2007年9月19日 講義

 

 

第7講 哲学 ③ 物質と運動

 

1.宇宙の誕生

① 物質の階層性

● 物質世界の3つの構造系列

 ・第1の構造系列――素粒子、原子核の系列

 ・第2の構造系列――原子、分子、高分子、結晶、人間、惑星のスケールに
           至る系列
 ・第3の構造系列――恒星、星団、銀河、宇宙への天体の系列

● 安定した物質は、引力と斥力の統一

 ・第1の系列――核子(陽子と中性子)を構成するクォーク間の引力と斥力
         (核力または強い力)
 ・第2の系列――原子核と電子間の電磁力

 ・第3の系列――重力(引力)と斥力(核力、電磁力による)

 ・第4の力――弱い力(放射性元素を崩壊させる力)
  →第1、第2の構造系列の運動法則は、量子力学(不確定性原理の支配)
  →第2の一部と第3の運動法則は、ニュートン力学


② 力の分化と力の物質化

● 宇宙のはじまりからから10秒後(プランク時間)までは、量子的世界の時代

 ・「時間・空間・物質(またはエネルギー)という概念が混然一体となってい
  て区別がつかない時代」(同 53,55ページ)

● プランク時間に重力が分化

● 10−36秒後強い力が分化

 ・クォークと反クォーク、陽子と反陽子が対生成と対消滅をくり返す「真空の
  ゆらぎ」

 ・真空のエネルギーが宇宙のインフレーションをもたらす

● 10−11秒後に電磁力と弱い力が分化

 ・光のエネルギーが物質のエネルギーを圧倒していてプラズマ状態、物質形成
  されず

● 強い力の物質化

 ・温度の低下により、宇宙のはじまりから3分の間に強い力により、ハドロ
  ン、水素、ヘリウムなどの原子核形成

● 弱い力の物質化
 ――ハドロンは核子、電子へと崩壊し、同時にニュートリノが誕生する

● 電磁力の物質化

 ・陽子と電子が電磁力により結合して水素原子、その他の中性原子に

 ・宇宙の物質のほとんどが中性原子となり、「宇宙の晴れあがり」に
  ――プラズマから物質の世界に

● 重力の物質化

 ・物質はみずからの重力で収縮し、巨視的天体をつくるように


③ デューリングの宇宙生成論

● カントの星雲説

 ・「現存する天体は、すべて回転する星雲塊から発生した」(86ページ)

 ・「自然には、時間上の歴史がないという考え」(同)を動かしたもの

 ・「コペルニクス以後に天文学がなしとげた最大の進歩」(同)

 ・物質が原始星雲前の「無限の系列を経過」(87ページ)したことを前提

● デューリング

 ・カントは、星雲以前の「力学的な系」(85ページ)を明確にしていない

 ・自分はそれ以前を「世界媒質の完全に同一な状態」(87ページ)ととらえて
  いる

 ・この「世界媒質」は「物質と力学的な力との統一」(88ページ)

 ・この「物質と力との統一」が展開すると運動が始まる

● エンゲルスの批判

 ・彼は運動を力学的運動に還元することで「物質と運動との現実の連関を理解
  できないようにしてしまう」(89ページ)

 ・ニュートン力学は、物体には外からの力が働かないと運動は始まらない(慣
  性の法則)として、宇宙の始まりを神の「最初の一撃」に

 ・デューリングも同様の誤り

 

2.物質と運動

① 運動は物質の存在の仕方

●「運動は物質の存在の仕方」(90ページ)

 ・「運動のない物質は、かつてどこにもなかったし、またありえない」(同)

 ・「あらゆる静止、あらゆる平衡は相対的なものにすぎず、あれこれの特定の
  運動形態にかんしてのみ意味をもつ」(同)

● 物質世界には、ミクロの世界とマクロの世界

 ・エンゲルスの時代は、マクロの世界の運動のみしかとらえられなかった


② ミクロの世界の運動

● マクロの世界のニュートン力学、ミクロの世界の量子論(佐藤勝彦『「量子
 論」を楽しむ』PHP文庫)

● 量子とは何か

 ・量子とは「量」の固まり

 ・量子(電子、光子、陽子、中性子など)は粒子と同時に波として、不連続的
  変化をする――つねにゆらゆら、ふらふら、あらわれたり、消えたり

● 量子の不思議

 ・量子は見てないときは波、見たときは粒子

 ・量子の位置と運動量は「不確定性原理」によって支配
  ――ニュートン力学の決定論と異なる

 ・量子の運動は「あれかこれか」ではなく、「あれもこれも」という弁証法に
  おいてのみとらえうる

 ・素粒子も「あれかこれか」ではなく、作られたり消えたり、別の粒子に変
  わったり

 ・ボーア「相補性の原理」=対立物の統一

● 場の量子論

 ・量子論では、「何もない」という確定した状態はありえない

 ・「真空のゆらぎ」
  ――真空は「無」の空間ではなく、粒子の対生成、対消滅をくり返す空間

 ・宇宙は、「真空のゆらぎ」から生じた粒子・反粒子の対称性の崩れから生じ
  た

● ミクロの物質は、対立物の統一として生まれた


③ マクロの世界の運動

● 分子の熱運動から物質の3態(固体、液体、気体)が生まれる

● マクロの世界の運動

 ・力学的、物理的、化学的、生物的、社会的運動

 ・マクロの世界で、ようやく一時的、相対的な静止を論じうる


④ デューリング批判

●「物質の無運動の状態ということは、最も空虚で、最も愚劣な観念の一つ(91
 ページ)

 ・ミクロの世界の解明で、ますます無運動の空虚さが明らかに


⑤ 物質の力学的運動

● 力学的エネルギー保存の法則

 ・位置エネルギー+運動エネルギー=力学的エネルギー

 ・位置エネルギーが小さくなれば、その分運動エネルギーは大きくなる
  (ジェ ットコースターや振り子の運動)

● 世界に存在する運動の量はつねに同一であるというふうに表現している。だか
 ら運動は生みだすことはできず、ただ伝達することができるだけである」
 (90ページ)

 ・マイアーのエネルギー保存の法則――自然界を支配する重要な基本法則

 ・エネルギーにはいろいろな種類があり、他のエネルギーに形を変えても、そ
  れに関係したエネルギーの総和はつねに一定

 ・運動量、角運動量保存の法則も

 ・エンゲルスは、まだ運動と力とエネルギーとをあまり区別せずに使用してい
  る


⑥ 位置エネルギーと潜熱

● デューリングの位置エネルギーの誤解

 ・位置エネルギーから運動エネルギーへの転化を「静力学的なものから動力学
  的なものへの橋」(92ページ)とみなした

 ・しかし、位置エネルギーは静止していてもエネルギーを自己のうちにもって
  いる

● デューリングの潜熱の誤解

 ・潜熱を運動から無運動への移行とみなした

 ・しかし、潜熱は分子間の結合力を変化させる熱エネルギーとして、運動をも
  たらしているのであり、運動を消滅させたのではない

 ・「消えうせた熱は仕事をした、仕事に転化された」(96ページ)

● デューリングが、世界のはじまりを無運動から運動への移行として説明しよう
 とする「試みがすべてなりたたないことが、いよいよ明らかになってくる」
 (98ページ)