2008年2月6日 講義

 

 

第16講 経済学 ④ 「批判的歴史から」

 

1.経済学史概説

① マルクスの「剰余価値学説史」

● マルクスは、資本主義的生産様式の運動法則の解明のために、経済学史を研究
 →「剰余価値学説史」(全集 Ⅰ~Ⅲ))

● 経済学史の研究をつうじて、認識を弁証法的に発展させ、マルクスの「経済
 学」を確立


② 経済学史概説

● 資本主義的生産の未発展が、流通過程から富が生まれるとする重金主義、重商
 主義を生みだす

● 重金主義――金銀を唯一の富とする。「近代世界の最初の解釈者」(同⑬
 134ページ)

● 重商主義――剰余価値は価値より高く売ることから生じる、とする(トーマ
 ス・マン)

● 重農学派

 ・剰余価値は生産過程、しかも農業生産の過程から生まれる、とする

 ・剰余価値の本来的形態が地代だとする

 ・ケネーの「経済表」はマルクスに大きな影響


③ 古典派経済学

● 剰余価値を生みだすのは、労働一般とする、労働価値説

 ・イギリス――ペティに始まり、リカードに終わる

 ・フランス――ボアギュベールに始まり、シスモンディに終わる

● ペティ(1623〜1687)

 ・「近代経済学の創始者」(429ページ)、「最も天才的で最も独創的な経済
  学者」(432ページ)

 ・価値の源泉を土地に媒介された労働に求める(労働は富の父、土地はその
  母)――重農学派の影響が残る

● スミス(1723〜1790)リカード(1772〜1823)

 ・土地から切りはなして、労働一般を価値の源泉とする

 ・労働の二重性、労働力と労働の区別に気づかず

 ・スミス――「マニュファクチュア時代の経済学者」

 ・リカード――古典経済学の完成者、資本主義的生産様式を絶対化

● マルクス(1818〜1883)

 ・弁証法を武器に労働価値説と剰余価値学説を完成

 ・資本主義から社会主義・共産主義への移行の必然性を明らかに

 

2.古代ギリシアの経済学

● 奴隷制と資本主義に共通する商品交換と貨幣について、「近代科学の理論的出
 発点」(424ページ)を提供

● アリストテレス

 ・「どの物にも二つの用」「靴としてはくという用と交換品としての用」

 ・貨幣には、流通手段としての機能と貨幣資本としての機能がある

● プラトン

 ・「分業が都市の自然生的な基礎」――分業が商品の質を向上させる

 ・近代の分業は、商品の生産量を増大

 

3.重商主義

● トーマス・マン

 ・イギリスの国策の重金主義を批判して、東インド貿易の意義と一般的貿易差
  額論をかかげる

 ・「東インド貿易に関する一論」の改訂版は「重商主義の福音書」

 

4.ペティ

● 「商品の価値の大きさについて完全に明瞭な、正しい分析」(429ページ)

 ・しかし、剰余価値の本来の形態を地代と考え、すべての物は、土地と労働に
  よって評価されるべきとする→重農主義から労働価値説への移行を示すもの
  であり「この誤りそのものさえ天才的」(430ページ)と評価

● 地主の要求する利子率の引き下げに反対

 ・地主は、利子率引き下げによる土地価格の高騰、高地代を求めたもの

 ・「資本が土地所有に対して反抗しはじめる最初の形態」(全集 Ⅰ 466ペー
  ジ)
  →利子は、平均利潤率の分配として、上限を平均利潤率とし、貸し付け可能
   貨幣の需給関係できまる

● デューリングのペティ批判

 ・「価値尺度としての労働」の「不完全な痕跡」(429ページ)と批判
  →「やっと形をとりはじめた」労働価値説で混迷するのは当然。デューリン
   グはいまだに混迷

 ・ペティの利子論を継承したロックの利子引き下げ反対論、ノースの自由貿易
  論も評価せず

 

5.ヒューム

● 貨幣が価値尺度であることをみないで、流通手段としてのみとらえる。単なる
 価値章標にすぎないとし、商品価格は流通貨幣量に比例するという

 ・他方で、金銀の増加がその価値の変動をもたらし、商品価格に影響するの
  に「多少の時間を要する」(440ページ)とする
  →彼は「『貴金属の増加』と、それの価格下落とを混同」(441ページ)

● ヒュームは、価値についても利潤の本性についても何も知らず
 ――「独創的な研究者」(444ページ)ではない

● デューリングは「18世紀のデューリング」(447ページ)を演じさせるため
 に、ヒュームを「経済学上の一等星」(同)に格上げ

 

6.ケネーの「経済表」

● 5本の線で一国の富全体の再生産をあらわす

 ・価値と素材の両面での再生産

● 生産階級と地主と不生産階級の三階級間の再生産

 ・生産階級――50億の農産物(うち20億は補填分、残り30億――20億
  生活手段10億原料〔羊毛、綿〕――が流通に)+20億の貨幣

 ・地主――20億の地代請求権のみ

 ・不生産階級――20億の工業製品(10億の原料+10億の道具、機械)

● 第一の不完全な流通

 ・生→地に20億

 ・地 生間で、10億の生活手段の売買

● 第2の完全な流通

 ・地 不間で、10億の工業製品の売買

 ・不 生間で、10億の生活手段の売買

● 第3の不完全な流通

 ・生 不間で、10億の工業製品の売買

 ・生 不間で、10億の原料の売買

● 流通の結果

 ・生――30億の農作物を、10億の工業製品、20億の貨幣と交換。
  手持ち20億の農作物と20億の貨幣と10億の工業製品(剰余価値)

 ・地――20億の地代を、10億の生活手段、10億の工業製品と交換。
  手持ちなし

 ・不――20億の工業製品を、10億の生活手段、10億の原料と交換。
  手持ち10億の原料(と10億の機械、道具)で20億の工業製品
  →生は、20億の農産物で50億の農産物、30億の剰余価値は、20億の
   地代と10億の工業製品に分配
  →不は、10億の原料と10億の機械、道具で20億の工業製品、剰余価値
   の生産なし

● 結論

 ・市場原理にもとづき農業、工業製品が一定の割合で生産されれば、生産の無
  政府性のもとでも、社会的に単純再生産が可能であることを証明した

 ・マルクスの「再生産表式」に影響を与える

 ・「再生産様式」は、一定の条件下で拡大再生産が可能であることを示すのみ
  ――条件が崩れると恐慌に

 

7.デューリング「経済学」の総括的批判

● 「いっぱいくわされた」(464ページ)だけ

 ・結局、経済現象を「暴力」で説明するのみ

 ・マルクスを罵倒しながら、マルクスの労働価値説と剰余価値説を裏口から引
  き込んでいる

● 「はじめには自画自賛、大道やし的な大ふろしき」「あとにはゼロに等しい成
 果」(466ページ)