成される
③ 『資本論』は資本主義的生産様式の生成、発展、消滅の必然性を
明らかにした著作
● 最終目的は「近代社会の、 経済的運動法則を暴露すること」(① 12ページ)
●『資本論』を弁証法的に読み解くとは、資本主義的生産様式の運動法則をとら
え、資本主義の「萌芽からの発展」の法則を解明し、その没落の必然性を明ら
かにするという骨太い論理的構成と展開を浮き彫りにすること
3.『資本論』を弁証法的に読み解くことで
何が得られたか
① 資本主義とはなにか
● 第1部「資本の生産過程」
第2部「資本の流通過程」
第3部「資本主義的生産の総過程」
● この全体の構成をどうみるか
・第3部は、資本主義の現にある姿(現実性)をとらえたもの
――現代資本主義とは何かを問題としている
・「全体として考察された資本の運動過程から生じてくる具体的諸形態をみつ
けだして叙述すること」(⑧ 46ページ)
・となると、第1部、第2部は、資本の本質をとらえたものということに
・第1部は、資本と資本主義の本質をとらえたもの。第2部は、自己増殖する
資本の運動の本質をとらえたもの――
● 第1部では、資本主義とは何か、という資本主義の本質が語られなければなら
ないのに、その項目が表面上は存在しない
・しかし内容としては、とりあげられており、それが「独自の資本主義的生産
様式」
● 資本主義とは、剰余価値の生産を推進的動機として(利潤第一主義)、機械制
大工業のもとで、生産力を高めることにより、相対的剰余価値の生産を競い合
う弱肉強食の社会
・利潤第一主義という資本の本質
・絶対的剰余価値の生産は、生理的、社会的限界
→生産力を発展させることによる相対的剰余価値の生産
・資本主義とは、利潤第一主義という資本の本質から生産力の発展を競い合う
社会
・生産力の高い資本のみが生き残る弱肉強食の社会
② 資本における「制限と当為」の弁証法
● 第2部は、第1篇「資本の循環」、第2篇「資本の回転」、第3篇「社会的総
資本の再生産と流通」
・ 第2部全体の主題と構成をどうつかむかが問題
● 第3篇が社会的生産と恐慌を述べているのは分かるが、第1篇、第2篇の主題
がなかなかつかめない
・これを「制限と当為」という弁証法的カテゴリーを使って読み解くと分かり
やすい
・資本は循環、回転のなかで、貨幣資本、生産資本、商品資本と資本の形態を
変化させていくが、剰余価値を生みだすのは生産資本のみ
・この制限を打ち破っていかに剰余価値の生産を増やすかという当為の問題
が、循環、回転の主題
・この資本の当為が、資本主義的矛盾を激化させる
③ 恐慌論
1)恐慌の可能性と現実性、偶然性と必然性
● 恐慌は資本主義固有の不治の病
――この必然性を解明するのが『資本論』の大きなテーマ
● 恐慌の必然性を解明するうえで、ヘーゲル弁証法の、抽象的可能性と具体的可
能性、可能性を現実性、必然性さらには差違・対立・矛盾などのカテゴリーが
役立ち、これにより恐慌の弁証法を正確につかみえた
2)恐慌は社会的総生産と総消費の矛盾から生まれる
● マルクスは一定の条件のもとでは、生産と消費はバランスを保ちうることを明
らかにした(再生産表式)
・ 資本は、生産力を発展させ、拡大再生産をくり返しても、自ら拡大消費をも
生みだしうる
● そのバランスの崩れる最大の理由は労働力の価値以下の販売商品価値どおりに
販売される・ という市場原理のもとで、なぜ労働力は価値以下でしか販売され
ないのか
・マルクスはその理由として、資本主義的蓄積の絶対的法則としての産業予備
軍の形成をあげている
・しかしそれと同時に、労賃が後払いされることにより、労働力の対価ではな
く労働の対価という仮象になり、労賃が人間らしい生活を保障するにたるも
のという労賃の本質から切りはなされ、資本家の恣意的決定を可能とする
――ワーキングプアーを生みだす根源
3)恐慌は、生産と消費の矛盾の一時的、暴力的な解決
● 恐慌は、社会主義への移行の必然性を示すものではない
● 恐慌は、矛盾の一時的、暴力的解決にすぎず、根本矛盾の根本的解決ではない
④ 第3部第15章「この法則の内的矛盾の展開」は、『資本論』の結論部分
1)一般的利潤率の傾向的低下の法則
● マルクスは、資本主義の本質から生まれる生産力の発展は、一般的利潤率の傾
向的低下をもたらし、利潤(剰余価値)の生産に血眼の資本に脅威と不安を与
えることを明らかに
・ 恐慌論の枠内でみる限り、資本主義は生産と消費の矛盾とその解決をくり返
す永久運動になってしまう
● その制限を打ち破るために、さらに資本は利潤総量の増大に血道をあげ、資本
主義的矛盾を激化させる
2)資本主義的諸矛盾の激化
● 資本(富)の集中と貧困の蓄積の矛盾
● 生産と消費の矛盾
● 資本の過剰と労働力の過剰の矛盾――モノづくりからマネー・ゲームに
3)「資本主義的生産の真の制限は資本そのもの」(⑨ 426ページ)
● 資本の本質は利潤第一主義
・それが生産力を発展させ、資本主義的生産様式をもたらした
・しかしこの資本の本質は、資本主義的諸矛盾をもたらし、一般的利潤率低下
の法則がそれを加速する
● こうして、資本の利潤第一主義そのものが「資本主義的生産の真の制限」とな
る
● 資本そのものは、この制限を打破することはできないのであり、階級闘争のみ
が、この制限を打破する
⑤ 実体経済と偶有経済
● 『資本論』第3部第5篇「信用論」についてはエンゲルスの編集上の問題も
あって、マルクスの意図をつかみにくい
● マルクスが、「信用・架空資本」(⑩ 680ページ)ととらえていることに注目し、「実体と偶有」の弁証法的カテゴリーをつうじて「信用論」を論じた
● 信用論の主体となるマネーの大半は架空資本
● 信用制度の中心をなすのが株式会社
・株式会社は、一面では「資本主義的生産の最高の発展」をもたらすと同時
に、その架空性により「ぺてんと詐欺の全体制を再生産する」(⑩ 760
ページ)――エンロン、ワールドコム、ライブドアの粉飾決算
・株式会社は、資本主義的生産様式が「"明らかに"新たな生産形態への単なる
通過点」(同)であることを示すもの
● 架空なマネーは、金融肥大化をもたらし、バブル経済とマネー・ゲームをもた
らす
・モノづくりという実体経済から、マネー・ゲームという架空経済に移行する
ことにより、金融危機を引き起こす「世界は地・ 獄に落ちつつある」
(米・サマーズ財務長官)
⑥ 資本主義的矛盾は、資本そのものを揚棄しないかぎり根本的に解決しえない
1)矛盾は激化せざるをえないのであり、矛盾を揚棄することによってのみ解
決しうることへの世界観的確信を
● 資本主義は、利潤第一主義により、貧富の格差を全世界的に拡大し、全世界的
に生命の存亡に関わる貧困を蓄積し、永続不可能な経済体制
● 「21世紀型危機」――「グローバル化する金融経済のもとで、国際社会にお
ける富の分配も、モノの取引がさかんだった時代よりも急速におこなわれるよ
うになったので、各国の経済格差は一層拡大してきている。問題の深刻さは、
途上国の累積債務問題を超えて、生命の存亡に関わる」(山田『これならわ
かる金融経済』109ページ、110ページ)
● しかも、この格差は、年々さらに加速しつつ拡大してきている
2)世界的に「新自由主義」に反対する運動の広がり
4.『資本論』を弁証法的に読み解く試みは
正解だった
● これにより、『資本論』全3部の論理を骨太く「萌芽からの発展」としてとら
えることができたし、資本主義の没落の必然性もしっかりつかまえることがで
きた
● 全3部の流れがつかめたので、全体を要約する「資本論を鳥瞰する」も出版す
ることができた
・これは「1時間で分かる資本論」と題して講義したものをブックレットにま
とめたもの
● この2冊を手引きにしながら『資本論』を是非現役のうちに労働者に読んでも
らい、文字どおりの「労働者階級の聖書」にしてほしい「格差社会」の現代日
本においてこそ『資本論』は読まれなければならない
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