2007年7月4日 講義

 

 

第2講 科学的社会主義の源泉

 

1.科学的社会主義の源泉

● 序説「総論」は源泉を考えるうえで重要な意義

● 源泉とは科学的社会主義の構成部分になりうる先駆的理論

● レーニン「マルクス主義の三つの源泉と三つの構成部分」(レーニン全集⑲
 6ページ)ドイツ古典哲学→弁証法的唯物論と史的唯物論イギリス古典経済学
 →剰余価値学説フランス社会主義→科学的社会主義と階級闘争の理論

 

2.近代の社会主義の誕生

① 資本主義社会における階級対立と
  生産の無政府状態から生まれる(21ページ)

● イギリスのチャーチスト運動

● イギリスの恐慌――1825年からほぼ10年おきに


② 「18世紀のフランス啓蒙思想家の打ちたてた諸原則を受けつぎ、
  いっそう徹底させたものとして現われる」(同)

● ディドロー、ダランベール、ルソーの「自由、平等、友愛」

● ルソーの人民主権論、自由・平等論から1793年憲法をかかげたバブーフの陰謀
 へ

 ・「ほんとうの自由およびほんとうの平等」(全集① 523ページ)が共産主義

 ・私的所有の廃止(搾取の廃止)を、自由、平等の見地から表現

● 日本では、「東洋のルソー」中江兆民の自由民権思想を継承発展させて社会主
 義思想に到達したのが幸徳秋水

 ・堺利彦「その発展は自然の道程」として、「総論」冒頭の文章を引用

 ・平野義太郎『自由民権運動とその発展』(新日本出版社)において、日本に
  おいては自由民権運動の発展として日本の社会主義思想の誕生をとらえてい
  る
  →これは日本共産党の歴史を考えるうえで極めて重要

 

3.ルソーの自由民権思想とフランス革命

① フランス革命とは何か

●「世界が頭のうえに立った時代」(22ページ)

●「理性の国とはブルジョアジーの国を理想化したもの」

 ・「自由・平等・友愛」をスローガンにかかげたフランス革命も、その実体は
  ブルジョアジーが封建貴族を打倒する革命であった

 ・結局「ブルジョア民主共和国」の誕生でしかなかった


② ルソーの『不平等起原論』と『社会契約論』をどうとらえるか

 1)ルソーは史的唯物論に近似した考え

  ・古代社会を私的所有の存在しない共同社会であり、根本原理を自由・平等
   とする

  ・生産力の発展による私有財産が階級対立と社会的不平等をもたらしたとす
   る――しかも国家を階級支配の機関ととらえている

  ・未来社会を私有財産を廃止して人間の本質である自由と平等を回復する人
   民主権の社会ととらえている

 2)ルソーの人民主権論(未来社会論)

  ・人民は「一・ 般意志」を形成し、その指導下に自己を置く

  ・一般意志とは、真にあるべき政治的意志

  ・一般意志は、人民の全体意志ではない

  ・全体意志は一般意志に高まらねばならない(しかし、それを導きうるのは
   神の如き天才のみ)

  ・人民を啓蒙して一般意志に高めるという意味で「啓蒙思想」とよばれるル
   ソーの人民主権論は治者と被治者の同一性、「人民の人民による人民のた
   めの政治」として社会主義をも射程におさめたものルソーを社会主義の先
   駆者ととらえたのが、京大、桑原グループ。しかし科学的社会主義の陣営
   ではそう理解しなかった


③ 「ルソーの社会契約はブルジョア民主共和国として生まれ出たし、
  またそうなるよりほかはなかった」(22ページ)

● その責任はルソーにあるのではなく、革命で権力を手にしたブルジョアジーに
 あり

 ・だからこそバブーフ、ブオナロッティは、ルソーの人民主権論と自由・平等
  をかかげて共産主義を訴えた

● 「18世紀の大思想家たちも、彼ら自身の時代によって設けられた限界を越え
 ることはできなかった」(同)とするのは疑問

 ・ルソーは私的所有が、階級社会と階級対立を明確に含んでいることを指摘

 ・ルソーのいう「真の社会契約国家」は私有財産を否定し、一般意志のもとで
  の真の平等社会

 ・エンゲルスも、ルソーの未来社会論を「『資本論』がたどっているものと瓜
  二つの思想の歩み」(217ページ)と評価

 

4.ブルジョアジーの三大闘争と空想的社会主義

① ブルジョア民主主義革命における労働者階級の自主的な動き

● 封建制に対するブルジョアジーの三大闘争

 ・ドイツのプロテスタント宗教改革と農民戦争

 ・イギリスのピューリタン革命(絶対主義的王制を打倒)と名誉革命(立憲君
  主制を確立)

 ・フランス革命

● 三大闘争のすべてに労働者階級の自主的な動き

 ・ドイツにおけるトーマス・ミュンツアー派

 ・イギリスにおける水平派

 ・フランスにおけるバブーフ「近代のプロレタリアートの多少とも発展した先
  駆者」(23ページ)、私的所有そのものを廃止して搾取を根絶しようとした


② 空想的な理想社会

● 16世紀にトーマス・モア『ユートピア』、17世紀にトマス・カンパネラ
 『太陽の都市』

● 18世紀に「あからさまな共産主義理論(モレリとマブリ)」(23ページ) ――平等要求は階級の廃止にまで


③ 三人の空想的(ユートピア)社会主義者

● サン・シモン、フーリエ、オーエン

 ・「この三人の全部に共通な点は、彼らが、そのころまでに歴史的に生まれて
  いたプロレタリアートの利益の代表者として登場したのではないというこ
  と」(24ページ)

 ・「ブルジョアの博愛的な心と財布に呼びかけ」(全集④ 506ページ)、社会
  主義を実現しようとした

 ・ブルジョア世界を「非理性的で不正なもの」(同)としてとらえ「絶対的真
  理、理性、正義の表現」(25ページ)としての社会主義を主張

 ・19世紀の社会主義者は、サン・・ シモン派、フーリエ派、オーエン派の三
  つに大別された

 ・彼らの社会主義は、「各流派の開祖ごとにいちいち違っている」(同)

 ・「一種の折衷的な平均的社会主義よりほかには、なにもでてきようがなかっ
  た」(同)

● 空想と理想のちがい

 ・空想は観念論的空中楼閣。理想は現実を反映して唯物論的

 ・空想的社会主義者は客観世界の矛盾をとらえ、その矛盾を止揚するものとし
  て社会主義をとらえようとしなかったために、その社会主義は理想ではなく
  空想になってしまった

● 空想的社会主義者の行き着く先

 ・彼らは、空想的な社会改革を実行しようとして「全社会に、とりわけ支配階
  級に、呼びかけ」「あらゆる政治行動、とりわけあらゆる革命的行動を非難
  する」(『共産党宣言』全集④ 505ページ)

 ・「空想のうえで階級闘争を超越し、空想のうえで階級闘争を克服することに
  は、どんな実践的な価値も、どんな理論上の正当性もないようになる」
  (同)

 ・彼らの行き着く先は、「反動的社会主義者または保守的社会主義者」
  (同 506ページ)

● 「社会主義を科学とするには、まずそれを実在的な基盤の上にすえなければな
 らなかった」(25ページ)

 ・資本主義の諸害悪を生みだす根本原因を現実の資本主義社会の分析をつうじ
  て明らかにし、その原因を除去することによる社会主義の実現を

 ・こうしてマルクスは1844年以降、経済学の研究に没頭し、『資本論』(第1
  部1867年)を著す

 ・「『資本論』のなかで――この方法(弁証法――高村)を適用したことは、
  マルクスの功績」(238ページ)

 ・ マルクスは『資本論』を書くためにヘーゲル弁証法を研究した


④ 科学的社会主義の源泉となる社会主義理論

● レーニン「三つの源泉と三つの構成部分」のうち「フランス社会主義」が問題

 ・レーニンは「フランス社会主義」として空想的社会主義をあげ、彼らは「真
  の活路を示すことはできなかった」(レーニン全集⑲ 7ページ)と消極的に
  評価

 ・『反デューリング論』に引きずられて、空想的社会主義を取り入れたにすぎ
  ない

● これに対し、フランスのバブーフ共産主義は、階級闘争のなかから生まれ、階
 級的観点をもった共産主義理論

 ・人民主権を基軸とする社会主義・共産主義理論は、パリ・コミューン、人民
  戦線と人民戦線政府、人民民主主義国家、日本共産党新綱領へと引き継がれ
  る

● 源泉の一つとしての「フランス社会主義」は、「ルソーの人民主権論にもとづ
 くフランス共産主義と階級闘争の理論」としてとらえるべきもの