2009年9月16日 講義

 

 

第27講 第2部「本質論」③

 

「A 本質」「a 純粋な反省規定」(2)

「ロ 区別」(2)

● 2番目の区別は、対立・矛盾 ── 弁証法にとって最重要のカテゴリー
 119節 ── 本質的な区別は対立

● 本質における本質と有との区別は肯定的なものと否定的なものという対立
 における区別

 ・肯定的なものとは否定的でないもの(またその逆)

 ・両者の各々は「他者でない程度に応じて独立的」(28ページ)であると同
  時に「他者があるかぎりにおいてのみ存在する」(同)非独立 ── 独立と
  同時に非独立

● 対立は、自己に固有の他者をもつ

 ・区別されたものは「他者一般」(同)ではなく「固有の他者」(同)をも
  つ

 ・肯定的なものは、否定的なものを内に含む肯定的なものであり、否定的な
  ものは、肯定的なものを内に含む否定的なものとして対立の関係にある
  ── 「他者との関係のうちにのみ自己の規定を持ち、他方へ反省している
  かぎりにおいてのみ自己へ反省」(同)

● 本質的な区別は排中律の命題となる

 ・「すべてのものは本質的に区別されたものである」(同)

 ・「2つの対立した述語のうち、一方のみが或るものに属し、第3のものは
  存在しない」(同)→排中律は同一律と矛盾

 ・同一律は自己関係であるのに対し、排中律は「自己に固有の他者へ関係す
  るもの」(29ページ)

 ・排中の原理は「矛盾を避けよう」(同)として「矛盾を犯す」(同)

● 「矛盾概念の対立は空虚」(30ページ)

 ・矛盾概念(排中律)の対立は、「一方のみが属して他は属さない」(同)
  という空虚なもの ── ドグマティズム(㊤143ページ)

 ・否定的なものは「あくまで抽象的に否定的なもの」(29ページ)ではな
  く、「それ自身のうちにおいてまた肯定的なものでもある」(同)

 ・排中律は「対立の原理」(同)を「矛盾の原理で言いあらわされた同一の
  原理と考えている」(同)

● 磁石の極性には「対立にかんするより正しい規定」(同)が含まれている


119節補遺1 ── 対立は必然性の認識

● 肯定性は「より高い真理における同一性」(31ページ)

 ・肯定的なものは、否定的なものと媒介された肯定的なものとして「より高
  い真理における同一性」

 ・同一性は、区別を揚棄した「無規定なもの」(同)であるのに対し、肯定
  的なものは「他のものにたいするものとして規定されている」(同)同一
  性

● 肯定的なものと否定的なものとは「本来同じもの」(同)

 ・同じ1つのものを対立する関係においてとらえたもの(「すべてのものは
  対立している」33ページ)

 ・両者は「本質的に制約しあって」(31ページ)おり、「相互関係において
  のみ存在する」

● 哲学の目的は「無関係を排して諸事物の必然性を認識することにある」(
 32ページ)

 ・必然性の認識の普遍的形態が対立

 ・対立するものの「一方は、それが他方を自分から排除し、しかもまさにそ
  のことによって他方に関係するかぎりにおいてのみ存在する」(同)
  ── これが必然性

 ・「真の思惟は必然的なものの思惟」

● 「極として知られた対立」(同)は「普遍的な自然法則」

 ・自然の法則は粒子と反粒子、物質と反物質という「自然の対称性」をもつ

● ワトソンはDNAの二重らせん構造につき「自然界で重要なものはみんな
 になっているから」

 ・「対称性の破れ」とは、自然界は対立物の統一と同時に対立物の区別であ
  ることを示している


119節補遺2 ── 対立から矛盾へ、矛盾から矛盾の解決へ

● 「すべてのものは対立している」(33ページ)

 ・すべてのものは、本質的な区別としての対立を自己の内に含んでいる

 ・「あれかこれか」は「実際どこにも」(同)存在しない

 ・すべての「具体的なもの」(同)は「自分自身のうちに区別および対立を
  含む」(同)

● 事物を動かすものは矛盾である

 ・酸はアルカリとの「対立のうちに静かにとどまっている」(同)のではな
  く、塩基を実現しようとする

 ・矛盾は「自分自身によって自己を揚棄する」(同)

 ・「揚棄された矛盾」(同)の最初の結果が「根拠」(同) ── 根拠にお
  いて、同一性と区別は根拠のモメントに

● 差別から対立へ、対立から矛盾へ、矛盾から矛盾の解決への進展


120節 ── 対立から根拠へ

● 肯定的なものと否定的なものとは「定立された矛盾」(34ページ)

 ・肯定的なものと否定的なものとは、その矛盾により揚棄されて根拠となる
  (根拠において両者は根拠の2つのモメントとして「顕在的に同じもの」
  〔同〕に)

● 対立物の統一には、対立物の相互浸透と対立物の相互排斥とがある

 ・「対立したものは一般に、或るものとその他者、自己と自己に対立したも
  のとを自己のうちに含んでいるものである」(同)

 ・本質的な区別は、同一をうちに含む区別として、根拠


「ハ根拠」

121節 ── 本質は根拠

● 本質は根拠

 ・本質は「区別および同一の成果の真理」(35ページ)として根拠

 ・根拠としての本質は、「統体性として定立された本質」となってあらわれる

● 根拠の原理

 ・「すべてのものはその十分な根拠を持っている」(同)

 ・或るものの「真の本質」(同)は、或るものの同一性であると同時に異な
  ったものとしてとらえるしかない

● 根拠は「或るものの根拠」(同)であるかぎりにおいてのみ根拠


121節補遺 ── 根拠は反省の立場

● 根拠は「定立された矛盾」であり、「自己のうちに静かにとどまってい
 る」(36ページ)ことなく、「自分自身から自己を突きはなす」(同)
 ── 矛盾の止揚

 ・根拠は出現するかぎりで根拠

 ・根拠から出現したものもまた「根拠自身」(同) ── 根拠の形式主義(
  両者の相違は内にあるか外にあるかの違い)

● 根拠を問うことは「反省の立場」(同)

 ・「十分な根拠の原理」(同)とは「事柄(事物 ── 高村)を二重にみよ
  うとする」(同)もの

 ・「事物は本質的に媒介されたものとみられなければならない」(同)

 ・形式論理学は、この法則を「導出もせず、その媒介を示しもしない」(
  同)
 ・「論理学の仕事」(37ページ)は「把握も証明もされていない諸思想を、
  思惟の自己規定の諸段階として示すことにある」(同)

 ・根拠は「まだ絶対的に規定された内容を持たない」(38ページ)

 ・根拠は同一であると同時に区別であるから、その区別は「対立にまで進ん
  でいく」(同) ── 肯定する理由と否定する理由

 ・「十分な」という形容詞は「余計なもの」(38ページ)

 ・「絶対的に規定された、したがって自己活動的な内容は概念」(39ペー
  ジ)

● ライプニッツの「十分な根拠」(同)は概念

 ・ライプニッツのいう「目的因」(40ページ)は概念

 ・ソフィストは「法律および道徳の領域で単なる理由に立ちどまる」(同)
  ── 「理由づけの立場」

 ・ソフィストの悪評は「権威や伝統」(同)を否定したため

 ・これに対しソクラテスは、ソフィストの「単なる理由というものの無定見
  を弁証法的に指摘」(41ページ)し、概念をかかげて論争

● 今日の時代は「最も悪く最も不合理なものにたいしてさえ、何かしかるべ
 き理由を持ち出す」(同)

 ・理由の限界がわかれば、人々はそれに「もはや威圧されなくなる」(42ペ
  ージ)


122節 ── 本質から現存在へ

● 現存在とは媒介の揚棄による有の復活

 ・本質の媒介性が揚棄されると直接態としての「有の復活」 ── それが現
  存在

 ・現存在は「根拠から単にあらわれ出」(42ページ)たものにすぎない

 ・現存在を生み出す根拠はすべて「しかるべき根拠」(同)

 ・「しかるべき理由」(43ページ)は意志のうちではじめて活動的な原因と
  なる