2006年8月22日 講義

 

 

第6講 有論 ②

 

1.B 量

● 主題と構成

 ・「量は揚棄された質」(98節補遺2)であり「規定性に無関心な有」(同)

 ・量は牽引と反発として、連続量と非連続量をもつ

 ・質の純有、定有、向自有に対応して、量も純量、定量、度をもつ

a 純量

●「量は、規定性がもはや有そのものと同一なものとしてではなく、揚棄され
 たものあるいは無関心なものとして定立されている純有である」(99節)

 ・量とは、それが規定されたとしても、有に影響を及ぼさない純有(質は、
  規定されると有に影響を及ぼす純有)

 ・「量とは大きさである」←大きさとは一定の量(規定された量)を前提、
  ここでは規定される以前の量を問題にしている

 ・「量とは増減しうるものである」←「増減するとは大きさの規定を変える
  こと」(同補遺)

 ・「絶対者は純粋な量である」(99節)←「量の妥当範囲は過大に評価され、
  量は絶対的カテゴリーに」(同補遺)

● 量は、連続量と非連続量の統一(100節)

 ・「量は、向自有の最初の成果」(同補遺)として「反発と牽引とを観念的
  モメントとして自己のうちに含み」(同)したがって非連続量でもあれば
  連続量でもある

 ・連測量と非連続量は、「量の二種類」(100節)ではなく「同一の全体」
  (同)の二つの側面

 ・カントの時間と空間にかんするアンチノミーは、量を一方では連続的、他
  方では非連続的と主張するもの ── 「連続量とすれば無限に分割しうる
  し、非連続量とすれば、それ自身分割されている」

 ・ゼノンの逆説(89節)も同様 ── 空間の連続性を主張しつつ、そこに非
  連続性を持ち込んだもの

 ・運動を考えるうえで、時間と空間を連続性と非連続性の統一としてとらえ
  ることが重要

b 定量

● 定量とは「限定された量」(101節)

 ・定量は、量の定有

 ・定量は、数

● 定量(数)は、集合数(非連続数)と単位(連続数)の統一(102節)

 ・算法の原理は数を単位と集合数との関係におき、二つの数の「相等性を作
  り出すこと」(同)

 ・二つの数一般を「数え合わす」のが足し算、マイナスに「数え合わせる」
  のが引き算(単位と集合数とを区別せず)

 ・いくつかの単位を集合数として「数え合わす」のが掛け算、集合数をいく
  つかの単位に分けて「数え分ける」のが割り算(単位と集合数を区別)

 ・集合数と単位とを等しいものとして、いくつかの数を「数え合わせる」の
  がべき乗、「数え分ける」のがべき乗根(単位と集合数とは、区別したう
  えで相等とされる)

c 度

●「度は向自有に対応」(101節補遺)

 ・度には向自有の一者としての側面としての「内包量」と、向自有の真無限
  としての側面の「比」の二つの内容を含んでいる

● 度は一者としての内包量(103節)

 ・定量は、規定された量として限界をもつ

 ・「自己のうちに多を含む」(同)限界としては外延量

 ・「自己のうちで単純なもの」(同)。すなわち一者としては、内包量=度
  ── 温度、密度、湿度など(外延量は、分割しうるが内包量は分割しえな
  い)

 ・『資本論』 ── 搾取強化には労働時間(外延量)の延長と労働強度(内
  包量)の両面がある

 ・外延量と内包量は「二つの種 ・ 類」(同)ではなく、一つの定量の二つ
  の側面(一定の労働時間は一定の労働強度をもつ)

● 度において、量の無限進行の必然性が示されている(104節)

 ・定量は度において一者として「直接態」(同)として自立していながら、
  自己の「外部にある他の諸量」(同)によって限定される「媒介態」(同)
  という矛盾

 ・この矛盾(「外面性の性格」)により、「定量は、単に無限に増減しうる
  にとどまらず、むしろ不断に自己を越え出る」(同) ── 「自己を超え
  出るということが量の概念そのもののうちに含まれている」(同補遺1)

 ・量の無限進行は、「真の無限の表現ではなくて、……実際は有限のうちに
  立ちどまっている悪しき無限の表現にすぎない」(同補遺2) ── 真無限
  を意識するためには、「無限進行を棄てなければならない」(同)

● 真無限としての比(105節)

 ・「定量のうちには、外在性すなわち量的なものと、向自有すなわち質的な
  ものとが合一されている」(同) ── それが「比」

 ・比において、真無限の量が量の「質的なもの」として定立されている

 ・比は、比の両項において無限に変化しながら、比の値における自己同一性
  をつらぬく真無限

● 比の真理は限度(106節)

 ・比の「質的規定と量的規定とはまだ互に外的」 ── 比の値と比の両項は
  互に外的

 ・この外的な質的規定と量的規定が内的に統一されたものが「限度」

● 量の弁証法の結果が限度(同補遺)

 ・量とは、「変化にもかかわらずあくまで自己同一であるような可変的なも
  の」(同)

 ・この量の概念の含む矛盾の止揚されたものが、質と量の統一としての限度

 

2.C 限度

●「限度は質と量の統一」(107節補遺)

 ・限度は「完成された有」

 ・量と質とは「直接的な統一」(108節) ── 「二つの規定はそれぞれ独立
  性を持っている」(同補遺)

 ・定有の量的規定は、「質へ影響を与えることなしに変化されうる」が、
  「こうした無関係な増減にはその限界があって、それを越えると質が変化
  されうる」(同)

 ・量から質への転化 ── 「一粒の小麦が小麦の山を作る」「一本の毛を抜
  けばはげになる」

 ・限度を越えても、そこにあるのは「同じく一つの限度」(無限進行)

● 限度における質と量との「直接的な統一」の揚棄(110節)

 ・有論の最後の限度を揚棄することは、有論を揚棄して本質論へ至ること
  ── 表面的な真の姿の認識から内部に踏みこんだ真の姿の認識への移行。
  本質は有の弁証法の成果

 ・限度のうちで、有論における質と量の区別は揚棄され(質は量に、量は質
  に移行することにより)、「諸規定を否定された有、一般的に言って揚棄
  された有をうる。これが本質である」(111節補遺)

 ・「本質においてはもはや移行は起らず、ただ関係があるにすぎない」
  (同) ── 「自分自身へ媒介され、自分自身へ関係する有」(111節)

 ・「有においてはすべてが直接的であり、本質においてはすべてが相関的」
  (同)

● 限度の弁証法で有論から本質論へ