2006年6月13日 講義
第1講 ヘーゲル哲学とは何か
1.はじめに
● 全20回で『小論理学』(岩波文庫)をテキストに、ヘーゲル弁証法を学ぶ
・前回の40回を、今回は20回で
・しかも今回は「序論」「予備概念」も含めて
・さらに、難しいヘーゲルを労働者に分かりやすく
● この矛盾する要請にこたえるために、講義用テキストと講義の二本立てに
・講義用テキストは、できるだけテキストに忠実に
・講義は、分かりやすさを中心にポイントを絞って
● 事前に次回講義用テキストを配布
・予習して講義に臨んで欲しい
・講義90分、討論40分、感想(質問も)文20分と、受講生との意見交換重視
2.ヘーゲル哲学の本質
● フランス革命の光と影をリアルタイムで経験
・1818.10 プロイセンの上からの改革の波でベルリン大学に
・1819.8 カールスバード決議でプロイセン反動化→奴隷の言葉でフランス
革命の精神を語る→1829ベルリン大学総長に。反動的プロイセン王国の国
定哲学に(ヘーゲルの精神とその社会的地位との矛盾)
● ヘーゲル哲学の本質は、その革命的性格にある
● 『法の哲学』(1820)
・その国家論に革命的性格
・それを観念論的装いでおおい隠す
● 『小論理学』
・1812~16 『大論理学』
・1817.6 『エンチクロペディー』
・1827 同第2版(約2倍に)
・1830 同第3版→奴隷の言葉でその革命的本質を隠すために大幅改訂をし
たのではないか→どこにその革命的性格があり、どこにそれをおおい隠す
仕掛けがあるのか『ダ・ヴィンチ・コード』以上の謎解きの楽しさ
3.「聴講者にたいするヘーゲルの挨拶」
●「われわれの使命と仕事は、……哲学的発展を育成すること」(15ページ)
・「最も真実なまじめさは、それ自身、真理を認識しようという真面目さに
ほかならない」(同)
・「ところがドイツにおいてさえ、……浅薄な精神は、ついに真理の認識は
存在しないことを見出し証明したと考え、そしてそれを断言するほどまで
に立ちいたっている」(16ページ)
・「理性的認識にたいするこのような断念が、これほどまでの僭越と流行に
達するほど、哲学はひどい状態におちいったことはないといっていい」
(18ページ)
● 「真理の国こそ、哲学の故国」(同)
・「人生において真実なもの、偉大なもの、神的なものは、理念によってそ
うなのである。哲学の目標は、この理念をその真の姿と普遍性において把
握することである」(同)
● 「理性にたいする信念」(19ページ)
・「真理の勇気、精神の力にたいする信頼こそ哲学的研究の第一の条件」
── 精神の偉大さ、理性に対する無限の信頼と絶対的真理に到達しうる確
信とは科学的社会主義の精神に一致する
・「精神の偉大さと力は、それをどれほど大きく考えても、考えすぎるとい
うことはない。宇宙のとざされた本質は、認識の勇気に抵抗しうるほどの
力を持っていない。それは認識の勇気のまえに自己をひらき、その富と深
みを目前にあらわし、その享受をほしいままにさせざるをえないのである」
4.序論 (1~18節)
① 哲学は真理を目指す
● 哲学は自然界、人間界全体を対象とする(1節)
● 哲学は自然界、人間界の真理をとらえる
● 真理とは客観と認識との一致(とりあえず) ── つまり真理とは認識の問題
② 哲学はどうやって真理に到達するのか
● 「対象を思惟によって考察する」(2節)
● 思惟の力によって真理に到達する
● 「哲学は表象を思想やカテゴリーに、より正確に言えば概念にかえるもの」
(3節)
・表象とは、具体的事物を自分のなかに思い浮かべイメージすること
・カテゴリーとは、具体的事物を最高度に抽象化して、事物の真理を思惟形
式のうちにとらえるもの
・目次参照 ── 有、本質、概念、有の質、量、限度などのすべてがカテゴ
リー
・『小論理学』はカテゴリーを体系化したもの 認識の深まりゆく過程を体系
化
● カテゴリーをつうじて真理の浅い段階から深い段階へと前進し、最後の「概
念論」で絶対的真理に到達する
・「概念論がはじめて真実なもの、有および本質の真理」(83節補遺 256
ページ)
③ 哲学の究極目的は、理想と現実の統一(6節)
● 「哲学の内容は現実である」(同)
・この場合の「現実」は、「単なる現象」でも「偶然的な存在」でもなく、
「必然的な現実」
・「必然的な現実」とは、「理想の現実化」
● 「自覚的な理性と存在する理性すなわち現実との調和を作り出すことが、哲
学の最高の究極目的」(同)
・哲学は、現実から出発しながら、現実を必然的な現実に作りかえる(理想
と現実の統一)
● 「理性的なものは現実的であり、現実的なものは理性的である」(同)
・理性的なもの(理念、理想)は現実となる必然性をもつ(理想から現実へ)
・単なる現象のなかに、「現実的なもの」を見出し、その「現実的なもの」
のうちに「理性的なもの」を見出さねばならない(現実から理想へ)
● 「理念と現実とを切りはなすことを好むのは、悟性的な考え方をする人々」
(同)
● 「哲学はただ理念をのみ取扱うものであるが、しかもこの理念は、単にゾレ
ンにとどまって現実的ではないほど無力なものではない」(同)
④ 理想と現実の統一は、思惟の直接性と媒介性の統一をつうじて実現される
1)思惟の媒介性から直接性へ
● 思惟は、客観的事物に媒介され、 客観的事物を認識の上に表象として反映す
る
● 反映された表象は、思惟の「反省」によって抽象化され、事物の本質、法則、
類(7,12節)を認識する
● 思惟は、これらの認識をつうじて、「現にある事物」を否定し「真にあるべ
き姿」(概念)をとらえる
・思惟は、「出発点から遠ざかり、それを否定する」(12節)
・思惟は「感性的および帰納的意識を越えて自己を自己自らの純粋な境地へ
高め」(同)、「自己のうちへ媒介された直接態」(同)となる
・思惟は、「理念のうちに……満足を見出す」(同)
2)思惟の直接性から媒介性へ
●「概念」という思惟の直接性の産物は、必然的に現実に転化する力をもつ
・思惟が「理念の普遍性から一歩も進まないならば、それは当然公式主義の
非難を受けなければならない」(12節)
・経験的諸科学は、思惟を「普遍性および即自的に与えられているにすぎな
い満足からひき出して自己からの発展へ駆り立てる」(同)
・「真にあるべき姿」は、必然的に現実となる(真理は必ず勝利する)
● 概念は、現実に転化して理念となる
・理念は、概念と実在の統一(理想と現実の統一)
3)思惟の直接性と媒介性の統一(12節)
● 実践を媒介として、現実から認識へ、認識から実践をくり返し、自然や社会
を合法則的に発展させ、真理に向かって前進していく
● 哲学は「目前にあるものおよび経験された事実をそのままに是認するのでは
なく諸科学の内容に思惟の自由(先天的なもの)という最も本質的な姿と必
然性の保証とを与え、事実をして思惟の本源的な、かつ完全に独立的な活動
の表現および模倣たらしめるのである」(12節)
⑤ 哲学の歴史と哲学体系
● 哲学の歴史は、真理を探究する「発展段階を異にする一つの哲学」(13節)
の歴史
・「哲学の歴史は、思想の対象である絶対者にかんするさまざまの思想の発
見の歴史である」(第2版への序文 36ページ)
・より浅い真理からより深い真理へ、一面的な真理から全面的な真理へ
・前の哲学の一面性の批判をつうじて哲学は弁証法的に発展した
・ヘーゲルが「予備概念」で「古い形而上学」「経験論」「批判哲学(カン
ト)」「直接知(ヤコービ)」を批判しているのも、これらの批判の上に
ヘーゲル哲学という真理の体系が存在すると主張するもの(14節)
● ヘーゲル哲学は、真理の哲学として体系をもつ、と主張する
・論理学、自然哲学、精神哲学(15,16,17節)
・有論、本質論、概念論
・ヘーゲルの三分法(即自 ── 対自 ── 即対自。正、反、合。肯定 ──
否定 ── 否定の否定。統一 ── 対立 ── 再統一)にもとづく体系
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