2007年11月7日 講義

 

 

第10講 哲学 ⑥ 平等論

 

1.道徳に真理はあるか

① 道徳的真理は存在するか

● デューリングは、道徳の究極的真理を肯定

 ・「歴史や民族的差異を超越した永続的な諸原理がある」(144ページ)

 ・例えば「汝盗むなかれ」

● エンゲルスの反論

 ・「盗みをする動機」(同)がなくなる社会もありうる

 ・階級社会の道徳は「つねに階級道徳」(同)


② エンゲルスの道徳論批判

● エンゲルスも特定の民族、特定の時代における道徳的真理を否定せず

 ・それが「普遍的意志」

 ・しかし「普遍的意志」という道徳的真理は、階級社会では仮象にとどまる

● プロレタリアートは「普遍的意志」を「真の道徳」(143ページ)としてかか
 げる

 ・プロレタリアートは「階級対立を克服」(145ページ)した「真に人間的な
  道徳」の擁護者

 

2.デューリングの道徳論

① 先天主義的方法

● 社会を「最も単純な諸要素」(147ページ)に分解し、それに「単純な、自明
 な公理」(同)を適用

 ・2人の人間と平等の公理

● 2人の人間では社会になりえない

 ・集落が限界を越えて下回ると一挙に瓦解――限界集落

 ・2人の社会はありえない

● 2人の人間は、平等にも不平等にもなりうる


② デューリングの平等論

● 2つの人間意志は、原則平等、但し例外あり

 ・子供には適用されず

 ・人格的に「野獣性」(154ページ)をもつ場合も

 ・精神的不平等の場合も

 ・国家を論ずる段階になると、第3の男が必要に
  →平等の問題は「意志」の問題ではなく、政治的、社会的、経済的平等の問
   題

● デューリングが「現実哲学」の立場にたって具体的人間を論じようとすると、
 先天主義的方法は破綻

 

3.平等論

① 近代の平等の要求

●「ルソーによってある理論的な役割」

● フランス革命以後「実践的=政治的役割を演じ、今日なおほとんどすべての国
 の社会主義運動においていちじるしい扇動的役割」(158〜159ページ)

 ・ルソーの「人間不平等起原論」

 ・フランス革命で、政治的平等

 ・バブーフによる社会的、経済的平等の要求


② 平等概念の歴史的考察

● 古代社会は「自由、平等、友愛」の社会

● ギリシャ、ローマは、奴隷制の不平等社会

● 封建制社会は「複雑な社会的および政治的位階制度」(160ページ)の不平等
 社会

 ・そのなかから、市民階級が自由と平等の要求をかかげて登場

● アメリカ独立宣言、フランス人権宣言で、自由と平等が普遍的意志として宣言

 ・実質は、ブルジョアジーの政治的自由と平等にとどまる


③ ブルジョア的平等とプロレタリア的平等

● プロレタリアートは、ブルジョア的自由と平等に反対し、普遍的意志としての
 自由と平等を要求

● プロレタリア的平等とは何か

 ・搾取と階級の廃止による社会的、経済的平等の実現


④ プロレタリア的平等の意義

● 「二重の意義」(164ページ)

 ・貧富の対立にたいする「自然発生的な反発」

 ・ブルジョア的平等がたんなる政治的平等にすぎないことへの反発

● 平等はプロレタリアートのたたかいの扇動手段に

 ・ルソー、モレリ、マブリによる「平等神話」

 ・バブーフの「平等のための陰謀」――私有財産制の廃止を

●「プロレタリア的平等の要求のほんとうの内容は、階級の廃止という要求であ
 る。

 ・これをこえてすすむあらゆる平等の要求は、必然的に不合理なものになって
  しまう」(164ページ)

 ・社会主義になっても「平等」要求は意義を失わない

● 生産と分配は不可分の関係(298ページ)

 ・「社会的生産と資本主義的取得」(488ページ)は、生産と分配の関係に注
  目したもの

 ・「社会的生産と個人的取得」と同義

 ・資本主義的矛盾の解決は「社会的生産と社会的取得」と規定しうる
  ――生産物の平等分配


⑤ 社会主義社会における平等な分配

● 「ゴータ綱領批判」(全集⑲)

 ・「生まれたばかりの共産主義社会」(同 19ページ)
   ――能力に応じて働き、労働に応じて受け取る

 ・「共産主義社会のより高度の段階」(同 21ページ)
   ――能力に応じて働き、必要に応じて受け取る

● 社会的総生産物から、共同利益分を控除した残りで最低限度の生活保障、なお
 余剰がある場合に「労働に応じた分配」

● 社会主義では「全般的な怠惰がはびこる」(『共産党宣言』)

 ・「ブルジョア社会はとっくの昔に怠惰のために滅亡しているはず」

 ・機械的一律的平等ではなく、最低限度の形式的平等のうえに、労働に応じた
  分配という実質的平等を加算


⑥ 平等観念の歴史性

● 平等概念は「1つの歴史的な産物」(165ページ)

 ・デューリングが「平等」を「道徳的正義の根本形式」(149ページ)と理解
  したのも、19世紀にフランス革命の影響もあり「平等神話」が形成されて
  いたことの反映

 ・デューリングの道徳真理論も、19世紀のヨーロッパという地理的、歴史的
  制約の反映でしかない

 ・「どうしてそれらの事柄が彼に自然に思えるのか――それは、もちろん彼の
  問うところではない」