2007年10月3日 講義

 

 

第8講 哲学 ④ 生命と進化

 

1.生命の誕生

① 生命の起源に関する自然科学の到達点

● 「がらくたワールド」から

 ・原始大気や星間塵中で複雑な有機物(がらくた分子)→海水に

 ・原始海洋中の「がらくた分子」は分解してアミノ酸、核酸の部品提供

 ・「がらくた分子」から自己触媒分子
  →がらくた分子を材料に「タンパク質ワールド」と「RNAワールド」
  →「RNAタンパク質ワールド」→コモノートへ

● コモノートとしての、高度好熱菌誕生


② デューリングの生命起原論批判

● 有機物から生命への移行は、「幾多の中間項からなる、統一的で唯一の階段
 (100ページ)

 ・連続的移行としてとらえる

● 階層を異にする自然への移行は、「飛躍であり、決定的な転換」(同)

 ・「一つの運動状態から別の運動状態への移行」(同)は、連続性と非連続性
  の統一

 ・デューリングは、矛盾を否定するところから、連続性のみをみている

 

2.生物の進化

① 生物の進化学

● コモノートから、40億年で1000万種の生命に

 ・進化の原動力には、無機的条件と生物的条件

 ・ヘーゲルは、無機的・生物的環境適応能力を「内的目的性」とよぶ

 ・内的目的性とは、「意図をもって」(p.101)の目的ではなく、「事柄その
  ものの必然のうちにふくまれている目的」

● 内的目的を生みだす3つの機構
 1)突然変異(ミューテーション)
 2)淘汰(セレクション)
 3)浮動(ドリフト)

● ダーウィンの進化論は、自然淘汰の法則を明らかにしたもの
 1)生物の個体間には、遺伝的違いがある
 2)生物の個体間には、生涯をつうじて残す子どもの数の違いがある
 3)ある特定の環境の下で特定の性質をもつ個体は、より多くの子孫を残す傾
   向がある
  →3つの条件により、生涯を通じて残す子孫の数が最大となる遺伝的な性質
   が選出されることをダーウィンは「生存闘争」による「自然淘汰」とよん
   だ


② デューリングのダーウィン批判

● ダーウィン「生存闘争に有利な個体的特徴をもっている個体が、成熟に達し繁
 殖する見こみがいちばん多い……そういう個体的特徴が増進する傾向……自然
 選択(淘汰)をつうじて……種は進化」(104ページ)

● デューリング

 ・「意識のない植物や柔和な草食動物のあいだでの生存闘争」(105ページ)
  は問題になりえない

 ・生存闘争は、「野獣界の領域」(同)のみ

 ・「人間性に対置された一片の野獣性」(103ページ)
  →自然淘汰はそのまま受けいれている
  →ダーウィンは「変異を引き起こした原因を度外視」しているとの批判も、
   時代の制約を無視するもの

 

3.適応と遺伝

① ダーウィンとヘッケル

●自然淘汰論には「適者生存」という言葉にもみられるように、受動的、偶然的
 に進化するような含みが残されていた

● 偶然的な変異が必然的な進化として十分説明されていない

● ヘッケルは「適応と遺伝」として進化を説明

● エンゲルスは、ヘッケルの「適応」に進化の必然性をみた

 ・進化とは、偶然の変異のなかから、種が主体として環境に最適な変異を選択
  する必然性

 ・偶然性と必然性の統一


② デューリングのヘッケル批判とエンゲルスの反批判

●「適応」には、「観念によって規定される衝動と活動が前提」(107ページ)
 ――意識による作用が求められるから、「心霊論的混乱を持ち込む」(108
 ページ)もの

● しかし、適応とは、「無意識的な目的活動」雨ガエルが緑色、砂漠の動物の黄
 砂色、北極グマの白色

 

4.生命の系統樹

① 共通の祖先は一種か、多種か

● デューリングはダーウィンを批判して、生命の祖先を複数の系統ととらえてい
 る

● しかし、この問題の解決は、今後の研究に委ねられるべきもの


② 分子時計

● 1953年、ワトソンとクリックによるDNAの二重らせん構造の解明

● その後の生命科学の発展により、たった一種の生命から分岐し、DNAの配列
 の違いが分岐した時間に比例することが判明(分子時計)

 ・人類が類人猿から分岐したのは約500万年前

 ・分子時計と統計的方法にもとづき「生命の樹」の全容はあと10年もすれば解
  明されようとしている

 

5.生命とは何か

① 生物学的統一性の原理

● 生物の共通の要素
 1)成長して子孫を残す
 2)細胞から成る
 3)細胞核にDNA
 4)細胞内の物質代謝の共通性

● 生物の成長は細胞分裂をつうじておこなわれる

 ・1つの細胞が2つに分裂

 ・2本1組の染色体(DNAを含む)は1本ずつに分かれて2つの細胞に

 ・それぞれの細胞でDNAは複製され、2本1組になる

 ・以下これを反覆する

 ・人間の受精卵は1個から60兆個に

● デューリングはこの発生を分裂ではなく「合成」という


② 生命とは何か

● デューリングの「生命とは」

 ・「形態分化」「特殊な脈管」「内部の一点から」の循環

 ・結局、生命とは、・ 細胞をもち、物質代謝するという陳腐なもの

● エンゲルス

 ・生命とは「不断に自己更新する」「蛋白質の存在の仕方」(124ページ)

 ・自己更新は、同化と異化の統一として

 ・生命は、同一と区別の統一

 ・しかしこの定義は「きわめて不十分なもの」(126ページ)
  →その後の研究により、生命は、自己更新と同時に自己複製をすること、自
   己更新はタンパク質をつうじて、自己複製は核酸をつうじて実現されるこ
   とが明らかに

● 「生命とは、タンパク質と核酸の相互作用により、不断の自己更新と自己複製
 をおこなう物質代謝の仕方である」