2009年10月21日 講義

 

 

第29講 第2部「本質論」⑤

 

1.「B 現象」の主題と構成

● 現象とは、本質の現れとしての現存在、本質を内に含む「物」

① 現象の総論(131節)

● 内にある本質が現れて現象となる

● 現象は本質と同一であると同時に区別される

② 現象の各論(132節~141節)

「a 現象の世界」

● 個々の物は質料と形式をもち、形式をつうじて他のものに媒介され、無限
 の媒介へ進む

 ・個々の物は、物質世界を構成する1モメント

 ・無限の媒介は「現象の世界」(59ページ)へ

「b 内容と形式」

● 現象の世界(物質世界)は統体性としての形式

 ・個々の物、物質という「内容」が、その物質に固有の「形式」(運動形
  態)をもつ

 ・個々の物の相互媒介は一定の形式をもち、この形式の総和が物質世界の統
  一性を形づくる

● 物質世界は内容と形式の統一の世界

 ・物質(内容)とその運動(形式)は切りはなしえない

「c 相関」

●「相関」とは対立物の相互移行による対立物の同一の定立という「あらゆ
 る現存在の真理」(64ページ)

● 相関には「全体と部分」「力とその発現」「内的なものと外的なもの」が
 ある

● 内的なものと外的なものとの絶対的同一性の定立が「C 現実性」

 

2.「B 現象」総論

131節 ── 本質は現象しなければならない

● 本質は反照して直接態としての現象へ

 ・本質が外に現れ出たものが現象

 ・本質は「現象の背後」(56ページ)にではなく、現象のうちにある


131節補遺 ── 単なる現象

● 現象は仮象ではない

 ・仮象は単なる直接性。現象は直接性と媒介性の統一

● 現象するものは本質に媒介された「多くの多様な現存在する物」(同)

 ・本質は、現存在する物に「定有の喜びを与える無限の仁慈」(同)

● 現象は「論理的理念の非常に重要な一段階」

 ・現象は有よりも高次の認識

 ・「常識が独立に存在するものと考えているものを哲学は単なる現象とみな
  す」(57ページ)
●「単なる現象」とは、現象には本質的現象もあれば、非本質的現象もある
 ということ

 ・単なる現象より高次のものは「現実性」、さらに高次のものが「概念」

● カントは現象と物自体を区別する功績

● しかし、物自体は認識しえないとする「中途半端」(58ページ)にとどま
 る

● われわれは、現象にすぎないことを知ることによって「同時に本質を知
 る」(58ページ)

 ・本質は「世界を現象に引き下げることによって、自分が本質であることを
  顕示する」(同)

 ・現象にすぎないからわれわれは真理探究の努力を必要とし、「肉体的にも
  精神的にも直ちに餓死」しないですむ

 

3.「B 現象」「a 現象の世界」

132節 ── 現象の無限の媒介

● 現象的なものは、物質世界の統体性という「形式の単なる1モメント」
 (59ページ)

 ・物質世界の形式は、個々の物という「存立性あるいは質料」(同)を自己
  のうちに含んでいる

 ・個々の物は質料と形式の統一であり、他者と関係する「形式」を存立の根
  拠にもつ ── 他者に媒介されて自己が存立する

 ・かくして、物と物との無限の媒介に

 ・現象は存立と非存立の統一として、他の現象へ媒介される

● 個々の物の「無限の媒介」(同)は「現象の世界へ発展」(同)

 

4.「B 現象」「b 内容と形式」

133節 ── 現象の法則

● 個々の現象は「全体として一つの統体」(同)という「形式」(同)をも
 つ

 ・「世界の現実の統一性はそれの物質性」(全集⑳ 43ページ)にある

 ・個々の現象は、物質世界の多様な「内容」をなす

 ・物質世界は個々の物の相互媒介の「形式」の総和から成る完全な「形式」
  を自分自身のうちにもつ

 ・物質世界は「形式を本質的な存立性としてもっている」(60ページ)

●「形式は内容であり、その発展した規定性は現象の法則」(同)

 ・物質世界の統体性の形式は、個々の物質(内容)の運動(形式)から生ま
  れる。したがって形式は内容

 ・物質間の無限の媒介における固定した同一性の形式が「現象の法則」(
  同)

 ・落下の法則 ── 「通過した空間は経過した時間の二乗に比例する」

 ・ 時間と空間の同一性という形式が、落下の法則という内容をもつ

 ・「現象の法則」とは、形式と内容という対立物の相互移行の法則を意味す
  る

 ・多様な現象に統一をもたらす普遍的なものの1つが「現象の法則」

● 現象の法則は2つの現象間の外面的な同一性をとらえるのみであり、必然
 的同一性をとらえるものではない ── 「絶対的相関」とのちがい

 ・エンゲルスは現象の法則を「ポスト・ホック」(それのあとに)、必然の
  法則を「プロプテル・ホック」(それのゆえに)ととらえた(全集⑳ 53
  ページ)

● 「現象の否定的な方面」(60ページ)は非本質的現象

 ・本質と「無関係的な、外的な形式」(同)

● 物質という「内容」とその存在形式、つまり「形式」とは、対立物の統一
 の関係にある

 ・運動のない物質がないのは、物質のない運動がないのと同じ

 ・形式に二通りあり ── 内容と結びついた形式と、内容に「無関係な、外
  的な」形式

 ・内容と形式との「相互転化」(同)は、「絶対的相関」(同)を示すもの


133節補遺 ── 物質と運動(存在形式)の一体性

● 内容も形式もいずれも本質的

 ・「形式を持たない質料が存在しないと同じように、形式を持たない内容も
  存在しない」(61ページ)

 ・質料も内容もともに自己のうちに形式を含むが、質料における形式は潜在
  的であるのに対し、内容は「完全な形式を自己のうちに含」(同)んでいる

 ・もっとも内容に「無関係な」(同)形式も存在する

 ・正しい形式は内容そのものであり、「正しい形式を欠く芸術作品」(62ペ
  ージ)は「真の芸術作品ではない」(同)


134節 ── 内容と形式から相関(本質的相関)へ

●「相関」とは同一な内容をもち形式上対立する2つの現存在の相互移行によ
 る内容・形式の同一性の定立の関係

 ・同一の内容が形式上「外的で対立した独立の現存在」(64ページ)

 ・形式上の独立性が「同一性の関係としても存在」(同)

 ・「異った2つのものは、こうした同一関係のうちでのみそれらがあるとこ
  ろのものである」(同)

 

5.「B 現象」「c 相関」

135節 ── 全体と部分の相関

● 全体と部分は「直接的な相関」(同)

 ・具体的な物は、全体という形式において物としての内容をもつ

 ・諸部分は、物としての内容をもたない形式

 ・全体という内容が実現されれば、部分という形式は消滅し、全体が部分に
  解消されると全体の内容は消滅する


135節補遺 ── 全体と部分は真実でない相関

● 相関は「本質的相関」(64ページ)

 ・現存在するものは「すべて相関」(同)

 ・この相関は「全く普遍的な現象の仕方」(同)として、「あらゆる現存在
  の真理」(同)

 ・本質における「直接性と媒介性の統一」の展開したものが相関

 ・相関は「自己への関係と他者への関係との統一」(64~65ページ)

● 全体と部分は真実でない相関

 ・相関の概念は、「他者があることによって自己があるという関係」

 ・全体と部分は、他者に移行して他者と同一になれば自己は消滅するという
  意味で「概念と実在とが一致していない」(65ページ)

● 反省的悟性は、全体と部分の相関で満足する

 ・しかし、反省的悟性は生命体のように「統体とモメント」としてとらえる
  べきカテゴリーをも「全体と部分」としてとらえる


136節 ── 力とその発現の相関

● 全体と部分のカテゴリーは「直接に否定的な自己関係」(66ページ)

 ・形式が内容に、内容が形式に移行して、内容と形式の同一性が定立される
  と、他者が消滅する「否定的な自己関係」

 ・これに対し、力とその発現においては、他者に移行し、他者との同一性が
  定立されて、も他者のうちに自己はとどまる

● 力とその発現

 ・力は発現することによってはじめて力、発現は力であることによってはじ
  めて発現

 ・全体と部分の相関は、物質の階層性の「無限進行」(67ページ)を示すも
  の

 ・これに対し、力とその発現は自己のうちに折り返される真無限

 ・力とその発現の真無限の運動は「また有限でもある」(同) ── 「外か
  らの誘発を必要とし、盲目的に作用する」(同)のであって、自己媒介に
  よる自己運動ではない

 ・内容と形式の真の同一は「概念や目的」(68ページ)

● 「力の本性は認識できない」か?

 ・発現のうちに力を認識しうる ── 形式的区別に気づかないだけ

 ・力の本性は認識できないともいえる ── 外からの力によって規定される
  ため、「内容の必然性も……連関の必然性も欠けているから」(同)


136節補遺1 ── 力とその発現の無限性と有限性

● 力とその発現の無限性

 ・全体と部分の相関と異なり、他者に移行しても消滅せず、内容と形式の同
  一性が定立されている

● 力とその発現の有限性

 ・「その存立のために自己以外のものを必要とする」(69ページ)

 ・「 運動の絶対的なはじまりが欠けている」(同)

 ・力の作用は盲目 ── 目的活動と異なる


136節補遺2 ── 力への還元主義批判

● 力の多様なものの統一としての法則

 ・しかし個々の力は多様であり、偶然的なものとして並存

 ・この諸力を「一つの原力」(70ページ)に還元することは「空虚な抽象
  物」(71ページ)

 ・力を根源的なものとみるのは「力の概念に矛盾する」 ── 力は「本質的
  に媒介された相関」であり、自己運動するものではない

 ・力による説明は、有限な力を究極的なものと考える誤りにもつながる


137節 ── 力とその発現の真理は内的なものと外的なもの

● 力とその発現の真理は、内容と形式の同一性の定立

 ・それが「内的なものと外的なもの」(73ページ)の相関