2006年11月28日 講義

 

 

第12講 本質論 ⑥

 

1.「a 実体性の相関」

① 実体とは何か

● 実体とは事物の基体をなすもの

 ・アリストテレスは、個体を第1実体、類・種を第2実体とよぶ

 ・デカルトは、神を無限実体、精神と物体を有限実体とする

 ・スピノザは、神を唯一の無限実体とし、精神と物体を実体の属性、個々の
  精神、物体を実体の様態とする

● 普遍論争

 ・類・種という普遍は実在するのか否か

 ・実在するとしたら、個物と同一か、区別されるのか→ 実在論と唯名論の論争


② ヘーゲルの実体論

● 普遍論争を弁証法的に止揚した

● 普遍には、抽象的普遍と具体的普遍

 ・抽象的普遍は、個物のなかの共通性 ── 実在せず

 ・具体的普遍は、自らを特殊化して個別となるような普遍 ── 動物の類・
  種及び概念として実在する

● 動物の類・種

 ・人類と、個人

 ・個人は、人類と同一であると同時に区別されている


③ 実体性の相関

● 「必然的なものは自己のうちで絶対的な相関」(150節)

 ・内的必然性は、自己媒介により内から外にあらわれる「絶対的な同一とな
  る過程」(同)

 ・これが絶対的相関

● 絶対的相関の「直接的な形態は、実体性と偶有性の相関」

 ・実体は、自ら外にあらわれ出て偶有性となる

 ・しかし、偶有性は、実体の「単なる可能性」のひとつにすぎない ── 特
  定の個人が存在するか否かは、人類にとって、「単なる可能性」のひと
  つ

 ・「偶有的なものは、……他の現実性へ移っていく」(同) ── 偶有は偶
  然性

● 「実体は偶有の全体であり、偶有のうちで実体は……絶対の力であること、
 しかも同時にあらゆる豊かな内容であることを顕示する」(151節)

 ・類(人類)は個物(個人)の総体から成る

 ・類は、個を生み出す「絶対の力」 ── 人類があって個人がある。人類は
  様々な個人(豊かな内容)として顕示される

● 実体と偶有は、「形式と内容との絶対的な交互転化」(同)

 ・実体の運動(形式活動)は、偶有という内容を生み出し、偶有が逆に実体
  という形式を規定する

 ・種の進化は、個体の突然変異を契機とする

● スピノザの実体論批判

 ・スピノザは、神を唯一実体とするが、実体はまだ「理念そのもの」(同補
  遺)ではないから神を実体とするのは正しくない

 ・またスピノザの実体論は、実体の様態として個物をとらえるから、個物は
  すべて「一時的なもの、消滅するもの」(同)としてとらえられ、有限的
  な個体性を正当に認めない「無世界論」(同)となる

 ・またスピノザの実体論は、実体と偶有性の「絶対的な交互転化」(151節)
  を認めないという「形式上の欠陥」を(同補遺)をもつ

● 実体は、偶有性を規定する力であるから、因果性の相関につながる

 

2.「b 因果性の相関」

① 人間の活動が因果性の試金石

● ポスト・ホックからプロプテル・ホック

 ・科学は何故そうなるのかという原因の探求

● 原因の探求により、特定の運動を起こしうる(生産労動)

● 「人間の活動が因果性の試金石」(「自然の弁証法」全集⑳ 538ページ)

 ・ヒューム、カントの不可知論に対する「最も適切な反駁は、実践、すなわ
  ち、実験と産業」(全集 280ページ)


② 因果性の相関

● 実体は、原因として、「現実を産出する」(153節)

 ・実体は、「自己を自己そのものの否定として定立」(同)することによっ
  て原因となる

 ・原因は、内的必然性として結果を生み出す

●「原因は、本源的な事柄として、……必然性のうちで、全く結果へ移行して
 いる」(同)

 ・原因は事柄として、その内容をそのまま結果に移行させる

 ・「結果のうちにないようないかなる内容も存在しない」(同)

 ・原因と結果とは、内容の同一性と形式上の区別の統一

● 原因と結果の「形式上の相違も同じくまた揚棄される」(同補遺)

 ・原因と結果の無限進行

● 原因と結果の無限進行が「自己のうちへ曲り戻らされている」(154節)と
 き、因果性は交互作用となる

 

3.「c 交互作用」

① 客観世界の認識は、「有」にはじまり「交互作用」で終わる

● 交互作用は、客観世界の真理の認識の最後に位置する

 ・交互作用において、物質の運動法則は、最も一般的かつ普遍的法則として
  展開される

 ・交互作用とは、対立物の統一 ── 対立物の相互移行、相互浸透、対立物
  の闘争(相互排斥)もすべて包摂

● 交互作用は、「運動する物質を全体として考察するときぶつかる最初のもの」
 (全集⑳ 539ページ)

 ・「このような交互作用の認識以上にさかのぼることはできない。……認識
  は完了している」(同)

 ・因果法則は、交互作用の一側面にすぎない

 ・「交互作用は、調和をも衝突をも包含し、闘争をも協動をも包含している」
  (全集138ページ)→交互作用は、対立物の統一のいっさいの形態を含む、
  普遍的法則


② 交互作用

● 交互作用で区別されている二つの規定は「即自的には同じもの」(155節)

 ・双方とも「原因であり、本源的であり、能動的であり、受動的である」
  (同)

● 「交互作用は、完全に展開された因果関係」(同補遺)

● 交互作用は、「概念の入り口」(同)ではあるが「没概念的」(同)

 ・概念は、交互作用の二つの規定を概念の「モメントとして認識する」(同)

● 交互作用は、「顕現された」必然性

 ・概念が顕現して必然性となったものが交互作用

 ・必然性の紐帯は、「まだ内的で隠された同一性」(=概念)

 ・実体の独立性は、概念の顕現として否定される

 

4.本質論から概念論へ

●「必然の真理は① 自由であり、実体の真理は概念」(158節)

● 概念は、自分自身で必然性を定立し、必然性を自在にわがものとする自由

 ・必然性は「一つの全体の諸モメント」(158節補遺)(概念のモメント)

 ・「これが必然性の自由への変容」(同)

● 客観世界の必然性、普遍的法則は、概念によって規定されるものとして、
 「実体の真理は概念」 ── 「世界は摂理によって支配されている」(147
 節補遺)

 ・「自分が全く絶対的理念によって規定されているのだということを知る
  のが、人間の最高の自立性」(同)

● 「概念が有および本質の真理」(159節)

 ・二つの意味

 ・一つは、概念はイデア界として、有、本質の客観世界の真理

 ・二つは、概念(真にあるべき姿)は、「それ自身同時に独立的な直接性」
  (同)としての「有」の側面をもつと同時に、自己を自己から反発して
  (特殊化して)、個物となるという反省として本質の側面

● 「必然から自由へ」「現実から概念へ」の移りゆきは、必然を思惟すること
 によって解決される

 ・客観世界の考察のなかから、客観世界を否定し、客観世界の真にあるべき
  姿としての概念がとらえられる