2006年10月10日 講義

 

 

第9講 本質論 ③

 

1.「b 現存在」(123節)

① 無限の連関からなる世界

●「現存在とは、根拠から出現し、媒介を揚棄することによって回復された有」
 (123節補遺)

 ・現存在は、本質としての根拠に媒介され、出現した有でありながら、その
  媒介された面影を失って、直接的に存在するようにみえる有

 ・現存在は、自己のうちへの反省(同一性、直接性)と他者のうちへの反省
  (区別、媒介性)との直接的統一(123節)

● 無数の現存在は「無限の連関からなる世界を形成する」(同)

 ・無数の現存在するものは、相互に、根拠となり、根拠づけられたものとな
  る無限の連関をなす

 ・この「現存在」の立場では、世界の「究極目的は何かという問題は解決さ
  れないままに残る」(同補遺) ── 無限の連関からなる循環論

 ・「概念をとらえようとする理性は、……このような単なる相対性の立場を
  越えて進んで行く」(同) ── 「概念は真に最初のもの」(163節補遺
  2)、「世界のうちには理性がある」(24節補遺1)

● 現存在において、はじめて物質世界の統体性が論じられ、そこから物質世界
 の相互媒介の法則がとりあげられることになる


② 現存在するものは「物」(124節)

● 現存在するものは「根拠から出現したもの」(123節補遺)として、同一と
 区別の統一

 ・定有するものは「或るもの」であるのに対し、現存在するものは「物」

 ・「物」はそのうちに同一としての物自体と、区別としての諸性質とをもつ

 ・ 物自体と諸性質は、定有における即自有と向他有との展開したもの

● カントの「物自体は認識できない」(124節補遺)は当然のこと

 ・「認識するとは、対象を具体的規定性においてとらえること」(同)なの
  に、「物自体は、全く抽象的で無規定の物一般」(同)だから認識できな
  いのは当然のこと

 ・「単なる自体」は、事物の「抽象的で未発展なもの」(同)を意味する

 ・物一般も、物自体を越えて「諸性質を持つ」(同)

 

2.「c 物」

① 物は諸性質を持つ(125節)

● 物は統体

 ・物は、同一と区別の統一としての統体

 ・物の区別の側面は、「物の諸性質」(同)であり、物は諸性質を「持つ」
  (同)

 ・定有のもつ質は、定有と「直接に一体」(同)であるのに対し、物のもつ
  「諸性質」は物から区別されている

● 物は、諸「性質を相互に結合する紐帯」(同補遺)

 ・物のもつ区別は、「相互に無関係な」差異ではなく、紐帯をもつ

 ・或るものは質を失えば、或るものでなくなるが、物は特定の性質を「失っ
  てもその物でなくなるということはない」(同)


② 諸性質は独立して質料となる(126、127節)

● 区別は同一であり、区別としての諸性質は、独立して同一としての質料とな
 る

 ・質料とは、物の材料となる小麦粉、土、材木、鉄など

● 物は、諸質料の「表面的な連関、外面的な結合」(127節)から成る

 ・「質料は、したがって定有的な物性であり、物を存立させるもの」(同)

● しかし、物はすべて質料に分解しうるものではない

 ・「独立を持たない諸性 ・ 質」(126節補遺)を質料とみてはならない

 ・「有機的生命においてはこのカテゴリーは不十分」(同)


③ 質料と形式(128節)

● アリストテレスの「質料と形相」に学んだもの

 ・存在には「それ自体としての存在」と「付帯的な存在」がある

 ・「それ自体としての存在」が「実体」

 ・「実体」は「質料と形相」を統一した個体(統体)

 ・質料は材料となる受動的側面、形相は、質料を規定する能動的側面

 ・「物はすべて同一の質料をその基礎に持ち、それらの相違はただ……形式
  においてのみあるにすぎない」(同補遺)

● 質料は「規定性にたいして無関心」(128節)

 ・「さまざまの質料は合して一つの質料……現存在となる」(同)

● 質料に「さまざまの規定性」(同)を与えるのが「形式」

 ・しかしアリストテレスのいうように、質料と形式は絶対的に区別されるも
  のではなく、「質料という概念は、あくまで形式の原理をうちに含んでい
  る」(同補遺)

 ・小麦粉はパンに、大理石は彫刻に

 ・質料を本源的な無形式なものとみるのは、浅い見方

● 質料と形式とは、「おのおの独立的に存立」(129節)していながら、それ
 ぞれ「即自的に同じもの」(同)であり、この関係は、内容と形式の関係に
 おいて、より明確にあらわれる


④ 物は統体性としての矛盾(130節)

● 物は質料と形式とが「独立性と同時にそれらの否定が定立されている」(130
 節)という矛盾

● この矛盾により、物は自分自身を揚棄して「本質的な現存在、すなわち現象」
 (同)となる

 

3.「B 現象」

① 現象とは何か(総論)

●「本質は現象しなければならない」(131節)

 ・「本質は現象の背後または彼方にあるものではなく、本質が現存在するも
  のであることによって現存在は現象なのである」(同)

 ・「現象にすぎない」というとき、現象は「自分の足で立っているのではな
  く、その有を自分のうちでなく、他のもののうちに持っている」(同補遺)
  ことを意味している

● 現象は、「現存在の矛盾が定立されたもの」(同)

 ・現象は、本質が現存在したものとして、本質を含んでいると同時に、無規
  定な本質の規定されたものとしての「多くの多様な現存在する物」(同)
  である

 ・現象における「多くの多様な現存する物」をつうじて、認識は本質をとら
  える

 ・「まさに世界を単なる現象にひきさげることによって自分が本質であるこ
  とを顕示する」(同)

● 現象と仮象とを混同してはならない

 ・仮象は、本質と対比されながらも、「直接的」にとらえられた有

 ・現象は、本質に媒介された有として、「有の真理であり、有より豊富な規
  定」(同)

 ・「単なる現象より高次のものは、まず現実性」(同)→現在では、仮象も
  現象も本質に媒介された有としてとらえられ、仮象は非本質的現象、現象
  は本質的現象として理解されている


② 「a 現象の世界」

● 現象は、「無限の媒介へ進んでいく」(132節)

 ・現存在は「無限の連関からなる世界」(123節)

 ・現象は本質が現存在したものであり、根拠と根拠づけられたものとして同
  様に「無限の媒介」へ進む

 ・現象は、本質を含む「存立性 ・ あるいは質料」(同)として自立してい
  ると同時に、本質に媒介され、規定されるという「形式のうちにのみその
  根拠を持つ」非自立性

● 無限の媒介は「自己への関係という統一」

 ・現象は、相互に無限に媒介された存在として、独自に運動する1つの統一
  体をなす

 ・「世界の現実の統一性はそれの物質性にある」(エンゲルス『反デューリ
  ング論』全集⑳ 43ページ)

 ・「現存在は、現象すなわち反省された有限性の総体、つまり現象の世界へ
  発展させられている」(同)

●「現象の世界」に対立するものが「イデアの世界」

 ・プラトンが「見られる世界(可視界)」と「思惟される世界(可知界)」
  とを区別し、後者を「イデアの世界」ととらえたのに対応するもの

 ・ いわば本質論の現象の世界が、現存在の世界(客観世界)であり、概念論
  の概念の世界が「イデア(真にあるべき)の世界

 ・「この即自且向自的に存在する世界は、また超感覚的世界とも呼ばれる」
  それは現存する世界が感覚的世界、即ち意識の直接的な活らきである直感
  に対応する世界である」(『大論理学』㊥ 177ページ)