2009年10月7日 講義
第28講 第2部「本質論」④
1.「A 本質」「b 現存在」
● 現存在(Die Exstenz)とは、現に存在するもの、つまり客観的な「物」
123節 ── 無限の連関を作る現存在
● 現存在は直接性と媒介性の統一
・「自己のうちへの反省と他者のうちへの反省との直接的な統一」(43ペー
ジ) ── 相関的
・現存在するものは「根拠と根拠づけられたもの」(同)との無限の連関か
らなる世界を形成
● 直接性と媒介性の統一の発展したものが概念、理念
123節補遺 ── 現存在の世界は無数の現存在の
無限の媒介の世界
● 現存在は「回復された有」(44ページ)
・有は反照して本質に、本質は根拠として現存在(「回復された有」)に
・現存在は根拠のあらわれとして、それ自身も根拠 ── かくして無限の媒
介に
● 現存在する世界は、無数の現存在の無限の媒介の世界
・現存在する世界は、物質世界、客観世界
● 無数の現存在するものは、自立しながらも、他の現存在と関係しあう無限
の相互媒介をなす
・「究極的目的は何かという問題は解決されないままに残る」(45ページ)
→概念、理念に
124節 ── 現存在するものは「物」
● 現存在する世界は、現存在するもの、すなわち「物」からなる
● 物は、他者との連関を自分自身のうちに含む
・物は、物自体(自分自身)と諸性質(他者との連関)からなる「物」
・物は諸性質を媒介に他の物との連関を生みだす
● カントの物自体は、「抽象的な自己内反省」(同)
・物自体は「他者への反省」(45ページ)が排除されることで空虚なものに
124節補遺 ── 「自体」とは未展開な無規定性
● 物自体は認識しえない
・認識するとは「対象を具体的な規定性においてとらえること」(同)
・しかし物自体は「全く抽象的で無規定の物一般」だから認識しえない
● 「自体」とは未展開な無規定性
・「自体」は対象の「真の姿」(46ページ)をとらえるものではなく「単な
る抽象という一面的な姿」(同)でとらえるもの
・人間「自体」とは「子供」(同)のこと、国家「自体」とは「発達しない
族長的国家」
● 「すべての事物は最初は即自的」(同)
・植物「自体」は胚
・物も物自体を越えて進み、諸性質をもつに至る
2.「A 本質」「c 物」
物と物質
● 物はディング、物質はマテーリア
・物は客観的に存在する具体的個物(個体)。物質は個体を構成する抽象
的、普遍的な実体
・当時の物理学では、物とは何かも未解明
・レーニンの「物質は消滅した」批判
● ヘーゲルは、物と物質を同義に解している
・128節補遺の「質料と形式」、130節の「多孔説」のいずれも物質に関す
る論議
・物=物質として、次の「B 現象」の「現象の世界」、物質世界の論議に
移行
125節 ── 物とは何か
● 物自体が諸性質をもつことで物となる
・物は「根拠と現存在」の統一としての統体
・或るものは質を失うと或るものでなくなる
・しかし、物は諸性質を「持つ」のであり、諸性質のいくつかを失っても物
であることに変わりなし
・物が諸性質を「持つ(Haben)」(48ページ)とは、過去の有(「揚棄さ
れた有」〔同〕)、現存在ではないものをもつということ
125節補遺 ── 物は諸性質をもつ
● 物は、自己同一としての物自体と、区別としての諸性質をもつ
・物において「すべての反省規定」(同)があらわれてくる
・物自体は、諸性質を結合する紐帯
● 諸性質を「持つ」とは「或るもの」から独立したものをもつこと
・質と性質は区別しなければならない
・物は諸性質をもつかぎりで現存在するが「それらを失っても、その物でな
くなる」(同)ことはない
126節 ── 諸性質から質料へ
● 諸性質は「自己への反省」として独立して質料となる
・諸性質は物から区別された独立性であるから、それが自己へ反省して独立
体となっても「具体的な物」(49ページ)ではなく、質料
・質料とは原材料
● 質料は、「抽象的な規定性」(同)「直接態に達した規定性」(同)
・質料は、一定の抽象的な規定性をもちながらも物としては規定されず、「
有としての直接態」(同)のうちにある
126節補遺 ── 質料の有限性
● 質料とは、物のもつ諸性質が独立することにより、物を成立させるもの
・物の概念は、独立と非独立の相互移行
・質料は「物の概念」(同)にもとづいて、諸性質という非独立なものが独
立なものに移行したもの
● 質料のカテゴリーの有限性
・質料は、理念の発展の一段階を示すカテゴリーにすぎない
・有機的生命には「このカテゴリーは不十分」(50ページ)
・諸質料は結合に無関心なのに対し、有機的生命の諸器官は「結合のうちに
のみ存立を持」(同)つ
127節 ── 物は諸質料の外面的な結合
● 質料は、物を存立させる
・質料は、無規定なものであると同時に規定された原材料として物を存立さ
せる
・質料は「規定されたもの」としては「定有的」(51ページ)であり、無規
定なものとしては、物ではなく単なる「物性」(物的なもの)
● 物は諸質料という「物性」の「外面的な結合」(同)からなる
128節 ── 物は質料と形式の統一
● さまざまの質料は「合して1つの質料に」
・質料を規定するものが形式
・質料は形式に無関心
● 物は質料と形式の統一
・質料を規定して物にするのが形式
● 質料は、物自体と同様に無規定なものではあるが、自己のうちに「形式と
の関係を含んでいる」(51~52ページ)
128節補遺 ── 質料は形式を、形式は質料を含む
● アリストテレスは、物質を不変にして同一な全く無規定の質料と形相(形
式)から成ると考えた
・つまり、質料は自己のうちに形式を含まないと考えた
・しかし、「大理石」(52ページ)という質料は、「ただ相対的にのみ形式
に無関心」(同)なのであって、「一般に無形式」(同)ではない ──
大理石という質料で自動車や書籍は作れない
● 「質料という概念は、あくまで形式の原理を自己のうちに含んでいる」
(同)
・質料と形式は対立カテゴリーとして、質料は形式を含み、形式は質料を含
む
・ギリシア神話では、神はカオスという質料に形式のみを与えるデミウルゴ
スと考えた
・しかし、「一層深い見方は、神は世界を無から創造したという見方」(53
ページ)
129節 ── 質料と形式は対立物の相互移行の関係
● 質料と形式はいずれも「物性の全体」(同)
・物自体が諸性質をもつのと異なり、質料と形式はおのおの独立に存在し
て、物を成立させる物的なもの
・しかし両者とも、自己への反省(独立)と同時に他者への反省(非独立)
・質料は形式を含み、形式は質料を含む ── 「両者は即自的に同じもの」
(同)
・質料と形式との同一と区別の統一が「質料と形式との関係」(54ページ)
130節 ── 物から現象へ
● 物は統体性としての矛盾
・物は一個の具体的なものとして、統体という形式のうちにもろもろの質料
をもつ
・質料は独立していると同時に非独立という矛盾
・物は統体性をもちながらも、そのうちに質料の独立性と非独立性の矛盾を
かかえた「統体性としての矛盾」(同)
・物は、この矛盾のうちに自己を揚棄して「現象」(同)となる
● 物理学の物質多孔説
・多孔説では、多くの質料は、独立していると同時に「多くの孔のうちに、
他の多くの独立な質料が存在する」(同)と考えている
・これは「悟性の作りもの」(同)であり、質料を独立と非独立の統一と考
えれば多孔説は不要
・物は「質料そのもの」(55ページ)とか「質料から切りはなされた形式」
(同)という考えも悟性の産物
・物は「統体性としての矛盾」としてとらえるべき
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