2008年11月5日 講義

 

 

第8講 予備概念 ③
    「A客観にたいする思想の第一の態度」⑴

 

1.客観的思想に対する態度

25節 ── 客観的思想は真理を言いあらわすもの

●「客観的思想」は「哲学の絶対的な対象」(132ページ)としての「真理を
 言いあらわす」(同)

 ・客観的思想とは事物そのもの、事物の真の姿を思惟においてとらえたもの

● 客観的思想は「対立を指示する」(同)

 ・事物の真の姿は対立物の統一にある

 ・したがって、客観的思想は「対立」を避けて通れない

 ・しかし「対立」のうちにとどまる思惟規定は、「絶対的な(アン・ウント
  ・フュア・ジッヒ ── 高村)真理に適合」(同)しない ── 有限な悟性
  にすぎない

●「思惟諸規定の有限性」(同)を主張する「二つの場合」(同)

 ① 客観に対立する主観を主張

 ② 絶対者に対立する有限な思惟規定を主張

● 序論で「客観性にたいして思惟がとるさまざまの態度」を批判的に検討

 ・客観的思想を主観的思惟がとらえうるかどうか

 1)思惟規定は有限なものとする「古い形而上学」の立場

   ・有限な思惟規定で無限な絶対者をとらえようとする立場

   ・「理性的対象の単に悟性的な考察」(135ページ)

 2)思惟規定は「単に主観的であって、あくまで客観的なものに対立してい
   るという意味での有限性」(132ページ)の立場

   ・経験論とカントの批判哲学

 3)諸カテゴリーは「絶対的なものとは一層対立している」(同)とする直
   接知の立場

● 弁証法的思考は、15世紀後半の自然科学の発展により復活

 ・スコラ哲学にかわる合理的哲学が主流

 ・合理的哲学の諸形態と非合理哲学の批判のうえにヘーゲルの弁証法的論理
  学

 ・「古い形而上学」「経験論」「カント哲学」「直接知」の批判


哲学体系の変更

● 当初、精神現象学にはじまる哲学体系を構想

 ・哲学知は主観と客観の一致を示すもの

 ・「道徳、人倫、芸術、宗教など意識の具体的諸形態」(133ページ)も含
  まれてくることにより、「精神哲学」とダブることになる

● 意識の発展と「哲学の具体的な諸部門」(同)とは区別すべき

 ・論理学と自然哲学、精神哲学の区分

 

2.「A客観にたいする思想の第一の態度」⑴

26節 ──「古い形而上学」

● 古い形而上学は「対立をまだ意識」(134ページ)しない素朴な態度

 ・客観的思想を追い求めることにより、主観と客観とは一致するとする、対
  立を意識しない感覚的立場

 ・真理認識の「最初の形式」(127ページ) ──「素朴な態度」(134ペー
  ジ)


27節 ──「古い形而上学」は理性的対象の悟性的考察

●「古い形而上学」は、まだ解決されていない対立のうちにとどまっている

 ・客観に含まれる対立する二つの側面を主観のうちにとらえねばならない
  のに、一面に固執し、「解決されていない対立のうちに」(135ページ)
  とどまる

● カント哲学以前の「古い形而上学」

 ・ライプニッツ=ヴォルフ学派

 ・形而上学の根本法則は「AはAである」(同一律)── 矛盾を認めない論
  理

● 古い形而上学は「理性的対象の単に悟性的考察」(同)


28節 ── 古い形而上学批判 ①

● 古い形而上学は、思惟規定(カテゴリー)を事物の根本規定ととらえ、カ
 ント哲学よりも高い立場に

 ・思惟によってアン・ジッヒにとらえた事物の根本規定をカテゴリーだとし
  た

 ・理性は、カテゴリーにより真理を認識しうるとして、カント哲学より高い
  立場

● 古い形而上学批判 ①(28、29節)

 ・一面的なカテゴリーが真実在の述語になりうると考えていた

 ・ヴォルフは「神は存在する」「世界は無限である」というように、絶対者
  を一面的述語でとらえようとした


28節補遺 ── 悟性的思惟と理性的思惟

●「事物の真の姿は思惟によってのみ明らかになる」(136ページ)が、古い
 形而上学は抽象的な思惟規定をそのまま真実在の述語とした

● 有限な悟性的思惟と無限な理性的思惟の区別

 ・思惟そのものは、自分自身のもとにあるから無限

 ・しかし思惟が「制限された諸規定のもとに立ちどまって」(138ページ)
  いるとき有限となる

 ・これに対し無限な思惟は「規定し制限しながら、この欠陥を再び除去する
  」(同)

●「古い形而上学の思惟は有限な思惟」(同)

 ・有限な諸規定のうちに立ちどまり「再びそれを否定しなかった」(同)

 ・「神は存在する」── 存在を肯定的なものとしてのみ規定

 ・古い形而上学が関心をもつ諸述語は「有限な悟性的規定にすぎない」
  (139ページ)

 ・述語の「附加」(同)は「外的な反省」(同)にすぎない ── 対象の真
  の認識は主語が「それ自身のうち」(同)で自己を規定すること(内的
  な反省)

● 有限な事物と無限な事物

 ・有限な事物には、有限な思惟(述語)で十分

 ・しかし無限な事物(神、世界、魂)は「有限な述語によっては規定できな
  い」(140ページ)

●「無限なもの」のなかに運動する物質も含まれる

● 形而上学はすべての運動する「無限な事物」を「有限な事物」にかえてし
 まうもの


29節 ── 述語のもつ二つの制限性

● 述語のもつ二つの制限

 ① 述語は有限な思惟規定であるから「神や精神や自然」(同)など無限な事
  物の「豊かな内容に適合」(同)しない

 ② 述語は主語に「附加」(139ページ)される「外的な反省」(同)として
  互いに無関係

● 第1の欠陥を取り除くために、東洋人は、神に無限に多くの述語をつけた