2006年12月26日 講義

 

 

第14講 概念論 ②

 

1.「b 判断」

● 総論(166~171節)と各論に

 ・判断の適用から生まれる内容は、「真又は偽」

● 形式論理学の「判断」に対するヘーゲルの批判

 ・判断の形式そのものに真理があるかどうかを問題にしていない(cf 126ペ
  ージ)

 ・概念から判断への進展が示されていない(cf 137ページ)

● ヘーゲルの判断

 ・対象が概念(真にあるべき姿)に一致するか否か、どの程度一致するかの
  評価

 ・概念が自己を特殊化して、区別と同一を定立したものが判断

● ヘーゲル独自の判断は、正しさと真理とを区別する

 ・ヘーゲルのいう正しさとは、「対象と表象との一致」(24節補遺2)

 ・ヘーゲルのいう真理とは、「概念と実在との真の一致」(同)→しかし、
  科学的社会主義の立場からすれば、どちらも真理として理解すべき

● 各論は、正しさから真理への判断の諸段階を示すもの

 ・質的判断→反省の判断→必然性の判断→概念の判断

 

2.判断総論

① 判断とは何か

●「判断は特殊性における概念である」(166節)

 ・判断の最初の規定は、「個は普遍である」(同) ── 「このばらは赤い」

 ・形式論理学では、私が主語と述語とを「である」という繋辞で「結合」し
  ていると考えている(「異種の概念の結合」同補遺)

 ・しかし、ヘーゲルは、概念の統一が、個と普遍に分割(区別)され、その
  同一性が定立されているという、概念の「生動性」(同補遺)による概念
  の特殊化が判断だととらえる

 ・判断とは、概念の諸モメントを区別しながら同一として定立するもの ──
  主語と述語とは本来的に結合しているもの

●「判断においてはじめて概念の真の特殊性がみられる」

 ・有論、本質論における、移行、反照、相関における同一と区別の統一は、
  まだ真理態ではない(162節)

 ・反省規定における同一は、まだ「互に関係を持つ」(166節)という同一
  にすぎない

 ・しかし、概念の特殊化としての判断における同一は、「である」という繋
  辞による「同一性として定立された同一性」(同)

● 判断とは、「対象を把握する」(同補遺)ことであり、それは、対象を「そ
 の概念によって定立されている規定態において考察すること」(同)

 ・「さまざまの事物は、それらに内在し、それらのうちで自己を啓示する概
  念の活動によって、現にそれらがあるような姿を持っている」(163節補
  遺2)

 ・「したがって対象を把握するとは、その概念を意識すること」(166節補
  遺)→判断とは、対象の「概念的把握である」


② 「あらゆる事物は判断である」(167節)

● あらゆる事物は、概念を内に含む「個別化されている普遍的なもの」

 ・あらゆる事物は、個と普遍の同一と区別の統一として判断

● 判断と命題

 ・命題は、個と普遍の同一と区別の統一という関係をもたないから、主語に
  対してどんな述語でも「付加」(同)しうる

 ・これに対して判断は、個と普遍の同一と区別の統一として、主語と述語と
  は限定された関係にある

 ・「まだ確定されていない表象」を確定しようとする場合、真、偽が問題と
  なり主語には、特定の述語しか結合しえないから判断となる


③ 「判断の立場は有限の立場」(168節)

● 「あらゆる有限な事物は、そのうちに……概念と存在とをもっているが、そ
 の存在は概念に適合していない」(24節補遺2)

● 判断の立場は、存在(定有)と概念とが「一般に分離しうる」(168節)立
 場だから、有限の立場

 ・存在と概念との一致が問題となるのは「概念の判断」のみ

● 判断は有限であり、推理は無限である


④ 判断における主語と述語の同一性は、「特定の内容」(170節)をもつ

●「主語は述語においてはじめてその明確な規定性と内容を持つ」(169節)

 ・主語は、「述語よりも豊かで広い」(170節) ── ばらは赤いだけでは
  ない

 ・述語は、「主語よりも広い」(同) ── 赤はばらだけのものではない

 ・主語と述語の同一性の定立が判断としての「特定の内容」をもたらす

● 主語、述語、特定の内容は、「関係のうちにありながらも」「異ったもの、
 分離するものとして判断のうちに定立されている」(171節)

 ・「個は普遍である」との判断にあっても、述語の普遍性が異なってくれば、
  判断の内容(正しさ、真理)も異なってくる

● 判断の進展は、述語の普遍性の進展

 ・「抽象的な、感覚的な普遍性」(同) ── 「このばらは赤い」(質的判
  断)

 ・「すべてに属する」(同)普遍性 ── 「すべての人間は死すべきもの」
  (反省の判断)

 ・「類および種」(同)の普遍性 ── 「ばらは植物である」(必然性の判
  断)

 ・「概念的普遍性」(同) ── 「この家はよい」(概念の判断)

●「判断の諸種類は、同じ価値を持つものとして並列さるべきものではなく、
 段階をなすもの」(同補遺)

 ・貧弱な判断と本当の判断

 

3.判断各論

① 「イ質的判断」

● そのものの「質」をとらえる判断

● 定有の判断とは、「このばらは赤い」(肯定判断)というもの

 ・述語となるのは、「直接的な(したがって感性的な)質」(同)という普
  遍

 ・正しいけれども真理ではない(定有の判断では、概念との関係を問題にし
  ていない)

● 正しさと真理

 ・正しさ ── 対象と表象(認識)との「形式的な一致」(同補遺)

 ・真理 ── 概念と実在との一致

● 定有の判断では、主語と述語とは、「一点で触れあう」(同)のみ

 ・概念の判断になると、述語は、「主語の魂」(同)であり、述語によって、
  主語は「全く規定されている」(同)

● 定有の判断における否定判断

 ・「一点で触れあう」肯定判断の否定は、「全面で触れあう」か「全面で触
  れあわない」かのいずれかとなる

 ・つまり同一判断(ばらはばらである)か、又は無限判断(このばらは赤で
  も、黄色でも、ピンクでもない)→否定的無限判断のなかに「直接的判断
  が有限であり、真理でないということ」(同補遺)が示されている

● 民法上の係争は、単なる否定判断、刑法犯は否定的無限判断


② 「ロ 反省の判断」

● そのものの「本質」「実体」をとらえる判断

● 反省の判断では、述語の普遍性は、「もはや直接に質的ではなくて、他のも
 の……と関係し連関している」(174節)

● 反省の判断では、「主語の直接的な個別性」(同)は越えられているが、
 「主語の概念はまだ示されていない」

 ・したがって正しくはあっても、まだ真理ではない述語の反省規定は「多
  くの・見地」(同)を提供するが、「その概念をつくすものではない」
  (同)

● 単称判断、特称判断、全称判断(175節)

 ・「この植物は薬になる」

 ・「いくつかの植物は薬になる」

 ・「すべての植物は薬になる」

● 全称判断における「すべて」とは、個別的なものの「土台」「根柢」「実体」
 としての普遍を示すもの

 ・本質、実体としての普遍は、「あらゆる特殊なものを貫き、それらを自己
  のうちに含む」(同補遺)

● 全称判断において、主語も述語も普遍的なものとなり、類と種という内容の
 同一をもつにいたる

 ・この関係は「必然的な関係」(176節)

 ・「すべてに属することは類に属し、したがって必然的である」(同補遺


③ 「ハ 必然性の判断」

● そのものの「類と種」をとらえる判断

● 必然性の判断は、類と種という「内容が区別されていながらも同一である判
 断」(177節)

 ・「種は類である」「金は金属である」(定言判断)→「特殊性のモメント
  に正当な地位を与えていない」(同補遺)

 ・「もしその金属が緑色に錆びるなら、その金属は銅である」(仮言判断)
  ── 種差の特徴を条件として、類のなかの種を判断する

 ・「金属は、金か、銀か、鉄か、etc である」(選言判断)

●「あらゆる事物は定言判断である」(同補遺)

 ・あらゆる事物は、「実体的な本性」としての「類」をもっている

 ・事物を「類によって必然的に規定されているものとして考察することによ
  って、はじめて判断は本当の判断となりはじめる」(同)

 ・「実体の真理は概念」(158節) ── 概念の判断に接近している

● 選言判断では、主語は類(普遍)、述語は、種(特殊)の全体

 ・すなわち、普遍と特殊の同一が定立されており、「今や判断の内容をなし
  ているものは概念」(同)


④ 「ニ 概念の判断」

● そのものが、「概念」に一致するかどうかの判断

● 「概念の判断の内容をなしているものは概念」(178節)

 ・すなわち、主語が述語において、概念との「一致あるいは不一致」があら
  わされる

 ・「ある対象、行為、等々」(同)が、概念に一致する特殊であるから「善
  い、真実である、正しい」(同)、一致しない特殊だから「悪い、真実で
  ない、間違っている」との判断(実然的判断)

 ・実然的判断では、述語の特殊と普遍との関係つまり、一致、不一致の根拠
  が示されないから、「一つことを何度も何度も繰り返すことによって信用
  をえようとする」(同)

● 概念の判断は「真の価値判断」(『大論理学』㊦ 119ページ)であり、「真
 理である」(同 120ページ)

 ・ヘーゲルの一元論的世界観を示すもの

 ・ヘーゲルは、「世界がどうあるか」を知ることと、人間が「どう生きるべ
  きかを知ること」とは、統一されねばらない、それを媒介するのが「世界
  はどうあるべきか」をとらえる概念論だとしている

● 蓋然的判断、確然的判断(179節)

 ・実然的判断には、「反対の断言が同等の権利をもって対立」(同)してい
  るので、単なる「蓋然的判断」にすぎない

 ・確然的判断では、主語の個別は、特殊を根拠として、概念との一致、不一
  致という述語との同一性が定立される(「この家は、土台がしっかりして
  いるから良い」)

● 確然的判断では、繋辞が「である」から、「特殊」という同一性の根拠とな
 り、「個―特―普」の推理が成立している(180節)