2008年3月19日 講義
第19講 社会主義 ③
社会主義とは何か(政治・国家篇)
1.社会主義の政治と国家
● ソ連の誕生と崩壊
・自由と民主主義の新境地を開きながら、自由と民主主義の抑圧者として崩壊
・経済政策以上に政治が問題
● ソ連の自由と民主主義の変遷の解明が求められている
2.プロレタリアートの執権
① 労働者階級の政党
● 「これまでのすべての歴史は、原始状態を別とすれば、階級闘争の歴史」
(294ページ)
・社会主義は、「プロレタリアートとブルジョワジーとの闘争の必然的産物」
● 労働者階級は、階級闘争を発展させるために、「政党に自分自身を組織」
(全集⑰ 395ページ)しなければならない
・選挙という政治闘争とつうじて、労働者階級は権力を獲得する
② プロレタリアートの執権
● 資本主義から社会主義への過渡期の権力が「プロレタリアート執権」」
・マルクス、エンゲルスが初めて使用したカテゴリー
● 「パリ・コミューンをみたまえ。あれがプロレタリアートの執権だったのだ」
(全集⑰ 596ページ)
・労働者階級が「社会的主動性を発揮」(同 320ページ)
・労働者階級の導きによる「真に国民的な政府」(同 323ページ)、「人民に
よる人民の政府」(同)
● プロレタリアートの執権は、人民主権の権力
・プロレタリアートが国家権力を掌握することで、「国家が真に全社会の代表
者」(502ページ)となる
・扇動の文句としての「自由な人民国家」(同)――人民の人民による人民の
ための国家という意味で「人民国家」
③ 科学的社会主義の国家論
● 国家は、共同利益の実現をめざす仮象をもちつつも、階級支配の機関
● プロレタリアートが国家権力を掌握することで、階級区別をも揚棄する
・国家は名実ともに共同の利益を実現する存在に
・「人にたいする統治に代わって、物の管理と生産過程の指揮とが現われる」
(502ページ)
・「国家は死滅する」
● 社会主義国家の任務
・経済面で、生産、交換、分配の管理
・政治面で、自由と民主主義の全面的開花による人間解放
3.社会主義国家と自由・民主主義
① ソ連の切りひらいた自由と民主主義の新境地
1)人類史上はじめて「人間による人間のあらゆる搾取の廃止」を宣言
2)社会権を規定し、「生存の自由」を保障
・8時間労働、有給休暇、社会保障制度の確立、医療、教育の無料化
・1966 国連「国際人権規約」採択
A 規約-社会権
B 規約-自由権
3)民族自決権(「民族の自由」)の承認
・国際的な民族解放運動の理論的支援に
・20世紀初頭の実質的独立国は20ヶ国、21世紀の国連加盟国は192ヶ国
・A 規約第1条「すべて人民は、自決の権利を有する」として、植民地支配を
国際法違反に
4)国際紛争の平和的解決への道をひらく
・革命直後の「平和についての布告」
・無併合、無賠償の即時講和を提唱
・併合、賠償の戦争を違法視
・1928 不戦条約
・紛争解決の手段としての戦争を違法とする
・ソ連は、不戦条約の最初の批准国
⇒1)を除く2)、3)、4)は、現在国際法上の確立された原則として承認さ
れる
② ソ連の誤りの原因は何か
● スターリン以後、「対外的には、多民族の侵略と抑圧」、「国内的には、国民
から自由と民主主義を奪い、勤労人民を抑圧する官僚主義・専制主義への道」
(綱領)
● 社会主義を目指しながら、「社会主義とは無縁な人間抑圧型の社会」に転落
・その結果、解体に
・「歴史的巨悪の解体」(同)
● 実践的誤まりの背景に理論的誤まり
③ レーニンによる「執権論」の歪曲
● レーニンは、「ソビエト」という特殊な形態をプロレタリアート執権の具体的
形態と考えた
・ソビエトは、工場のストライキ委員会が発展したもの
・通常の普通選挙や議会とは全く異なるもの
・「ソビエト権力がそれともブルジョワ議会か」
● ルソーの「一般意思」はプロレタリアートにとって有害というところまでいき
つく
・人民主権の政治(人民の、人民による、人民のための政治)の否定に
● ソビエト=ソ連共産党
④ スターリンとその後継者による誤まりへの転化
● スターリン憲法(1936)で、ソ連共産党を「すべての社会的ならびに国家的組
織の指導的中核」と規定
・科学的社会主義の政党が人民の導き手として人民の信頼を獲得する問題と、
その指導的役割を憲法によって規定する問題は、全く別の問題
・後者の場合、その誤まりは是正されず、批判は憲法違反として抑圧されてし
まう
・しかもソビエトという体制は、国民の批判が表面化しにくいので、その誤り
も固定化される
・ユーゴの「自主管理社会主義」も、スターリン憲法を継承
● 社会主義の建設に科学的社会主義の政党は不要となるのではない
・人民は「定型のない塊り」であり、人民の導き手としての役割は不滅
・官僚主義の抬頭を防ぐために、人民の選定・罷免権と公務員なみの給与
・キューバでは、党指導部も労働者並みの給与で、ソ連崩壊の影響を受けな
かった
⑤ ソ連の大国的干渉
● 人民民主主義
・パルチザン戦争を人民戦線として展開
・戦後、人民戦線が権力を握って「人民民主主義共和国」という民主的社会主
義へ
・人民主権、普通選挙、議会制民主主義、民主共和制、を共通の課題に
● 「ユーゴスラヴィア連邦人民共和国」
・1948 コミンフォルムから破門
・人民民主主義を歩む東欧諸国・ の指導者は、すべて「チトー主義」の名で逮
捕・処刑
・ これにより人民民主主義の討論に終止符
● 1953 スターリン死去、1956 スターリン批判
・1953 ソ連支配下の東ドイツで反政府運動、ソ連軍の弾圧
・1956 ハンガリー事件――「社会主義」ソ連のプラスイメージを一挙に崩壊
・1968 チェコ5ヶ国軍隊侵入事件――明確な主権の侵害
・1979 アフガン侵略
・1981 ポーランド民主化への干渉
● ソ連は、社会主義国とは無縁の帝国主義的国家に転落
⑥ 誤まりの根源は、執権=ソビエト=共産党論
● 執権=ソビエト、ソビエト=共産党の二重の誤まりが、国内外を問わず自由と
民主主義の抑圧となる。
● 社会主義=自由と民主主義の抑圧論の誤まり
・社会主義は、フランス革命の正当な継承者
・プロレタリアート執権の今日的表現が「国民が主人公」
・スターリンは、それを「共産党が主人公」と勘違い
● 21世紀は、社会主義が政治でも経済でも本来の輝きをとり戻し、資本主義に
対する政治的優位性を発揮する世紀に |