2007年7月18日 講義

 

 

第3講 弁証法 ①

 

1.科学的社会主義の源泉としてのドイツ古典哲学

● カントからフィヒテ、シェリングを経てヘーゲルに至る哲学者が「ドイツ古典
 哲学」

● フランス革命の洗礼を受け、その本質を哲学的にどう総括するかを根本思想に

 ・「この世界史上の偉大なる時期に…ただ二つの国民のみが参加した、……ド
  イツに於てはこの原理は思想や精神や概念として発現し、フランスに於ては
  現実そのものの中に勃発した」(ヘーゲル『哲学史』㊦ 355ページ)

 ・哲学の領域におけるフランス革命――「ドイツ的啓蒙」(穏健な啓蒙)

● 「ヘーゲルにおいてその完結に達していた」(26ページ)

 ・挫折したフランス革命の精神を貫徹しようとした

 ・変革の哲学・弁証法の「一般的な運動諸形態をはじめて包括的で意識的な仕
  方で仕方で叙述した」(『資本論』「あと書き〔2版への〕」)

● 「ドイツ哲学の最大の功績は、思考の最高の形式としての弁証法をふたたびと
 りあげたこと」(26ページ)

 

2.思考にかんする科学

● 「思考にかんする科学は、……一つの歴史的な科学」(231ページ)

 ・500万年の人類の認識の発展は、真理を認識するための思考の形式(枠組
  み)、思考の法則をも歴史的に発展

● 思考の形式に弁証法と形式論理学

 ・人類はいかにして、弁証法的唯物論という最高の真理認識の方法にまで到達
  したのか

 ・その歴史を概観する

● 形式論理学と形而上学

 ・エンゲルスは、形式論理学と形而上学とを混同し、同じような意味に使用し
  ている

 ・しかし、両者は区別しなければならない

 ・自然科学の発展にとって形式論理学は、必要かつ有益な論理

 ・事物の相対的固定性をとらえる論理

 ・エンゲルスも「思考とその諸法則とにかんする学問――形式論理学と弁証
  法」(33ページ)とは必要だと解している

 ・これに対し、形而上学とは、一面的な正しくない理論

 ・ほんらい弁証法を適用すべき運動、連関の場面に形式論理学をあてはめると
  形而上学という誤った論理を生みだす

 ・ヘーゲルは形式論理学と形而上学とを区別して使用している

 ・古い形而上学は「理性的対象の単に悟性的考察」(『小論理学』27節)

 ・「有限な事物は、言うまでもなく、有限な諸述語によって規定されなければ
  ならないから、この場合には悟性の活動はその場所をえている」(同28節
  補遺)

 ・「理性的対象は、このような有限な述語によっては規定できないものであ
  る。そしてあえてそれを行おうとしたところに、古い形而上学の欠陥があっ
  た」(同)

 

3.思考の形式の歴史

① 古代ギリシア哲学

● 「みな、生まれながらの天成の弁証家」(26ページ)

 ・アリストテレス――「弁証法的思考の最も根本的な諸形式を研究」

● 「まず第一にわれわれの前に現れてくるものは、もろもろの連関と交互作用と
 が限りなくからみ合った姿」であり、「すべてのものが運動し、変化し、生成
 し、消滅する」(26ページ)

 ・ヘラクレイトス「・ 万物は流転する」(panta rhe・)「万物は存在し、ま
  た存在しない」(同)という弁証法
  ――ヘーゲルの「成は有と無の統一」に

 ・ヘーゲル「ヘラクレイトスの命題で、私の論理学の中にとりいれられなかっ
  たものはない」(『哲学史』上巻 362ページ)

 ・原子論――原子と空虚の統一――現代量子学の粒子と波動(場)の統一につ
  ながる


② 弁証法から形式論理学へ

● 15世紀後半にはじまる自然科学の発展

 ・ルネッサンスと宗教改革の時代

 ・個々の事物を自然的「連関から取り出して、それぞれ別個に、その性状」等
  を研究
  ――コペルニクス、ケプラー、ガリレイ、ニュートン

 ・「自然をその個々の部分に分解」、「一定の分類に分ける」「解剖学的形態
  について研究」(27ページ)――要素還元主義

 ・ 自然の絶対的な不変性――「ニュートンの恒久的な太陽系」(30ページ)、
  リンネの「不変の生物の種」(33ページ)

● 自然科学の発展がもたらした思考の形式
 1)個々の事物を「大きな全体的連関から切りはなしてとらえる」(同)
  ・運動が連関を生みだすのに、運動をみないから連関をとらえられない
 2)運動、変化、生きているものとしてとらえるのではなく、静止、固定、死
  んだものとしてとらえる」この思考の形式が形式論理学を生みだした


③ 形式論理学から弁証法へ

● 「自然は弁証法の検証となるもの」(30ページ)

 ・17世紀の生物細胞の発見、18世紀のカントの星雲説

 ・自然にも歴史があることを明らかに

● 18世紀のフランス革命

● この二つの状況の反映として、ドイツ古典哲学の弁証法とそれを完成させた
 ヘーゲル

● 「近代のドイツ哲学は、ヘーゲルの体系において完結に達した」(31ページ)

● 「ヘーゲルの体系ではじめて、自然的、歴史的、精神的世界の全体が一つの過
 程として、すなわち、不断の運動、変化、転形、発展のうちにあるものとして
 示され、またこの運動や発展の内的な連関を明らかにする試みがなされた」
 (同)

 ・ヘーゲル『エンチクロペディー』は論理学、自然哲学、精神哲学からなり、
  世界全体を弁証法的にかつ体系的にとらえようとした

 ・人類の歴史は、「人類そのものの発展過程として現われてきた」(同)

 ・ヘーゲルは、この「過程の内的な法則性」(同)は明らかにしえなかった
  が、この課題を提起したところに「画期的な功績」(同)


④ 弁証法から形而上学へ

● ショーペンハウアー、ハルトマン、フォークト、ビュヒナーによる古典哲学と
 の絶縁(233ページ)

 ・形而上学に回帰し、「弁証法まで投げすて」(同)


⑤ マルクス、エンゲルスの弁証法的唯物論

● 真理認識の思考の形式の到達点としての弁証法的唯物論

 

4.弁証法と形式論理学

① 形式論理学の基本原理

● 同一律(AはAである)、矛盾律(Aであると同時に非Aであることはできな
 い)排中律(Aであるか非Aであるかのいずれかであり、その中間はない)

 ・3つの基本法則は結局のところ同一律に帰着する

 ・同一律はひとつづきの思考のなかでは概念のしめす内容は同一でなければな
  らないという常識的な考え方

 ・同一律は教養の基本になるもの

● 現在はこの3法則に、ライプニッツの充足理由律(すべてのものはその充分な
 根拠をもっている)を加えた4法則を、形式論理学の基本法則としている


② 形式論理学とその限界

● 事物を「個々ばらばらな」「固定した不動のもの」(28ページ)としてとらえ
 る

 ・ものごとを「あれはあれ、これはこれ」という「もっぱら媒介のない対立」
  (同)においてとらえる――これが同一律

 ・「存在するかしないか」「或るものか他のものか」「積極的なものか消極的
  なものか」「原因か結果か」

● 「いわゆる常識の考え方」

 ・「きわめて広い領域で正当性をもっており、必要でさえある」

 ・裁判所や国会での議論はすべて形式論理学

 ・形式論理学は「頭脳の整理をすることができる」(『小論理学』20節補遺)

● 事物の運動や連関をとらえようとすると限界に直面

 ・「限界からさきでは一面的な、狭い、抽象的なものとなって、解決できない
  矛盾に迷いこんでしまう」(28ページ)

● 運動するものは、或るものから他のものに移行すること。その限界においては
 「或るものと同時に他のもの」「或るものでないと同時に他のものではない」
 「或るものと他のものは、限界において同一であると同時に区別されている」
 =弁証法でとらえるしかない

 ・胎児と人の限界――法律家のムダ骨

 ・生と死の限界――臓器移植は、死んだ人から生きた臓器を取り出すという矛
  盾

 ・生命体における同一と区別の統一

 ・電極のプラスとマイナス(電気の流れと電子の流れ)――原因と結果の相互
  移行

● 形而上学的考えの誤り

 ・限界をこえて形式論理学を適用することからの誤り

 ・「個々の事物にとらわれてその連関を忘れ」――胎児と人との連関を忘れる

 ・「それらの存在にとらわれてその生成と消滅を忘れ」――生にとらわれ、生
  が死との統一であることを忘れる

 ・「それらの静止にとらわれてそれらの運動を忘れる」――生命体を同一なも
  のとしてとらえ、その区別をみない

 ・「木を見て森をみない」――電流の流れだけをみて、電子の流れをみない


③ 弁証法

● 「事物のその概念上の模写とを、本質的にその連関、連鎖、運動、生成と消滅
 においてとらえるもの」(29,30ページ)

 ・「自然は弁証法の検証となるもの」(30ページ)――エンゲルスは、それを
  『自然の弁証法』で検証しようとした

● 「世界全体、それの発展と人類の発展、さらにこの発展の人間の頭脳における
 映像を正確に示すことは、弁証法的な方法によって、生成と消滅、前進的また
 は後退的な変化の全般的な交互作用にたえず留意する場合にだけ、達成するこ
 とができる」(同)

 ・弁証法は、運動する物体をとらえる真理認識の方法

 ・18世紀の機械的、形而上学的唯物論を打ち破る3大発見
  ――細胞の発見(生命体の同一と区別)、エネルギー転化の法則(エネル
  ギーの同一と区別)、ダーウィンの進化論(種の変化)

 ・カント・ラプラスの星雲説――太陽とその惑星は星雲のようなガスのかたま
  りから進化したとして、ニュートンの「神の一撃」の考えをうち破る

● 弁証法の基本原理は、対立物の統一

 ・「媒介されない対立」に対し「媒介された対立」

 ・対立物の統一の展開として、対立物の同一、対立物の相互浸透、対立物の相
  互排斥


④ 弁証法は形式論理学を包摂する

● 運動の一般的法則をとらえる(すべての運動は対立物の統一)

● 「運動は物質の存在の仕方である。運動のない物質はかつて、どこにもなかっ
 たし、またありえない」(90ページ)

● 「あらゆる静止、あらゆる平衡は相対的なものにすぎず」(同)
 ――この運動の特殊な一形態をとらえるのが形式論理学

● 弁証法的論理学は、形式論理学を包摂する
 「思弁的な論理学は単なる悟性の論理学を含んでいる」(『小論理学』82節)