2006年11月14日 講義

 

 

第11講 本質論 ⑤

 

1.「C 現実性 」

① 現実性とは何か

● 現実性は、客観的存在の最高のカテゴリー

 ・有、定有は、「無反省の直接態」(142節) ── 根拠をもたない存在

 ・現存在(現象)は、他のものに媒介され、根拠をもつ存在

 ・現実性は、自分で自分を媒介する存在 ── 現実性の外面性は自己の「顕
  在態」(同)

● 現実性が展開されると必然性としてあらわれる(143節補遺)

 ・一時的、偶然的な存在は、現実性の名に値しない(6節)

 ・現実性は、法則と並ぶ普遍的なもの。必然性を論じている

● 現実性は、内にある自己が外にあらわれるという「絶対的相関」


② 理想と現実の統一

● 理想と現実とを切りはなす者は、「思想の本性をも現実の本性をも正しく把
  握していない」(142節補遺)

 ・ヘーゲル哲学の革命的真髄を語ったもの

 ・理念は、現実から導き出されるものであって「頭から作り出す」(同)も
  のではない

 ・だからこそ理念は「絶対的に活動的なものであり、現実的なもの」


③ 現実性とはエネルゲイアとしてのイデア

● プラトンとアリストテレス

 ・ラファエロ「アテネの学校」では、プラトンは天(観念論)を指し、アリ
  ストテレスは地(唯物論)を指している

 ・ヘーゲルは、これを「広く行なわれている偏見」と批判

 ・現実(エネルゲイア)が「アリストテレスの哲学の原理」(同)をなして
  いることは間違いないが、プラトンのデュナミスとしてのイデアに対し、
  エネルゲイアとしてのイデアを対置したもの

 ・つまり、アリストテレスの現実性は、ヘーゲルの現実性と同じ

● エネルゲイアとキーネーシス

 ・エネルゲイアは人間の生き方、行為としての活動、キーネーシスは物体の
  運動

 ・エネルゲイアは目的を内に含むのに対し、キーネーシスは外に目的をもち、
  出来高と効率主義の求められる運動

 ・脳はエネルゲイア(どれだけのことを成すかではなく、高きに向って成長
  するプロセスそのものが目的)であるのに対し、コンピューターはキーネ
  ーシス(松本元「脳科学からの提言」吉崎氏より)

 ・現実性(エネルゲイア)は、理想と現実を統一し、いかにより善く生きる
  かを主題とする「概念論」への移行を準備するもの

 

2.可能性、偶然性、必然性

① 可能性(抽象的可能性)

● 単なる可能性は、まだ現実性の名に価しない

 ・可能性は、非本質的なあらわれであるのに対し、現実性(必然性)は本質
  的なあらわれ

● 可能性とは「抽象的で非本質的な本質性として定立されている自己内反省」
 (143節)

 ・まだ内にとどまっている「非本質的な本質性」

 ・いわゆる抽象的可能性、単なる可能性

 ・可能性の基準は「自己矛盾を含まない」(同)というのみ

 ・すべてのものは可能であると同時に不可能 ── 「空虚な悟性」(同補遺)


② 偶然性

● 単に「内的なもの」としての可能性は、単に「外的なもの」としての偶然性

 ・偶然性は、「非本質的な外的なもの」(144節)

 ・「可能性は単なる偶然そのもの」(同)

● 偶然的なものは、その存在の根拠を他のもののうちにもっている

 ・したがって、存在するかしないか、どんな形で存在するかも自分で決める
  ことはできない

● われわれの任務は、「偶然性の仮象のもとにかくされている必然を認識する
 ことにある」(同)

 ・偶然のなかに必然性を見出すことによって科学は進歩する

 ・しかし、それは偶然性を否定することではなく、正当な位置を与えなけれ
  ばならない

 ・特に「意志にかんする偶然性を正当に評価すること」(同) ── 恣意
  (形式的自由)は「意志の本質的モメント」

 ・本当に自由な意志は、「その内容が即自かつ対自的に確実なものであるこ
  とを意識している」(同) ── 自由と必然の統一


③ 条件と事柄

● 偶然性は条件

 ・偶然性は、存在の根拠を他のもののうちに持つことにより、「揚棄される
  定め、他のものの可能性であるという定め」(146節)をもつ

 ・「すなわちそれは条件である」(同)

 ・条件とは、自己は消滅して「他のものの実現に役立つ」(同補遺)ような
  偶然性

● 事柄

 ・事柄は、条件を吸収して、内から外へ現れでる現実性

 ・事柄は、本質の本質的規定性であり、現実性の内容を規定する


④ 具体的可能性

● 具体的可能性とは、事柄と条件の「相互的媒介」(147節)の展開

 ・あらゆる条件が現存すると、具体的可能性は現実性に必然的に転化する

 ・「これがすなわち必然性である」(同)


⑤ 必然性とは何か

● 必然性は、ヘーゲル哲学のキーワード

● 必然性とは、「他のものによって制約されない自己関係」(同補遺)

 ・他のもののうちに根拠をもつのではなく、自分自身のうちに根拠を定立し、
  自己媒介するという自己関係

 ・しかし、条件と事柄の結合による必然性は、まだ完全な必然性ではなく、
  偶然性に媒介された必然性(外的必然性)にすぎない

 ・外的必然性は「盲目である」(同補遺) ── 主体性がなく、予見的でな
  い目的、概念と異なる

● 必然性と自由

 ・必然性は、「不自由な関係」(同)

 ・必然性を運命としてあきらめ、あるいは自業自得と受けとめるのは「抽象
  的な自由」にすぎない

 ・真の自由は、必然性をうちに含み、必然性を止揚した自由


⑥ 外的必然性と内的必然性

● 外的必然性とは、偶然性に媒介された必然性

 ・条件、事柄、活動の偶然的結合による必然性

● 内的必然性とは、自分で条件をつくり出し、絶対的に自己産出するもの

 ・それが「絶対的相関」

 ・その発展したものが概念


⑦ 偶然と必然の統一

● 偶然は必然に、必然は偶然に移行する

● ダーウィンの進化論は、「偶然と必然の内的連関を証明するもの」(全集
 ⑳ 607ページ)

 ・種の進化は、適応(変化)と遺伝(保存)の統一

 ・偶然としての突然変異が種の内的目的性に必要、有益なとき、種はこの変
  化を取り込み、遺伝子を変えて、必然的な進化へと転化する


⑧ 外的必然性から内的必然性(絶対的相関)へ

● 自分で条件をつくり出し、自分で事柄と条件を結合させる自己媒介が、内的
 必然性

 ・内的必然性は、偶然性に媒介されない必然性

● 内的必然性は、「一群の諸事情に媒介されて必然的」(149節)であると同
 時に、偶然性に「媒介されないで必然的」(同)

● 内的必然性は、「絶対的相関」とよばれる