2009年7月15日 講義

 

 

第23講 第1部「有論」⑤

 

1.「B 量」の主題と構成

● 量は、増減しても質に影響を与えない外的な規定性

● 量は、「a 純量」「b 定量」「c 度」に区分

 ・質の「a 有」「b 定有」「c 向自有」に対応

 ・肯定、否定、肯定と否定の統一

● 純量 ── 無規定の量

 ・純量には連続量(一)と非連続量(多)とがある

● 定量 ── 規定された量

 ・定量には単位(一)と集合数(多)とがある

 ・ここから四則計算が生まれる

● 度 ── 純量と定量の統一、量の真理

 ・向自有に対応して、一者の側面(内包量)と真無限の側面(比)とがある

 ・度において「量のなかの質」が回復する

 

2.「B 量」「a 純量」

99節 ── 量は有に無関係な規定性

● 量は、質と異なり、有に無関心

 ・量の規定性は「有そのものと同一なもの」(301ページ)ではなく、有に
  「無関心なもの」(同)

 ・質はそれを失えば「現にそれがあるところのものでなくなる」(260ペー
  ジ)のに対し、量は「有にとって外的な、無関係な規定性」(同)

● 「大きさ」という言葉は「量をあらわすには不適当」(302ページ)

 ・大きさとは「主として一定の量」(同)、規定された量を示す

● 数学では「大きさとは増減しうるもの」と定義

 ・この定義は何が増減しうるのかが問い返され「定義さるべきもの自身」
  (同)を含んでいるから不十分

 ・しかし、量的規定の変化は、質に無関係「無差別的なもの」(同)との正
  しい思想をも含んでいる

● 「絶対者は純粋な量である」(同)との立場

 ・絶対者は質料であり、形式は「質料に無関係な規定であると考えるのと同
  じ」(同)

 ・絶対者は「無差別なもの」(同)であり、「区別は量的にすぎない」(同)
  と考えるのと同じ
 ・しかし多くの前提をもつ定義、量の実例としては理解しうる

 ・実在的なものと区別された、絶対時間、絶対空間も「量の実例」(同)


99節補遺 ── 数学における量の定義批判

● 「大きさとは増減しうるもの」の数学的定義の問題点

 ・一見「明白で尤もらしい」定義にみえる

 ・しかしこの定義は同語反復

 ・この定義は「論理的展開の道によって明かになった量の概念」(同)を前
  提としている

● この定義の欠陥は、量を「可変的なもの一般」ととらえることにより、質
 との区別をなくしてしまう

 ・もっとも、量の変化は質の変化とは異なり、増減という方向での変化のみ
  であり、増減によっても「事柄そのものはもとのまま」(303ページ)と
  いうことをふくんでいることからすれば正しいともいえる

● 哲学的定義は「単に正しい定義」(同)ではなく、思惟によってその必然
 性が「確証された定義」(同)でなければならない

 ・数学的定義は正しいとはいえても、その必然性が「確証された定義」では
  ない

● 量の定義が論理的展開としてではなく「直接表象から取られる」(303,
 304ページ)と量は「過大に評価」(304ページ)され、ピュタゴラス派
 のように「絶対的なカテゴリーにまで高められる」(同)

 ・量は、有論におけるカテゴリーとして有限なもの

 ・自由、法、道徳、神の真理は「数式で表現できない」(同)

 ・反面「数学の価値を軽く見る」(同)のも間違い

 ・量は「理念の一段階」(305ページ)として「正当な位置が与えられなけ
  ればならない」(同)


100節 ── 量は連続量と非連続量の統一

● 量は、連続量(一)と非連続量(多)との統一

 ・連続量はそのうちに区別をもたない一者

 ・非連続量は、そのうちに区別をもつ多者

● しかし、連続量はまた非連続の可能性でもあり、非連続量は同時に連続可
 能性として単位となる

● 連続量と非連続量とは「量の二種類」(306ページ)ではなく、量の二つ
 のモメントにすぎない

 ・重要なことは、両者を混同しないこと

 ・ゼノンの逆説は連続性を論じながら、非連続性に転化し、両者を混同した
  ところに誤りあり

 ・位置の移動は「ここにある」(非連続性)と同時に「ここにない」(連続
  性)の統一

● 「カントの空間や時間や物質にかんするアンチノミー」は一方で連続性
 を、他方で非連続性を証明しようとするもの

 ・連続性とは、一者と同時に無限分割可能性

 ・非連続性とは、多者と同時に合一可能性

 ・連続性も非連続性も、どちらも「同じく一面的」 ── 真理は両者の統一に


100節補遺 ── 単なる連続量も単なる非連続量も存在しない

● 量は、「連続的でもあれば非連続的でもある」(307ページ)

 ・連続性は、非連続性(無限分割可能性)をモメントとして含み、非連続性
  は連続性(合一可能性)をモメントに含んでいる

 ・したがって「単なる連続量というものもなければ、また単なる非連続量と
  いうものもない」(同)

 ・それを「量の特殊な二種類」(同)ととらえることは、不可分な二つのモ
  メントとの一方を看過するもの

 

3.「B 量」「b 定量」

101節 ── 定量とは規定された量

● 「量のうちには、他を排除する限定性が含まれている」(308ページ)

 ・量は、「一定の量」として「限定性が含まれている」

 ・限定性をもった量が「定量」(同)

 ・定量とは規定され、限定された量 ── 「限られた量」


101節補遺 ── 定量は量の定有

● 定量は量の定有

 ・純量は純有、度は向自有に対応

 ・純量の区別は、連続性と非連続性という潜在的区別

 ・この潜在的区別が定立され、区別された量、限界をもつ量が定量

● 定量とは「多くの定量」

 ・定量の各々は、他の定量から区別されたものとしては一者であるが、その
  うちに他を含む「一つの多」(同)

 ・「一つの多」としての定量が「数」


102節 ── 数は単位と集合数の統一

● 定量は「数において、その発展と完全な規定性とに達する」(同)

 ・数は、多のモメントとして「集合数」、一のモメントとして「単位」を「
  自己のうちに含んでいる」(同)

● 四則計算(加減乗除)は、集合数と単位の関係の必然的な展開

 ・計算とは、単位と集合数とを「数えあわす」(310ページ)ことにより
  「二つの規定の相等性を作り出す」(309ページ)こと

 ・「すでに数であるものを数えあわす」(310ページ)

● 四則計算

 ・足し算は、不等な集合数一般を合計する(「数えあわす」)こと

 ・掛け算は、相等しい数が単位となり、単位がいくつあるのか、その集合数
  を計算するもの

 ・べき乗は、相等しい集合数と単位とを計算するもの

 ・これと並んで3つの消極的算法(ひき算、割り算、べき乗根)あり


102節補遺 ── 数は幾何学にも必要

● 幾何学は、線、面、立体などの連続量(空間)を対象にする

 ・しかしこの場合でも、空間の「規定された諸形態」や「比」(311ページ
  )を扱う場合は「数の助けを借りねばならない」(同)