2009年6月17日 講義

 

 

第21講 第1部「有論」③

 

有論「A 質」「b 定有」(1)

89節 ── 定有は有と無の揚棄された統一

● 成は「自己内の矛盾」(277ページ)によってくずれ、定有となる

 ・成は有と無の統一といいながら、有または無は排除され、消滅してしまう
  という矛盾

 ・この矛盾で成はくずれ、有と無の揚棄された統一としての定有に

 ・定有において、有と無とは定有の2つのモメントとなる

● 成のもつ矛盾の解決という「成果」が定有

 ・定有は矛盾の解決としての「成果」の「最初の実例」(278ページ)

 ・悟性は矛盾を否定的なもの、真実でないものとしてのみとらえる

 ・ゼノン ── 運動は矛盾、「ゆえに運動は存在しない」(同)

 ・しかし矛盾は「特定の成果」をもたらす ── 有を含む無、無を含む有

● 定有とは有と無をモメントとしてもつ統一

 ・定有は「自己のうちに動揺を持たぬ統一」(274ページ) ── 有と無をモ
  メントとする

 ・定有は「否定性あるいは限定性を持つ」(279ページ)1つの有


89節補遺 ── 成は消失して定有となる

● 成は消失して定有となる

 ・成のうちで有と無は相互に排斥しあうことによってともに消失し、「材料
  を焼きつくす」(同)ことで成も消失する

 ・成は消失して否定性をもつ有(「否定と同一の有」)=定有となる


90節 ── 定有とは質をもつ有

(イ)定有とは、規定されることで質をもつに至った有

 ・定有とは「何物かである」という規定された有

 ・「何物かである」とは、或る質をもった有

 ・定有が展開すると「定有するもの、或るもの」(280ページ)となる


90節補遺 ── 質とは或るものを現にそれがあるところの
        ものにするもの

● 質は「有と同一な」(同)規定性

 ・質は有と一体不可分な関係にある規定性

 ・これに対し量は、有に「無関心な」(同)「外的な規定性」

● 質とは或るものを現にそれがあるところものにするもの

 ・或るものがその質を失うと「それが現にあるものでなくなる」(同)

● 質は規定されることで限界をもつ「有限なもののカテゴリー」(同)

 ・有限な「自然のうちにのみ、その本来の場所を持っている」(281ページ
  )

 ・無限な精神の領域は、質ではとらえきれない


91節 ── 定有とは実在性

● 定有は質をもつ有として「実在性」(同)

 ・定有は現に存在する「実在性」

 ・定有のうちの無は、他のものでは無いという「或るものの形式」(同)

 ・定有は即自有と向自有との統一 ── 向他有は「或るものの幅」(同)を
  なす


91節補遺 ── あらゆる規定は否定である

● あらゆる規定は否定である

 ・規定するとは、他のものではない(否定)として他のものから区別するこ
  と

 ・「無思想な観察者」(282ページ)は、規定されたものを「単に肯定的な
  もの」とみるが、単なる有は「全く空虚であると同時に不安定なもの」
  (同)

 ・ 上記「観察者」の「定有と抽象的な有との混同には正しい点もある」(
  同) ── 定有においては否定のモメントが「他のものではない」という
  「おおわれた」(同)形でしか表れていない

 ・向自有において否定のモメントは「自由にあらわれ出て正当な権利に達す
  る」(同)

● 定有は「有るところの規定性」(同)として「実在性」(同)

 ・定有は質をもってあらわれ出たもの ── 内的なもの、主観的なものがあ
  らわれ出たものが「実在性」

 ・「実在性」には「定有するものとその概念との一致」(283ページ)とい
  うもう一つの意味も ── 理念性と同義


92節 ── 或るものは有限で可変的

(ロ)定有は限界をもつ

 ・定有の規定性は、他のものではないという否定性として「限界、制限」
  (同)

 ・しかし制限と限界は区別すべき ── 或るものが限界を越えようとすると
  き、限界は制限となり、制限を突破しようとする働きが当為(制限と当為
  のカテゴリー)

 ・向他有という他在は「定有そのもののモメント」(同)として限界をなす

● 或るものは、その質によって「有限」(同)であるから「可変的」(同)

 ・或るものは質をもつことによって限界をもち有限、有限なものの本性とし
  て可変的

 ・或るものは、即自有と向他有との矛盾、有と無との矛盾のうちで自己を揚
  棄する→ここにすべての事物(事物はすべて有限)の可変性という「変
  化」一般がとらえられている


92節補遺 ── 限界の弁証法

● 限界は矛盾である

 ・或るものは限界によってのみ「現にそれが有るようなもの」(284ページ
  )

 ・限界は「定有全体を貫いている」(同)

 ・ここでいう限界は質的限界 量的限界

 ・人間は現にあるためには「定有しなければならない」(同) ── 「自己
  を制限しなければならない」(同)

● 限界は矛盾を含み「弁証法的」(同)

 ・或るものは限界によって「実在性」が生じ、限界において「否定」

 ・或るものは限界において他のものと区別され、限界において他のものと同
  一限界は矛盾

 ・或るものはその可能性によって潜在的に他者であり、限界においてその他
  者性が顕在化する

 ・或るものは「それ自身に即し」(285ページ)た他のものをもつ ── 本質
  論では、或るものはそれ自身の固有の他者をもつ(反省関係=対立)

 ・プラトンは、世界を「一者と他者」(同)の統一ととらえ「有限なものの
  本性」(同)を表現

● 有限なものは「即自的に自分自身の他者」(同)として可変的

 ・定有の可能性は「単なる可能性」(286ページ)ではなく、「定有の概
  念」(同)(質をもった有)のうちに含まれている

 ・生あるものは生の概念のうちに「死の萌芽を担っている」(同)