2007年12月5日 講義

 

 

第12講 哲学 ⑧ 弁証法の根本法則

 

1.弁証法の根本法則

① 対立物の統一

● なぜ対立物の統一が真理認識の思惟形式なのか

 ・真理の認識は「無関係を排して諸事物の必然性を認識すること」(『小論理
  学』119節補遺1)

 ・対立とは「固有の他者」をもつ必然性の根本的な形式

 ・対立する二つのものは、いずれも一面的、真理は対立物の統一(対立の解
  消)にある

● 例)肯定的なものと否定的なもの

 ・肯定的なものは、その固有の他者である否定的なものを排除することによっ
  て肯定的なものとして存在する自立的存在

 ・反面、肯定的なものは、否定的なものが存在することによってはじめて存在
  する非自立的存在

 ・肯定的なものと否定的なものとは、自立していると同時に非自立という矛盾
  する関係にある

 ・したがって対立は矛盾

● 対立物の相互浸透と対立物の相互排斥

 ・対立物の自立――対立物の相互排斥、対立物の闘争
  →矛盾の使用による対立の解消

 ・対立物の非自立――対立物の相互浸透
  →対立物の相互移行(同一)による対立の解消
  →対立物の統一は、対立を解消するものとして真理認識の方法


② 弁証法の3法則

● エンゲルスのいう弁証法の3法則(全集⑳ 379ページ)
 ① 量から質への転化、またその逆の転化の法則
 ② 対立物の相互浸透の法則
 ③ 否定の否定の法則→ヘーゲル「論理学」の総括として導き出されたもの

● ヘーゲル論理学をつらぬくのは対立物の統一

 ・第1部有論――有と無の統一

 ・第2部本質論――本質と現象の統一

 ・第3部概念論――特殊と普遍の統一

● エンゲルスの3法則の問題点

 ・対立物の統一が指摘されていない

 ・対立物の相互浸透と対立物の相互排斥は対概念なのに、対立物の相互浸透の
  み

 ・第1部の中心テーマは、対立物の相互移行の法則の展開としての有と無の統
  一

 ・第2部の中心テーマは、対立物の間の必然的な関係。対立物の相互浸透の法
  則のみならず、矛盾の弁証法も

 ・第3部の中心テーマが対立物の相互排斥による発展であることが明確になっ
  ていない

 ・否定の否定とは、自己同一性をつらぬく、無限の発展(矛盾による発展と区
  別)
  ――エンゲルスは否定の否定と矛盾の止揚とを同義に解している
  →3法則は、重要な法則ではあるが、弁証法の根本法則は対立物の統一


③ 対立物の統一は背理か

● デューリングは、矛盾を背理とする

 ・一方で、「相反する方向に向かって抗争する諸力の敵対」(184ページ)は
  「あらゆる活動の根本形式」(同)

 ・しかし他方で、こういう「抗争」と「矛盾」とは一致しないとして、「矛盾
  の弁証法」(同)を否定

● 「事物をその運動、変化、生命、交互作用において考察」(186ページ)する
 と「たちまち矛盾におちいる」(同)・ 単純な位置の移動――ここにあって、
 ここにない

 ・生命――同一であって、同一でない

 ・認識能力――限界があって、限界がない

 ・微分――曲線は直線である

 ・球面幾何学――平行線は交差する

 ・量子論――宇宙のはじまりは、有と無の統一

 ・ ↑ 自然の対称性――「自然界で重要なものはみんな対になっている」
  (ワトソン)

 

2.量と質の弁証法

① デューリングの『資本論』批判(1)

● マルクスは、ヘーゲルの「混乱したもうろう観念を拠りどころ」(193ペー
 ジ)にして、資本を説明していると批判

● 問題の箇所は「貨幣の資本への転化」

 ・マルクスは貨幣が資本に転化するには一定の最小限度(労働力と生産手段を
  購入する)が必要だとして、これを量から質への転化の例として説明

 ・デューリングは、「ヘーゲルの法則」(195ページ)を適用することによっ
  て資本が生まれたと、逆転させたうえでこれを批判


② 量と質の弁証法

● 無数の事例にみられる客観世界の法則

● 相対的剰余価値の生産

 ・量から質へ(協業)

 ・質から量へ(道具から機械へ)

● 炭素化合物の同族列(197ページ)

 

3.否定の否定

① デューリングの『資本論』批判(2)

● デューリングの批判

 ・「否定の否定が過去の胎内から未来を分娩させる産婆役」

 ・「個人的であると同時に社会的でもある所有というもうろう世界」(202
  ページ)

● ヘーゲルの否定の否定

 ・或るものは、他のものではないという否定により、みずからを規定し、限界
  をつくりだす(第1の否定)

 ・或るものは、自己の限界を否定することにより、無限に発展する(第2の否
  定、否定の否定)

 ・向自有――自己同一性を保ちつつ、無限に発展する自我をとらえたもの

● マルクスの否定の否定

 ・小経営――労働と所有の結合

 ・資本主義――労働と所有の分離(最初の否定)

 ・社会主義――再び労働と所有の結合(否定の否定)
  →社会的所有は生産手段、個人的所有は消費手段(204ページ)
  →マルクスは、この過程の必然性を証明したあとで、この過程を「一定の弁
   証法的法則にしたがっておこなわれる過程とよんでいる」(208ページ)
   のみ。
  →資本主義から社会主義への発展は、基本的に矛盾の止揚としての発展


② 弁証法は証明の用具ではない

● 弁証法とは「たんなる証明道具」(209ページ)ではなく、「既知のものから
 未知のものへと前進するための方法」(同)

 ・マルクスの弁証法を使って、資本主義的生産様式の本質、根本矛盾、運動法
  則を解明し、弁証法を使って資本主義の没落の必然性を『資本論』で体系的
  に叙述した

 ・「僕の著作の長所は、それが一つの芸術的な全体をなしていること」( 111
  ページ)

 ・『「資本論」の弁証法』上梓の理由もそこにある

●「弁証法とは、自然、人間社会およ● び思考の一般的な運動=発展法則にかん
 する科学」(218ページ)

 ・より正確には「弁証法とは、対立物の統一を根本法則とすることにより、自
  然、人間社会、および思考における、相対的な静止をも含めた一般的な運動
  =発展法則にかんする科学」


③ エンゲルスの否定の否定

● エンゲルスは弁証法的な否定を「第1には、過程の一般的な性質によって、第
 2にはそれの特殊的性質によって、規定されている」(219ページ)「そこか
 ら発展が生まれてくるような、それ独特の否定」(同)と理解している

● エンゲルスはスピノザの否定が、限界、制限としての否定であることを正確に
 理解していない

 ・ヘーゲルは、第1の否定と第2の否定を区別したが、エンゲルスはどちらも
  発展の契機としてとらえ、区別していない

 ・そこから、自己同一性をつらぬく発展と矛盾の止揚としての発展を同一視

 ・しかし、エンゲルスが否定の否定をらせん型の発展ととらえた意義は大きい

● 二つの発展観
 ① 自己同一性をつらぬく同一の質のもとでの発展(狭義の否定の否定)
 ② 矛盾の止揚としての発展(自己同一性をつらぬかない、質を異にする発展
  →どちらもらせん型の発展(広義の否定の否定)

● ルソーの平等論

 ・自然状態の平等――私的所有の不平等――社会契約による再平等

 ・『資本論』と「瓜二つの思想のあゆみ」(217ページ)と「同じ弁証法的な
  論法」(同)

 ・ルソーは科学的社会主義の源泉