2006年9月26日 講義

 

 

第8講 本質論 ②

 

1.反省規定とは何か

① 反省規定とは、有から本質へ、本質から有へという反省関係から生まれる
  規定性

● 反省関係を論じるうえで必要なカテゴリーが同一、区別、根拠

● 有から本質への反省は、可変的な有のなかにおける不変な同一性

● 本質から有への反省は、同一性から生じる区別(無規定な本質が規定される
 ことから生じる区別)

● しかし、その区別は、同一性としての本質のあらわれ(本質の規定性)であ
 るがゆえに、同一と区別の統一であり、根拠


② 反省規定としての差異、対立、矛盾

● 本質から生じる区別には、差異、対立、矛盾がある

 ・区別は、本質の規定性として、多様な形態をもち、その区別された形態が、
  差異、対立、矛盾としてとらえられる

● 差異から対立、対立から矛盾、矛盾から根拠に

 ・鈍い区別から鋭い区別へ

 ・「思惟的理性は、……差異的なものにおける鈍い区別、表象の単なる多様
  性を、いわば本質的な区別、即ち対立にまで尖鋭化する。ここにはじめて、
  多様なものは矛盾の尖端にまで駆り立てられ、互に活発に作用しあうこと
  になって、この矛盾の中で自己運動と躍動との内在的脈動であるところの
  否定性を獲得するのである」(『大論理学』中 81ページ)


③ 矛盾のもつ意義

●「矛盾が同一性と同様に本質的で、内在的な規定であることを見ないのは従
 来の論理学と常識とのいだく根本的偏見の一つ」(同 78ページ)

●「矛盾は、あらゆる運動と生命性の根本である。或る物はそれ自身の中に矛
 盾をもつかぎりにおいてのみ運動する」(同)

 

2.「ロ 区別」

① 区別とは何か(116節)

● 同一性としての本質は、反省して区別となる

 ・「本質は、本質的に区別規定を含んでいる」(同)

 ・ 区別は、本質に「媒介されて有るもの」(同)

● 同一性は、自己を反発するかぎりで同一性


② 差異(117節)

● 差異は「直接的な区別」(同)

● 差異において、区別された各々は「他のものとの関係には無関心」(同)
 ── 「外的な関係」(同)

● 差異するものの比較は、相等性と不等性

 ・比較しうるためには、「同一の基体」(同)をもたねばならない

 ・本質から生まれた区別は、本質という「同一の基体」をもつから比較しう
  る

 ・比較は、相等性と不等性

 ・商品の交換価値(交換割合)を決めるのはすべての商品の「同一の基体」
  としての価値

● ライプニッツの差異法則

 ・「すべてのものは異っている」

 ・すべてのものは、自己同一性を保ちつつ、自己自身を区別するという「本
  質的区別」(117節補遺)を意味している


③ 差異から対立へ(118節)

● 相等性と不等性とは、相互に「関連しあい、一方は他方なしには考えられな
 いような一対の規定」(同補遺)

● 相等性とは、不等なものの同一性であり、不等性は、同一なものの不等性

 ・「区別の際には同一性を、同一性の際には区別を要求する」

 ・自民党と民主党は、区別されているが同一、自民党と共産党は同じ既存政
  党だが、区別→対立する二つの項は、相互に相手と関係するかぎりにおい
  てのみ存在している


④ 対立(119節)

● 対立は、「本質的な区別、肯定的なものと否定的なもの」(同)

 ・対立する二つの項は、「本質的に制約しあっているもの、相互関係におい
  てのみ存在するもの」(同補遺1)

 ・対立において、区別されたものは、「自己に固有の他者」(119節)をも
  つ

 ・二つの項は、独立的なものでありながら「他者があるかぎりにおいてのみ
  存在する」(対立物の統一)

● 形式論理学は、対立を絶対化する

 ・排中律 ── 「二つの対立した述語のうち、一方のみが或るものに属し、
  第三のものは存在しない」

 ・しかし、 |A|は+A か-Aかのどちらでもない(|A| ── Aの絶対値)

● 諸事物の必然性を認識するとは、「他者をそれに固有の他者に対立するもの
 とみることにある」(同補遺1)

 ・肯定的なものを、「否定的なものでないという仕方で」(119節)とらえ
  ることにより、肯定的なものの必然性が明らかになる

 ・「物を考える場合『なお別なことも可能だ』」のレベルでとらえること
  は、「まだ偶然的なものから脱していない」

 ・自民党のほかに民主党もあるととらえるのでは政治の「必然性」をとらえ
  えないのであり、自民党の大企業優先の政治を否定し、国民が主人公の政
  治を主張するのが日本共産党だととらえることにより、はじめて政治の
  「必然性」が認識される

●「すべてのものは対立している」(同補遺2)「あるものはすべて具体的なも
 の、したがって自分自身のうちに区別および対立を含む」(同)


⑤ 対立から矛盾へ

● 肯定的なものと否定的なものとは、相互に独立的でありつつ、自己の存立を
 固有の他者の存立に依拠するという「定立された矛盾」(120節)

 ・「対立のうちに静かにとどまっているものではなく、常に自己の即自を実
  現しようと努めている(119節補遺2)」

●「矛盾は最後のものではなく、自分自身によって自己を揚棄する」(同)

 ・「一般に世界を動かすものは矛盾である」(同)


⑥ 矛盾から根拠へ(120節)

●「対立したものは一般に、或るものとその他者、自己と自己に対立したもの
 とを自己のうちに含んでいる」(同)

 ・対立したものは、同一と区別の統一

●「矛盾として定立された対立の最初の結果は根拠であって、それはそのうち
 に同一性ならびに区別を、揚棄され単なる観念的モメントへおとされたもの
 として、含んでいるものである」(119節補遺2)

 ・同一と区別の統一の、「最初の結果」が根拠。より「発展した結果」は概
  念論の概念

 

3.「ハ 根拠」

① 根拠は、同一と区別の統一(121節)

●「根拠(理由)は同一と区別との統一、区別および同一の成果の真理」(同)

 ・根拠と帰結とは、同一の内容であると同時に形式上区別されたもの(同補
  遺)

 ・内にある本質は、外に現われでて帰結となることにより、根拠となる

● 根拠は、「絶対的に規定された内容を持たない」(同)

 ・根拠は、同一であると同時に「区別されてもいるから、同じ内容にたいし
  てさまざまな理由を挙げることができる」(同)

 ・この「さまざまな理由」は、「同じ内容を肯定する理由および否定する理
  由という形における、対立にまで進んでいく」(同)

 ・「どの理由が重要であるかを」決定するものは、「各人の個人的な心術お
  よび意図の問題」(同)

● 形式論理学の充足理由律

 ・「すべてのものは十分な根拠を持っている」(121節)

 ・「十分なという形容詞は余計なものであるが、そうでないとしたら、理由
  というカテゴリーを越えたもの」(同補遺)

 ・「絶対的に規定された、したがって自己活動的な内容は、概念」(同)
  ── ライプニッツのいう「十分な根拠」


② 根拠からあらわれ出たものが「現存在」(122節)

● 同一と区別の統一としての本質が外にあらわれでて、「媒介の揚棄として定
 立」(同)された「有の復活」(同)が現存在

●「現存在は、根拠から単にあらわれ出るにすぎない」(同)のであって、必
 然的にあらわれでたものではない