2007年8月1日 講義

 

 

第4講 弁証法 ②

 

1.形式論理学と弁証法の基本原理

● 形式論理学の基本原理は、同一律(無矛盾律)と「媒介のない対立」

● 弁証法の基本原理――矛盾率と「媒介された対立」(=対立物の統一)

 ・基本になるのは、肯定と否定の統一、または有と無の統一

 ・運動とは、有と無の統一(ここにあって、ここにない。或るものであって或
  るものでない=対立物の闘争)

 ・静止もまた有と無の統一(或ものは、或るものとしての質を持つと同時に他
  のものではない=対立物の同一、対立物の調和的統一)

● 弁証法は形式論理学を包摂し、静止し、固定したものをも対立物の統一という
 より深い認識として示す

 

2.ヘーゲル哲学の本質

● ヘーゲルは「弁証法の一般的な運動形態をはじめて包括的かつ意識的な仕方で
 叙述」(『資本論』)

 ・「自然的、歴史的、精神的世界の全体が一つの過程として」(31ページ)示
  された
  ――『エンチクロペディー』の論理学、自然哲学、精神哲学の体系

● エンゲルスのヘーゲル評価(1878)

 ・ヘーゲルは観念論者

 ・「彼には、彼の頭のなかの思想は、現実の事物や過程の多かれ少なかれ抽象
  的模写とは考えられなかった」(32ページ)

 ・「逆に事物とその発展の方が、すでに世界よりもまえにどこかに存在してい
  た『理念(イデー)』の現実化された模写にすぎないと、彼には思えた』
  (同)

 ・「すべてのものが逆立ち」(同)

 ・「一つの巨大な流産」(同)

 ・体系のもつ矛盾――「一方では、人類の歴史を一つの発展過程」とみなが
  ら、他方で体系の絶対化

● マルクスのヘーゲル評価

 ・「私の弁証法的方法は、ヘーゲルのそれとは根本的に異なっているばかりで
  なく、それとは正反対のもの」(『資本論』)

 ・「弁証法はヘーゲルにあっては逆立ちしている。神秘的な外皮のなかに合理
  的な核心を発見するためには、それをひっくり返さなければならない」

● しかし、エンゲルスの『フォイエルバッハ論』(1886)におけるヘーゲル評価
 は微妙に変化する

 ・ヘーゲル哲学の「革命的性格は絶対的」(全集㉑ 272ページ)

 ・「ヘーゲルの体系は、その方法と内容とにおいて観念論的にさかだちさせら
  れた唯物論」(同 281ページ)

 ・ヘーゲルの観念論は「概念弁証法」(同 298ページ)に示されている

 ・弁証法的唯物論によって「ヘーゲルの場合その徹底した展開のじゃまになっ
  ていたあの観念論的装飾から解放された」(同)
  →『反デューリング論』とニュアンスが異なり、ヘーゲルを部分的に評価
   (エンゲルスの反省を示すもの)

 

3.ヘーゲルは客観的観念論者か

① ヘーゲル哲学は、真にあるべき姿(概念)をかかげた、理想と現実の統一

② ヘーゲル哲学は2500年の哲学の歴史の総括のうえに確立

● 哲学の歴史の大道は唯物論、その大道を歩むものであって、特異な異端の観念
 論ではない

 ・プラトンの観念論的イデア論を批判して、唯物論的イデア論を展開

 ・バークリーの主観的観念論も批判

● ヘーゲルは、客観的観念論も主観的観念論も批判


③ 保守主義者から「革命的性格」へのヘーゲル評価の変遷は、
  観念論者との評価をもゆるがせる

● 革命的立場は 、現実に立脚した唯物論からしか生まれない

● 客観的事実から出発して認識を発展させようとする科学的立場「一口に言えば
 哲学の内容は現実」(『小論理学』6節)


④ ヘーゲル哲学の「概念」には神秘的装い

● 「理念」「概念」は、「世界より前にどこかに存在していた」ものではなく、
 現実の分析をつうじてとらえられるものであるが、真の意味を読み解かれない
 ように幾重もの擬装

● そのためマルクス、エンゲルスも、「概念」の意義を正確に把握しえなかった
 (後の世代も誰一人理解しえなかった)

● 真にあるべき姿をかかげての理想と現実の統一は、科学的社会主義の変革の立
 場と基本的に一致


⑤ レーニンの評価

●「ヘーゲルのこのもっとも観念論的な著作のうちには、観念論がもっともすく
 なく、唯物論がもっとも多い。"矛盾している"しかし事実だ!」(レーニン全
 集㊳ 203ページ)


⑥ 「観念論的装いをもった唯物論」と規定されるべきもの

● レーニンは、「概念」について近似解に到達

● 概念論は、観念論的装いをもっているが、中身は唯物論的

● マルクス、エンゲルスが「概念」の意味を正確に理解していたら、ヘーゲルの
 評価も変わったのではないか

 

4.弁証法的唯物論成立の土台

① 自然科学の発展と階級闘争の発展

1)三大発見により、機械論的、形而上学的唯物論から弁証法的唯物論へ

● 熱エネルギーの発見による「エネルギー転化の法則」(全集⑳ 507ページ)

 ・「これまではいわゆる力として、説明のつかぬ謎の存在であった自然におけ
  る無数の作用原因――力学的な力、熱、輻射線(光と放射熱)、電気、磁
  気、化学的な結合力と分離力――のすべては、いまや同じ一つのエネルギー
  つまり運動の、特殊な形態ないしは存在の仕方であることが説明された」
  (同)

 ・ 現在では、力学的エネルギー、化学エネルギー、電気エネルギー、光エネル
  ギー、熱エネルギー、音のエネルギーと、エネルギーの種類と変換の関係が
  解明されている

● 生物細胞の発見――「あらゆる生物がその増殖と分化とによって発生し成長す
 る単位としての細胞の発見」(同 508ページ)

 ・1953年、ワトソンとクリックによるDNAの構造の解明

● ダーウィンの進化論――「少数の簡単なものから出発して、……より多様な、
 より複雑なものへとすすみ、ついには人間にまで至る生物の進化の系列」
 (同)

 ・ DNAの情報によって「生命の樹」における「分子時計」から「生命の樹」
  の解明に「近代唯物論は、近時の自然科学の進歩を総括する」(33ページ)

2)社会における階級闘争の発展

● 1831年、リヨンにおける最初の労働者蜂起

● 1838〜41年、イギリスのチャーチスト運動

 ・「最初の広範な、真に大衆的な、政治的にはっきりしたかたちをとったプロ
  レタリア革命運動を世界にあたえた」(レーニン全集㉙ 307ページ)

● ヨーロッパ諸国において「プロレタリアートとブルジョアジーとの階級闘争が
 それらの国の歴史の全面に現れて現われてきた」(34ページ)

3)「〔歴史でも自然でも〕近代唯物論は本質的に弁証法的」(33ページ)

● 自然科学と階級闘争の発展を土台にして、マルクス、エンゲルスの弁証法的唯
 物論が成立

● 個別科学が弁証法的になると「全体的連関を取り扱う特別な科学」(同)
 ――体系的な哲学――はいっさい不要になる

● 「これまでの哲学のなかで、なお独立に存続するのは、思考とその諸法則とに
 かんする学問――形式論理学と弁証法である」(同)

 ・もはや自然科学も精神哲学も不要になる


② 科学的社会主義への発展

1)自然科学を弁証法的に総括することにより科学の発展に寄与

● ヘーゲルも「自然科学全体を弁証法的に総括」(『自然の弁証法』全集⑳ 556
 ページ)――しかし、弁証法的移行は「人為的」(同)

● 『自然の弁証法』と『反デューリング論』で自然を総括

 ・弁証法的運動法則が、「自然のうちでも、無数のもつれあった変化をつうじ
  て自己を貫徹しているということを、……個々の点についても確かめること
  であった」

 ・『自然の弁証法』では、物質の運動諸形態一般と数学、力学的と天文学、物
  理学、化学、生物学の弁証法的内容が順を追って考察

● エンゲルス以後の自然科学の発展に貢献

 ・物質の最小単位についての無限の探究

 ・宇宙の生成、発展、消滅論

 ・「生命の樹」の探究

 ・量子力学における偶然性と必然性の統一

2)社会の構造とその発展法則の解明〔史的唯物論または唯物史観)

● 「すべての歴史は、原始状態を別とすれば、階級闘争の歴史であったこと」
 (注 191ページ)

 ・対立物の闘争が発展の原動力という弁証法を適用して、階級闘争の理論を

 ・階級的観点の重要性

● 階級的観点にもとづく社会の構造の唯物論的解明――国家、社会は科学の対象
 に

 ・土台と上部構造との対立物の統一――国家の起原と本質

 ・政治と経済の関係

● 史的唯物論により、これまでの人類の歴史は、原始共産制、奴隷制、封建制、
 資本主義の歴史であり、社会主義への発展の必然性を明らかに

3)資本主義的生産様式の運動法則の解明

● 「『資本論』のなかで一つの経験的科学すなわち経済学の諸事実にこの方法
 (弁証法――高村)を適用したことは、マルクスの功績」(238ページ)

● 資本主義的生産様式の「内的な性格」(35ページ)をあばきだし「その没落も
 また必然的であることを示す」(同)

 ・その鍵となる「剰余価値の発見」

 ・「資本主義的生産の真の制限は、資本そのものである」(『資本論』⑨ 426
  ページ)

4)科学的社会主義の誕生

● 「この二つの偉大な発見、すなわち唯物史観と剰余価値を手段とする資本主義
 的生産の秘密の暴露とは、われわれがマルクスに負うものである」(36ペー
 ジ)

● この発見により「社会主義は科学になった」(同)

 ・二大発見は、社会を科学する「科学の目」となるもの

 ・「この科学をそのあらゆる細目と連関とにわたってさらに仕上げていくこ
  と」(同)が後の世代の課題となる

● 科学的社会主義の学説は、真理に無限に接近しうるために必要な思考の形式で
 はあるが、それ自体が絶対的真理ではなく、無限に発展しうる理論

 ・科学的社会主義の構成部分に人間論(生き甲斐論)、政治論(人民主権論、
  自由、民主主義論)も含めて考えるべき