2008年1月4日 講義

 

 

第14講 経済学 ② 価値論

 

1.マルクスの労働価値説と剰余価値説

① マルクスの労働価値説

● デューリングの混乱した価値論に入る前に、マルクスの労働価値説を概観して
 おく

● 古典派経済学(ペティ、スミス、リカード)の労働価値説の限界

 ・労働の二重性(具体的有用的労働と抽象的人間的労働)に気づかず

 ・労働力と労働とを区別せず→労働価値説を首尾一貫したものになしえなかっ
  た限界をマルクスは克服

● 商品には、使用価値と価値

 ・使用価値をつくりだす具体的有用的労働

 ・価値をつくりだす抽象的人間的労働――労働量=労働時間が価値量を規定す
  る

● 抽象的人間的労働

 ・平均的なだれでももっている単純な労働

 ・単純労働と複雑労働

 ・平均労働と強化労働


② マルクス剰余価値学説

● 価値法則

 ・商品の価値は、その商品を生産するのに社会的に必要な労働時間によって規
  定される

● 剰余価値の生産は、労働力の使用から生まれる

 ・労動力という特別の一商品

 ・労働力の価値=労働者の生命力を再生産するのに必要な生活諸手段の価値

 ・労働力は価値どおりに販売され、労働者はその対価としての労賃を手にする

 ・労働力の使用価値は「労働する」こと=価値を生みだす→労働力は自己のも
  つ価値以上の価値を生産するところに剰余価値生産の秘密がある

● 「商品生産の所有諸法則は資本主義的取得の諸法則に転換する」

 ・搾取は、労働力と貨幣との等価交換に始まる

 ・それが、労働力という特別の一商品の性格により、不等価交換に弁証法的に
  転化する

 ・商品生産と交換の諸法則は、資本主義的取得の諸法則に転化する

 

2.デューリングの価値論批判

① 富とは何か

● 富とは、労働から生まれる物質的財貨

● デューリング氏は、富の所有を「人間と物とを支配する経済力」(p.358)と
 する

 ・しかし、人間への支配力は、物の支配を媒介にして生じるもの

 ・「富を経済の分野から道徳の分野に引っぱりこむため」(p.359)

 ・生産的富はよいが、分配的富は悪い(同)として道徳の分野に


② 価値とは何か

● デューリングは、労働価値説をとりいれつつも、それをねじ曲げ、誤りに転化
 させる

 ・価値とは、物を調達するための障害、抵抗

 ・生産価値と分配価値

 ・分配価値は、資本が剣により強奪したもの

● 資本家の利潤が、等価交換から生じたもの


③ 「生産価値論」批判

● デューリングの「生産価値」

 ・一商品の価値は、賃金によって規定される

● 労働力と労働との混同

 ・労賃は労働力の対価であって生産された商品の価値とは無関係

 ・デューリングの命題からは、剰余価値も搾取も生じえない

 ・「人間社会の全発展は、家族の労働が家族の生計の維持に必要であるよりも
  多くの生産物をつくりだしたその日から……始まる」(370ページ)

 

3.デューリングの複雑労働批判

① 単純労働と複雑労働

● デューリングは、あらゆる労働時間が「完全に等しい価値を持っている」
 (379ページ)という

 ・「熟練した仕事では、個々人の個別的な労働時間に、さらに他の人々の個別
  的労働時間が、……あずかっている」(375ページ)

 ・マルクスの単純労働と複雑労働の区別は「有識階級の伝統的考え方に妨げら
  れた」(同)もの

● エンゲルスの反論

 ・「労働そのもの」(380ページ)が価値をもつとする誤り

 ・マルクスは、この区別は、賃金の区別ではなく商品の価値の区別であると注
  意書き
  ――しかし複雑労働を生みだす労働力には、養成費が含まれているから、労
  働力としては、より高い価値をもつ

 ・デューリングも結論においては、複雑労働がより高い価値を生みだすことを
  認めている


② 未来社会の分配論

● デューリングのあらゆる労働時間の「完全に等しい価値」は、未来社会の分配
 論を想定してのもの

● 社会主義社会の分配論

 ・社会が労働時間を掌握するため、もはや分配を論じるにあたって迂回した価
  値論を必要としない

 ・生産の無政府性の支配する資本主義社会においては、各商品の労働時間の絶
  対量を知りえないため、価値という迂回路を通って表現

 ・しかし、未来社会においても「労働に応じて分配する」のであれば、荷車引
  きと建築技師とでは同じ労賃ではありえない

 ・もっとも計画経済と市場経済の統一した社会主義では、商品交換を前提とし
  た価値論は存続し、労働力も商品として存続することになるのではないかと
  思われる