『エンゲルス「反デューリング論」に学ぶ』より

 


               序

  今回の著作は、広島県労働者学習協議会主催の講座「エンゲルス『反デューリング論』に学ぶ」(二〇〇七年六月から二〇〇八年四月)の二十回分の講義をもとに、編集委員会で議論し、加筆、訂正、整理したものです。
 『反デューリング論』は、エンゲルスの著作ではありますが、事実上マルクスとの共著となっており、しかも哲学、経済学、社会主義の三つの構成部分を網羅する科学的社会主義の「百科辞典的な概観」をあたえるものとして、マルクス、エンゲルスの数ある著作のなかでも、特筆に値する重要な古典です。とくにそのなかの哲学と社会主義論は、他の著作の追随を許さない理論的深みをもっています。

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 『反デューリング論』の一部は、科学的社会主義の入門書である『空想から科学へ』としてまとめられていますが、その存在によってもいまだその価値が失われることはありません。
 しかし本著が世に出てすでに百三十年が経過し、この間自然科学は巨大な前進をとげていますし、二〇世紀のさまざまな社会主義の実験も経験してきました。エンゲルスは、「自然は弁証法の検証となるもの」といっていますが、二〇世紀の相対性理論や量子論をふまえても尚そのように総括しうるのか、またソ連・東欧の崩壊は、『反デューリング論』の社会主義論からするとどのように評価されるべきなのか、などの新しい問題への回答も求められています。この間の歴史的経験は、エンゲルスの「社会主義論」に関する理論的見解の一部について、見直しを求めているようにも思われます。
 こうした点を含めて、『反デューリング論』で展開された科学的社会主義の学説を今日的到達点にたって学び、考えようとするところに、本書の特色があります。その意味で本書の副題を「現代の到達点にたって、科学的社会主義を考える」と致しました。エンゲルスの該博な知識とは比肩すべくもない力量からしても、また自然科学に対する基礎的な素養の不十分さからしても、分に過ぎた課題への挑戦となりましたので、ご意見、ご批判は多々あろうかと思います。それはむしろ当然のことであり、それを受けてさらにを積み、考えていきたいと思っています。ただ人類の認識は、個々人の真理探究の努力を積み重ねる長い歴史をつうじて無限に客観的真理に向かって前進していくとの確信にたっての試みであり、百三十年の歴史をふまえて、科学的社会主義の理論を一歩でも前進させ、より豊かなものに発展させたいとの意を汲み取っていただければ、幸いに存じます。

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 今回も、編集委員会の皆さんの協力なくして本書が世に出ることはありませんでした。ここにあらためて深甚なる敬意と謝意を表するものです。
 なお装丁は、長男の文化女子大学准教授・高村是州が担当しました。

二〇〇八年 七月    

       高村 是懿