2007年3月13日 講義

 

 

第19講 概念論 ⑦

 

1.「C 理念」各論(つづき)認識と意志

●「一般的な認識作用」(225節)は、「二つの運動に分裂」(同)

 ・「イ 認識」 ── 自己のうちへ客観の内容を取り入れる(理念の理論的活
  動)

 ・「ロ 意志」 ── 客観のうちへ「真にあるべき姿」を形成し入れる(理念
  の実践的活動)

2.「イ 認識」

① 概念が「導きの糸」

● 認識作用の「反省関係は、概念の関係をとるに至っていない」(226節)

 ・ここに認識の有限性の根拠がある

● 概念は認識作用の「進展の内的な導きの糸」

 ・認識は「真にあるべき姿」に向かって前進

 ・有限な真理から「概念の無限の真理」へ

 ・受動的真理から能動的真理へ


② 分析的方法

● 分析的方法とは

 ・事物を分析・分解して抽象化、普遍化する(個から普遍へ)

 ・抽象的普遍(要素への還元)あるいは具体的普遍(類、力、法則)を取り
  出す

● ヘーゲルは、概念の認識にまで到達しうることを明言せず

● 分析的方法は事物をあるがままにとらえない欠陥あり


③ 総合的方法

● 総合的方法とは

 ・普遍(定義)から特殊(分類)をつうじて個(定理)へ(228節補遺)

 ・抽象的普遍から個別へ

イ) 定義

 ・対象の類(抽象的普遍)をとらえる

 ・類の多面性からして、定義には「必然性がない」(229節補遺) ── 「総
  合的方法は分析的方法におとらず哲学には適しない」(同)

ロ) 分類

 ・分類とは、抽象的普遍の特殊化

 ・定義の恣意性を反映

ハ) 定理

 ・異なった諸規定の総合的関係

 ・媒介項により内容の必然性をつくり出す


④ 分析と総合の意義と限界

● 分析と総合は、一対の科学的真理探究の方法

● ヘーゲルは、これを「悟性の態度」であり、「哲学的認識に使用できない」
 (231節)という

 ・しかし有限な認識は、方法の有限性にあるのではなく、客観世界の有限性
  に起因

 ・分析によって概念を認識し、概念にもとづく総合によって「概念の無限の
  真理」(226節)に到達しうる

 ・論理学の諸カテゴリー自体も分析と総合から生まれたもの

 ・238節補遺で、「哲学的方法は、分析的でもあれば総合的でもある」とい
  っている

● また2つの方法による概念の認識は弁証法的認識であって、悟性的認識では
 ない

 ・理想は、客観世界に媒介されつつ、媒介を否定 ── 空想とのちがい

● 2つの方法は、概念の必然性まで認識しないと哲学的認識としては十分でな
 い、というべきもの


⑤ 認識から意志へ

● 定理から意志へ

 ・定理は、必然性(概念そのもの)を証明

 ・こうして認識は、主観的概念を出発点とする意志の理念へ(232節)

 

3.「ロ 意志」

● 善の実現

 ・概念をとらえた認識が「善」

 ・善の実現により、理想と現実の統一が実現

 ・善をかかげて「自己を実現しようとする衝動」(233節)が「意志」

● 意志は、「客観の独立性を前提」(同)しつつ、その「客観が空無であると
 いう確信を持っている」(同)

 ・意志は客観世界を変革しようとする意志

 ・「善の目的は、実現されると同時に実現されないという矛盾」(234節)

 ・善の実現の無限進行としてあらわれ」(同)る

● 知性は世界をあるがままに受け取り、意志は「世界をそのあるべき姿にかえ
 ようとする」(同補遺)

 ・善は「永遠に自己を実現しつつある」(212節補遺)が、そうでないとの
  「錯覚」が客観世界を合法則的に発展させる

 ・知性と意志とは矛盾しない ── 客観世界の合法則的発展に身をゆだねな
  がらも、理想と現実の統一を探究し続ける「大人の立場」(同)

 

4.絶対的理念

① 絶対的理念とは何か

● 絶対的真理とは「理念の概念」

 ・概念(真理)の真理としての絶対的真理

 ・論理学のすべてのカテゴリーの包摂から生まれる絶対的真理

● 絶対的真理とは、真理の「純粋な形式」(237節)としての弁証法的方法

● 予備概念の「論理学のより立入った概念と区分」は、弁証法を「先回り的」
 (79節)にのべたもの


② 弁証法的方法

a 「直接的なものである端初」(238節)

● 端初は、「直接的なもの」であると同時に「自立的」なもの

 ・端初は「自己分割」し、否定的なものとして定立される

● 端初は、「即自的な概念」(同)としてとらえなくてはならない

 ・論理学の「有」、『資本論』の「商品」

 ・分析、総合により、端初をとらえる

b 進展

● 進展は「理念の自己分割の定立されたもの」(239節)

 ・対立物の間で「反省」関係

 ・概念の統体へ回帰しようとする区別

c 終結

● 対立物が揚棄され、新たな統一のうちの「観念的モメント」(242節)とな
 る ── これが「終結」

● 概念から絶対的真理としての理念にいたる道程も、端初 ── 進展 ── 終結
 の過程

● 絶対的真理としての弁証法によって「理念は体系的な全体としてあらわれる」
 (243節)

 ・理念から出発して理念に帰る「絶対的理念論」の哲学体系

 ・論理学から絶対的理念の外化としての「自然哲学」、ついで「精神哲学」
  に