2008年3月5日 講義
第18講 社会主義 ②
社会主義とは何か(経済篇)
1.科学的社会主義の社会主義論
● 科学的社会主義の学説
・資本主義の運動法則を解明し、資本主義から社会主義への移行の必然性を明
らかにする
・それに挑戦した『資本論』は社会主義論の本格的展開前に中断
● 『反デューリング論』(『空想から科学へ』)は基本的社会主義論を包括的に
論じている
・土台の経済的諸関係と上部構造の政治、国家をともに論じる
・ある意味で『資本論』を補完するもの
・20世紀の社会主義の実験は本著の社会主義論をふまえて展開されたもの
● 21世紀の真にあるべき社会主義の探究を
・18講――経済篇 19講――政治、国家篇
2.生産手段の社会化
① 資本主義の基本矛盾の解決としての社会主義
● 資本主義の本質は利潤第一主義
・「科学的社会主義は、この解決とともに始まり、この解決を中心として成立
している」(387ページ)
● 利潤第一主義は、「社会的生産と資本主義的取得」の基本矛盾を生みだす
・社会的生産とは「内容上の社会的生産と形式上の個人的生産」
・この矛盾が、生産物の「資本主義的取得」を生みだす
② 生産手段の社会化
● 「内容上の社会的生産と形式上の個人的生産」の矛盾を解決するのが「生産手
段の社会化」
・それにより「社会的生産と社会的取得」の社会主義が実現する
● 問題となっているのは、巨大化した社会的生産となっている生産手段
・小農民、小経営の生産手段は対象外
・すべての土地、すべての工業的生産手段の社会化を意味するものではない
● 生産手段の社会化とは何か
1)社会化の形態は、公共サービスについては国有化、それ以外の物質的財貨の
生産は形態は多様であってよい
・二つの理由 ①巨大化 ②公共サービス
2)生産手段の所有形態が問題なのではなく、生産における人と人との関係の転
換が問題
・機械に従属し、結合された労働から、機械を支配し、自由意志で結合する労
働に
・コラボレイティッドな労働から、アソシエイティッドな労働への転換
3)生産者の自由なアソシエーション
・国有化には官僚主義、専制主義の危険が含まれている(ソ連)
・これに反対したのが、ユーゴの「自主管理社会主義」
――企業を生産者たちの自主管理にまかせ、国有化と中央集権的なシステム
に反対
4)生産、交換、分配の意識的な組織
・必然の国から自由の国へ
・生産を社会的に組織するとは、経済を人間の支配と統制下におくこと
・中央集権的計画経済は、市場経済を排除しない
・レーニンの「新経済政策(ネップ)」は計画経済と市場経済の統一
・スターリンによるネップの放棄
・市場には、需要と供給の調整、競争にもとづく生産性向上などの機能
・計画経済ではカバーできない機能→市場原理の弊害を取り除きつつ市場原理
をいかしていくところに計画経済の意義あり国有化の対象となるもののう
ち、教育、医療、福祉などは、人間の尊厳に関わる問題として、市場原理に
なじまない。
3.資本主義的諸矛盾の解決としての社会主義
① 搾取と階級の廃止
● 搾取の廃止は、ブルジョアジーは廃止するが自動的に階級を廃止するものでは
ない
・ソ連の国有化は、資本家をテクノクラートという新しい支配階級に変えたのみ
・ソ連国民の生活は改善されず
● ユーゴの「自主管理社会主義」
・労働者が企業の主役に
・生産物も、労働者主体の企業が取得
・下から上へ、計画をつみあげていく
② 社会主義的計画経済と市場経済の統一
● エンゲルスは、生産手段の社会化により、生産と分配は組織化され、商品生産
も市場も不要になると考えていた
● ソ連では、この考えを受けつぎ、中央集権的経済システム
・ゴスプラン(国家計画委員会)とゴススナブ(国家供給委員会)の指令経済
・「何をどれだけ」という量のみを追求(「量的生産第一主義」)
――品質の犠牲と資源の浪費に
・労働者は、計画を消化するのみで、生産性向上と技術革新すすまず
・中国・ベトナムはその反省から、「社会主義市場経済」の道へ
● 市場には二面性
・生産性向上、技術革新の反面、弱肉強食と格差拡大
・計画経済と市場経済の統一で市場メカニズムを生かした生産の組織化
・国家と人民の中間団体としての労働組合がこの統一を実現する要となる
・上から下へ、下から上への循環型経済
③ 生産と消費、富と貧困の対立の解決
● 計画経済と市場経済を統一し、必要なものを必要なだけ生産し、労働に応じて
分配する
・これにより、生産と消費の矛盾、富の蓄積と貧困の蓄積の矛盾も解決しうる
● しかし、20世紀の実験では、まだこの課題に成功していない
● 中南米の「社会主義のルネッサンス」
・貧困からの脱出を第一義に、ソ連型社会主義ではなく、本来の人民が主人公
の社会主義をめざす
4.真にあるべき社会主義
● エンゲルスは、資本主義の基本矛盾をとらえることで、真にあるべき社会主義
を展望しえた
・「必然の国から自由の国への人類の飛躍」
● 21世紀の社会主義は、20世紀の社会主義の実験をふまえ、エンゲルスの原
点に立ち返って検討されるべき課題 |