2009年8月5日 講義

 

 

第24講 第1部「有論」⑥

 

1.「B 量」「c 度」

103節 ── 度は内包量

● 定量は、2つの限界をもつ

 ・外的限界 ── 外延量 量的な限界

 ・内的限界 ── 内包量 質的な限界

● 度は内包量

● 外延量と内包量との相互転化

 ・ ボイル・シャルルの法則 ── 気体の体積は圧力に反比例し、絶対温度に
  正比例する

 ・温度計 ── 温度という内包量が水銀(アルコール)の体積という外延量
  に転化


103節補遺 ── 内包量は外延量に還元しえない

● 外延量と内包量を同一視するのは許されない

 ・当時の物理学では、比重(内包量)の差がアトムの量(外延量)の差とし
  て説明されていた

 ・アトムを「究極のもの」(314ページ)とするのは「抽象的な悟性」(同)

 ・内包量を強いて外延量に還元するのは誤り

● 両者を同一視するものこそ「同一哲学」(同)の名にふさわしい


104節 ── 度は定量の概念(真の姿)

● 定量は「無差別的で単純な大きさ」(315ページ)と「絶対的な外面性」
 (同)の矛盾によって自己を超出し、「量の無限進行」(同)に

 ・直接態から媒介態(「定立されたばかりの定量をこえること」)に、媒介
  態から直接態に

 ・定量は「直観」に最も近い「思想」として「直観に固有の外面性」(同)
  をもち、外面性に左右され「不断に自己を越え出る」(同)

● 度は一定の限度をもちつつ、その限度を自己超出するという矛盾が明確に
 定立されたものとして、定量の概念(真の姿


104節補遺1 ── 量の増減は量の矛盾のあらわれとして必然的

● 量はどうして増減しうるのか

 ・量は自立性(向自有的な性格)と非自立性(外面的性格)の矛盾により
  「自己を越え出る」(316ページ)

 ・増減することは「量の概念そのもののうちに含まれている」(同)必然性

104節補遺2 ── 量の無限進行は悪無限

● 量の無限進行は「有限のうちに立ちとどまっている悪しき無限」(同)

 ・「絶えず限界が立てられては除かれ」(317ページ)一歩も前進しない退
  屈なもの

● 真無限は「有限の単なる彼岸」(318ページ)ではなく、有限な定量のう
 ちに ── それが「比」


104節補遺3 ── ピュタゴラス派批判

● ピュタゴラスは「事物の根本規定」(同)を「数」と考えた

 ・数は「一つの思想」ではあっても、「感覚的なものに最も近い思想」(
  同)

 ・哲学の任務は事物を「規定された思想」(同)に還元することにある

● ピュタゴラス派は「イオニア学派とエレア学派」(同)との中間

 ・イオニア学派 ── 「事物の本質を物質的なもの(ヒューレー)」(同)
  と考えた

 ・エレア学派は、事物の根本規定を「有」という思想で示した

 ・ピュタゴラス派は「感覚的なものから超感覚的なものへの橋」(同)をな
  している

● ピュタゴラスは「あまりに観念的」(319ページ)か?

 ・事実は逆、「行くべきところまで行かなかった」(同)

 ・数は「事物の規定された本質あるいは概念を言いあらわすに足りない」
  (同)

 ・「思想の規定性」(320ページ)を「単なる数的規定性」(同)に還元す
  るのは許しがたい

 ・「思想の真のエレメント」(同)は数のうちにではなく「思惟そのものの
  うちに求められねばならない」(同)


105節 ── 比は量の真無限

● 定量の矛盾は「定量の質」(321ページ)をなす

 ・定量は「向自有的な規定性を持ちながらも」(同)、その「外在性のうち
  で」(同)定量としてある

 ・定量のうちで「量的なもの」(外在性)と「質的なもの」(向自有)とは
  合一している

 ・しかし定量における量的なものと質的なものとの統一は、思想のうちにと
  らえられたもの

● 定量の質が即自的から対自的になったものが「比」(量的なものと質的な
 ものの統一)

 ・比の「質的なもの」は比の値

 ・比の「量的なもの」は比の両項


105節補遺 ── 比は数の自己超出と自己復帰の統一

● 量の無限進行は、数の「不断の自己超出」(同)と自己復帰との統一

 ・数を超出しつつ、数を抜け出すことはできない

 ・これが比 ── 比の両項は不断に自己超出しつつ、比の値という自己自身
  へ復帰する

106節 ── 比から限度への移行

● 比において「質的規定と量的規定とはまだ互に外的」な統一

● 比の真理は限度

 ・限度において、外的であった質的規定と量的規定は内的な合一となる


106節補遺 ── 量の弁証法は量から限度への移行をもたらす

● 量の弁証法が限度への移行をもたらす

 ・「量の概念は自己のうちに矛盾を含んでいる」(323ページ)

 ・この矛盾が量の弁証法

 ・量の弁証法の結果は、限度という質と量の真理をもたらす

● 現実の世界に存在するものは、すべて質と量の統一としての限度

 ・われわれが量を問題としている場合、「特定の質の根柢に横たわってい
  る量」、つまり限度を論じている

 

2.「C 限度」

107節、同補遺 ── モノには限度がある

● 限度とは「質的な定量」(324ページ)、定有(質)と結びついた定量

 ・つまり質と量の統一

 ・有は「限度において完全な規定性」(同)に達する、つまり完全な姿(具
  体的事物)となる

 ・モノには限度がある


108節 ── 限度における量の二つの変化

● 限度における定量の二つの変化

 ・一方で限度内における定量の変化は「限度を廃棄する」(326ページ)こ
  となし

 ・他方で「量の変化」が限度を越えると「質の変化」(同)に ── 量から
  質への転化


108節補遺 ── 量から質への転化

● 限度における量から質への転化

 ・限度において、質と量とは「それぞれ独立」(同)している

 ・ しかしそれは「限界」があって、限界を越える量の変化は質の変化をもた
  らす

 ・ 量の変化は「質的なものを捕らえる言わば狡智」(326~327ページ)

 ・ 一粒の小麦が小麦の山をつくる。一本の毛を抜けば禿になる

● 「量から質への転化、またその逆の転化の法則」(エンゲルス)は、弁証
 法の3法則の1つか?

 ・弁証法の基本形式は、対立物の統一

 ・対立物の統一に、対立物の相互浸透と対立物の相互排斥とがある

 ・量と質の弁証法は対立物の相互浸透の一形態にすぎない


109節 ── 限度の無限進行

● 限度を越えると、限度のないものに

 ・「限度のないものも同じく1つの限度」

 ・或る定有から、別の定有への移行

● 限度から限度への移行

 ・限度の否定は、限度の回復という無限進行


109節補遺 ── 度量の結節点

● 限度を越えることによる質の否定は「特定の質」(329ページ)の否定

 ・つまり、或る質から他の質への移行

● 量から質へ、質から量への交互の転化をもたらす点は「度量の結節点」と
 よばれる


110節 ── 限度の揚棄は本質への移行

● 限度の無限進行から、量と質の統一としての限度(有)の揚棄に

 ・限度(有)の直接性を揚棄して限度のないものに(本質)に

 ・限度のないもの(本質)のうちで、限度(有)は「ただ自分自身に出あ
  う」(同)

● 有と本質とは、相互に無限に媒介し合う真無限


111節 ── 有論から本質論へ

● 限度は、有論の最後に位置する「完成された有」(324ページ)

● 限度の揚棄は「有一般」(同)の揚棄

 ・有の直接性(表面的な姿)が否定されることにより、有の真の姿に移行
  する ── それが本質

● 本質は、有に媒介され、有を揚棄した有自身

● 有論から本質論への進展は、認識の深まりを示すもの


111節補遺 ── 本質は関係である

● 本質は、有の弁証法の成果

 ・有の弁証法により有への認識が深まるなかで、本質の認識に達する

● 本質は関係

 ・有は「移行」、本質は「関係」

 ・本質における移行は、関係のなかでの移行

 ・本質論では、事物を二重化し、その2つのものを「対立・矛盾」という必
  然的な関係においてとらえる