2009年3月4日 講義

 

 

第16講 予備概念 ⑪
     ヤコービ批判 ⑶

 

69節 ── 神の存在は真の媒介知

● 直接知は、神の表象と神の存在の直接的、無媒介的結合を主張

 ・神の表象から神の存在への移行は「自己そのもののうちで自己を完結する
  媒介」(226ページ) ── 自己媒介

● 外的媒介に対して自己媒介、内的媒介は「真の媒介」(同)

 ・原稿の推敲は自己媒介


70節 ── 対立物の統一とは相互媒介的統一

● 直接知の主張は「理念は存在によってのみ真実なもの」(227ページ)、
 「存在は理念によってのみ真実なもの」(同)というもの

 ・真理は理念と存在との一致にあるとするかぎりでは正しい

 ・しかし「異った規定の統一」(同)、つまり対立物の統一とは媒介的な統
  一 ── 異った規定の一方が他方によって媒介され、他方によって真実態
  を持つような統一」(同)

● 真理は直接性と媒介性の統一

 ・直接性も媒介性もそれだけでは「絶対的なもの」(同)ではなく、両者の
  区別は相対的

 ・「抽象的な悟性」(同)は両者を区別し、「思弁的概念」(同)はそれを
  統一する

 ・弁証法は「連関、連鎖」(エンゲルス)の科学 ── そのカテゴリーが直
  接性と媒介性の統一


71節 ── 直接知では主観的確信が真理の基準

● 71、72、73節は直接知の一面性のもたらす3つの帰結を述べている

● 直接知は「意識の事実」(228ページ)を真理の基準

 ・すなわち、真理の基準は主観的確信とされる

 ・いわゆる「一般の一致」(228ページ)といわれるもの ── すべての人の
  意識にあるものは「意識そのものの本性に根」ざすものであり、真理であ
  るとする

 ・しかし、個人の意識は「特殊的で偶然的」(同) ── これを除去しない
  限り「一般の一致」は「有力な憶測」(229ページ)にすぎない

 ・世論は真理と誤謬の結合――多数決必ずしも真ならず

● 神の信仰については「一般の一致」は成立しない

 ・「神を信じない個人や民族がいる」(同)

 ・ここにいう神とは神一般ではなく、「本質的に普遍的な人格」(210ペー
  ジ)としての神


72節 ── 直接知の真理は無限定的

●「あらゆる迷信や偶像崇拝」(230ページ)が真理とされ、「どんなに不法
 で不道徳的な意志」(231ページ)も是認されることになる

 ・インド人の動物信仰、バラモン、ラマ教は直接知

 ・媒介知を否定する直接知は、最も貧しい、原始的な意識をそのまま肯定

 ・もって生まれた性格も直接知


73節 ── 直接知の神は神一般

● 直接知は神を「本質的に普遍的な人格」(216ページ)といいながら、そ
 の内容を展開せず

 ・神が何であるかを知ることは「知識」(231ページ)であり、媒介知

 ・結局、直接知の神は神一般にとどまる


74節 ── 直接知の形式は内容をも一面的にする

● 直接知は形式のみならず、内容そのものも一面的

 ・「普遍的なものに抽象性という一面性」(232ページ) ── 神は抽象的普
  遍として「無規定な存在」(同)に

 ・「特殊的なもの」(同)に「自己関係」(同)の規定を与える ── 他者
  との媒介性を否定して絶対化→普遍も特殊も内容を一面的なものに

● 直接性は「どんな内容でも受入れる」(233ページ)

● 真実な内容は、単なる自己関係ではなく、自己媒介する自己関係(具体的
 普遍)にある

 ・直接知は客観に対する第1、第2の態度からの脱却をめざしながら、その
  抽象性のゆえに有限な知識の範囲にとどまっている


74節補遺 ── 直接知の神は抽象的普遍

● 直接知は具体的普遍としての神を抽象的普遍にかえてしまう

 ・直接性とは「抽象的な自己関係」(同)、「抽象的な普遍性」(同)

 ・この場合の神を精神とよぶことは「空虚な言葉」(同)にすぎない


75節 ── 直接知の総括的批判

● 直接知とは媒介知の否定であり「事実として誤っている」(234ページ)

 ・同様にすべてを媒介知とするのも誤まり

● すべては直接性と媒介性の統一

 ・論理学はそれを証明

 ・直接知とは媒介性を揚棄した直接性にほかならない


76節 ── 直接知とデカルト哲学との共通点

① 思惟と存在との不可分性

② 神の観念と存在との不可分性

③ 外的事物の存在にかんする直接的意識

 ・直接的意識は「感性的意識」(235ページ)にすぎない ── 真理ではない

 ・直接知は「迷妄であり誤謬」(同)


77節 ── 直接知とデカルト哲学との相違点

① デカルト哲学は、思惟と存在の不可分性から先に進んで「近代の学問の
  祖」(237ページ)に

 ・精神と物体の二元論、物体における目的因の排除などにより、古典力学へ
  の道をひらく

 ・これに対して直接知は一歩も先に進まず

② 直接知は、一方でデカルトの科学的方法をそのまま使用しながら、他方
  で魂、世界、神などについて勝手な妄想をつらね、哲学を攻撃


78節 ── 懐疑論とヘーゲル哲学

● 直接性と媒介性の絶対的対立は取り除かなければならない

 ・直接性を含まない媒介性も、媒介性を含まない直接性も存在しない

● 哲学は、直接性と媒介性の絶対的対立という先入見を否定する

 ・否定をこととする懐疑論も先入見を否定するが、ヘーゲル哲学には不要

 ・弁証法は否定と同時に肯定的モメントを持ち、単なる否定を必要としない

 ・哲学に求められる思惟の自由は「すべてを捨象」する点でも懐疑論を必要
  としない