2008年9月23日 講演

 

● 聴 講(1:10:13)

 

『エンゲルス「反デューリング論」に学ぶ』出版記念講演

21世紀の弁証法と「社会主義論」試論


1.『エンゲルス「反デューリング論」に学ぶ』
  出版にあたって

① 「弁証法とは何か」のこれまでの探究の集大成

● 1994年以来、ヘーゲル弁証法の研究
 ・1999年『ヘーゲル「小論理学」を読む』
 ・2005年『ヘーゲル「法の哲学」を読む」
 ・2007年『弁証法とは何か』
 ・2008年から4度目の『小論理学』講座

● あわせてマルクス、エンゲルス、レーニンの弁証法も研究
 ・1998^99 レーニン『哲学ノート』(『変革の哲学・弁証法』)
 ・2005^06 マルクス『資本論』の弁証法(『「資本論」の弁証法』)
 ・2007^08 エンゲルス『反デューリング論』

● 以上を経て「弁証法とは何か」について集大成しうるところまで来たのではな
 いかと思われる

 ・それは、これまでマルクス、エンゲルス、レーニンの指摘してきた弁証法を
  見直すことにもつながる


② 21世紀の「真にあるべき社会主義」についての探究の集大成

● 1989年県労学協再建――ソ連・東欧の崩壊により「社会主義終焉論」

 ・そのなかで、ソ連・東欧崩壊の原因と「真にあるべき社会主義」の探究

● 2003年『人間解放の哲学』――科学的社会主義の自由・民主主義論

● 2004年『科学的社会主義の源泉としてのルソー』

● 2005年『ヘーゲル「法の哲学」を読む』

● 2008年『エンゲルス「反デューリング論」に学ぶ』

● 以上を経て「真にあるべき社会主義」についても集大成しうる段階に


③ 「今日的到達点にたって科学的社会主義を考える」の副題

● エンゲルスは「自然は弁証法を検証するもの」といっている

 ・果たして20世紀の自然科学の発展をふまえても同様に結論しうるのか

 ・現代の自然科学を弁証法的に総括するのは、予想以上に大変な課題

● エンゲルス『反デューリング論』における社会主義論は、科学的社会主義の社
 会主義論の最高峰

 ・『資本論』も『反デューリング論』で補足すべきもの

 ・しかし、20世紀の社会主義の実験をふまえて、そのまま肯定しうるのか

 ・世界の人口の三分の一に達した社会主義をめざした国の実践を学ぶのは途方
  もない課題

● 一言でいって身に余る無謀な挑戦と言っていい

 ・鰺坂他『反デューリング論を学ぶ』も3人で分担

 ・しかし得ることは大きかったし、一定の問題提起はなしえたのではないか
  ― これを機会に大いに議論して欲しい

● 『反デューリング論』を中心にしながら、これまでの集大成として、弁証法
 と「真にあるべき社会主義」の2点にしぼって話してみたい

 

2.弁証法の今日的到達点

① ヘーゲル哲学は「逆立ち」しているか

● ヘーゲルは観念論者か

 ・「彼の頭のなかの思想は、……すでに世界よりまえにどこかに存在していた
  『理念』の現実化された模写に過ぎない」(エンゲルス)

 ・「弁証法はヘーゲルにあってはさか立ちしている」(マルクス)

● ヘーゲル哲学は革命の哲学

 ・フランス革命の掲げた自由の精神を最後まで持ち続け「理想と現実の統一」
  を唱えた

 ・「一口でいえば哲学の内容は現実である」と現実から出発

 ・現実から出発して、理想をつかみ、理想にもとづいて現実を変革する理論

● 『哲学史』を10回講義

 ・2500年の哲学の歴史の総括のうえに自己の哲学を確立

 ・哲学の歴史の傍流である観念論を歩むものではない

● ヘーゲル哲学の本質は「観念論的装いをもった唯物論」

 ・反動化したプロイセン国家の官僚養成機関としてのベルリン大学で教鞭を執
  り続けるための観念論的装い

 ・死の際「誰もわかってくれなかった」と述懐


② 現代においても「自然は弁証法の検証」といえるか

● 20世紀の自然科学は、相対性理論と量子論

● 相対性理論

 ・ニュートン力学の相互に無関係な、絶対的時間と絶対的空間を否定

 ・すべての物質は時間と空間の統一としてある

 ・特殊相対性理論――物体の速度が光速に近づくほど時間の経過が遅くなる

 ・一般相対性理論――実際の空間は物資の重力によって一定の曲率をもってゆ
  がむ

● 量子論

 ・量子――粒子と波の統一

 ・粒子と波のように対立する二つの事物が互いに補い合って一つの事物や世界
  を形成している(相補性原理または自然の対称性)――対立物の統一

● 私たちの宇宙は対称性の破れから生じた

 ・137億年前の宇宙は、非常に小さい、温度が一兆度にも達する密度の濃い
  エネルギーのかたまり

 ・粒子と反粒子とが生成・消滅をくり返す

 ・対称性の破れから、10億プラス1のクォークに対し、10億の反クォー
  ク。クォークと反クォークは結合すると消滅して光に

 ・差の1クォークが残存物質として私たちの宇宙に

● DNAの二重らせん構造発見のワトソン

 ・二重らせん構造は、二本の塩基の鎖が向かいあった対立物の統一

 ・なぜ二重構造を思いついたかの質問に対し、「そんなことは誰にでもわかる
  さ。なぜなら自然界で重要なものはみんな対になっているから」

● 20世紀の自然科学をふまえれば「自然は弁証法を検証するもの」


③ 弁証法はなぜ真理認識たりうるのか

● 弁証法が自然の対称性を予言しえたのは、対立物の統一こそ真理認識の思惟形
 式ととらえた理論的な力によるもの

● なぜ対立物の統一は真理認識の方法たりうるのか

 ・真理認識とは、偶然のなかの必然性を認識すること

 ・必然性の根本的形式は対立物の統一

 ・対立する二つのものはお互いに「固有の他者」という必然的関係にある
 ・対立する二つのものは、一対になってはじめて意味をもつ(上下、左右、
  真偽など)


④ 弁証法の3法則について

● エンゲルスの弁証法の3法則

 ・量から質への転化、またその逆の転化の法則(「論理学」第1部)

 ・対立物の相互浸透の法則(「論理学」第2部の全体)

 ・否定の否定の法則(全体系の構築のための根本法則)

● 再検討の余地あり

 ・弁証法の根本法則は、対立物の統一――そのなかに、対立物の相互浸透(対
  立物の同一)と対立物の相互排斥(矛盾)とがある

 ・矛盾による解決こそ事物発展の根本原理――否定の否定とは、自己同一性を
  つらぬく発展(生命体の成長など)

 ・量と質の弁証法は、対立物の相互浸透の一例にすぎない

 ・ヘーゲル論理学には、或るものと他のもの(限界の弁証法)、同一と区別、
  本質と現象、可能性と現実性、偶然性と必然性、直接性と媒介性、普遍と特
  殊、主観と客観、理想と現実などその他にも無数の弁証法がある

 

3.社会主義の今日的到達点

<① 社会主義とは、人間解放の社会>

● 人間の本質は、自由な意識と共同社会性にある

 ・自由な意識により世界を作りかえることができる

 ・人間のみが社会(生産と生活の場)をもつ

 ・この人間の本質が、自由と民主主義を求める

● 資本主義社会は人間疎外の社会

 ・搾取は自由な意識の否定(労働者の自由な意識の対象化としての労働生産物
  を搾取することによる否定)

 ・階級的抑圧は共同社会性の否定

● 社会主義とは人間疎外からの回復、人間解放の社会

 ・あらゆる搾取を廃止し、生産者が生産物を取得する
  ――そのために生産手段を社会化する

 ・あらゆる階級と階級支配を廃止し、治者と被治者の同一性を実現する
  ――国民が主人公


<② 「生産手段の社会化」とは何か>

● 「生産手段の社会化」は、生産者が生産物を取得し、生産者に平等に分配(生
 産者が主人公)

 ・「アソシエーション」――すべての労働者が自由に結合しながら、支配・従
  属の関係にない結合(生産における自由と民主主義の統一)

● ソ連の国有化は、国家による人民搾取の一形態

 ・資本家が国家にかわったのみ

 ・国有化は官僚主義の温床に

● 旧ユーゴスラビアの「自主管理社会主義」

 ・ソ連の国有化=官僚主義への批判から生まれたもの

 ・「自由な生産者のアソシエーション」をスローガンに→もっと研究の必要あり


<③ 計画経済と市場経済の統一>

● エンゲルスは、社会主義の体制的優位性を生産手段の社会化による「計画的、
 意識的な組織」を主張(中央集権的計画経済を示唆)

● レーニンは、中央集権的計画経済から出発しながら、計画経済と市場経済の
 統一へ(「新経済政策」ネップ)――1921~1923

● レーニンは、市場経済を通じて社会主義へ前進するうえで、何が必要と考えた
 か
 ① 社会主義部門が資本主義と競争しても負けないだけの力をつける
 ② 経済の「瞰制高地」を社会主義の部門として掌握する
 ③ 市場経済が生みだす否定的諸現象から社会と経済を防衛する

● ベトナムの社会主義市場経済への5つの質問(志位「ベトナム友好と連帯の
 旅」)
 ① 6つの経済セクターのうち、国家セクター、集団セクターの競争力はどう
   なっているか
 ② 上記セクターでの労働者の地位
 ③ 資本主義の害悪をどうやって国民に広めるか
 ④ 経済成長と貧困対策をどう統一させるのか
 ⑤ WTOへの加盟をどう考えているか

● 労学協からベトナムへの質問(2008.8)
 ① 社会主義思考の市場経済とは何か
 ② WTO加盟による市場自由化の問題点
 ③ 人民の生活上のミニマム・スタンダードをどう実現するか
 ④ 官僚主義と汚職腐敗をいかに防ぐか
 ⑤ ソ連崩壊の理由をどう考えるか

● 21世紀に解決すべき最大の問題点の1つ


<④ 社会的市場経済に対する社会主義市場経済の体制的優位性>

● 社会的市場経済とは何かド・ イツに出発し、EU27ヵ国の経済基本原理

 ・「市場における自由の原則と社会的均一化(調整)の原則との結合」または
  「社会的安全と経済的自由の結合」

 ・競争原理の徹底による経済格差を、労働者保護政策、財政、税制政策によっ
  て縮小しようというもの→いわば資本主義的な市場経済主体の「市場経済と
  計画経済の統一」

● 日本共産党の「ルールある資本主義」はこの社会的市場経済を展望するもの

● 21世紀の社会主義は、社会主義的計画経済主体の「計画経済と市場経済の
 統一」

 ・この経済体制が社会的市場経済への体制的優位性を示すものでなければなら
  ない

 ・中国、ベトナムはこの2点で勝利しうるのか注目に値する


<⑤ 治者と被治者の同一性の実現>

● 国民が主人公となるためには、人民主権(人民の普遍的意志にもとづく統治)
 による治者と被治者の同一性の実現が求められる

● 人民の普遍的意志を形成するうえで科学的社会主義の政党は不可欠
 ――プロレタリアートの執権

● 統治機構と人民の間には中間団体が必要

 ① 労働組合
  労働組合は、一方で労働者(=生産者)の要求をとりまとめて国家に要求
  し、他方で国家の政策を実践し、点検する

 ② 地方自治体
  住民が主人公を実現する民主主義の学校。住民は地方行政への参加をつう
  じて主権者意識を育てる

● 社会主義の理念の教育と宣伝

 ・国民が主人公の社会主義の理念を教育の基本とする

 ・マスコミをつうじて、社会主義の理念を全国民が共有する

● 直接民主制と間接民主制の結合

 ・選挙運動の完全自由化のもとで、18歳以上の男女による普通選挙制の実施

 ・国家、地方自治体の重要機関、高級官僚に対する労働者なみの賃金と
  リコール制


<⑥ 日本の社会主義は、日本の国民が独自に探究すべき課題であり、
   諸外国のあれこれをモデルにするものではない>

● ラテンアメリカの「社会主義のルネッサンス」

 ・民主主義革命をつうじて社会主義への道を歩む

 ・選挙によって国民の信を問いながら一歩ずつ前進

 ・国民参加型の自由と民主主語の社会主義を展望

 ・独自の経済圏の確立をめざして、アメリカの「新自由主義」に対抗
  →日本のめざす社会主義への展望と共通の路線

● ソ連・東欧の失敗の教訓をくり返さず、中国、ベトナム、ラテンアメリカの教
 訓に学びながら、社会主義の理念にたって、自主的社会主義の道の探究を