2009年12月2日 講義

 

 

第32講 第2部「本質論」⑧

 

1.「C 現実性」各論の主題と構成

● 現実性が展開すると必然性

 ・必然性に外的必然と内的必然

 ・内的必然は自己媒介による自己産出

 ・内的必然は絶対的相関という必然の法則

● 絶対的相関は実体論の展開

 ・実体性の相関 ── 実体と偶有の同一と区別の統一 ── 偶有は実体の「単
  なる可能性」(103ページ)

 ・因果性の相関 ── 原因と結果は内容上の同一と形式上の区別

 ・交互作用 ── 原因と結果は、内容と形式ともに同一に

● 絶対的相関から概念へ

 ・必然の法則には、対立物の相互移行とともに対立物の相互排斥による発展
  の法則がある

 ・発展とは、概念への発展

 ・こうして現実性は概念に、本質論は概念論に

 

2.「a 実体性の相関」

150節 ── 実体と偶有の同一性

● 絶対的な相関

 ・本質的相関から絶対的相関へ

 ・絶対的相関とは、実体が「自己を揚棄して絶対的な同一となる過程」(
  103ページ)

● 絶対的相関の「直接的な形態」(同)は、実体と偶有の相関

 ・ヘーゲルのエネルゲイアとしてのイデアを実体ととらえる ── 実体とは
  必然的に現実性を産出する普遍的なもの

 ・理性 ── 「理性が世界の魂」(〔上〕117ページ)「世界のうちには理性
  がある」

 ・その一例が類と個

● 実体と偶有の相関

 ・実体は「内面性の形式」(103ページ)を否定し、「自己を現実性として
  定立する」(同)

 ・偶有は実体の「外面性の否定」 ── 実体と同一であると同時に区別され
  るものとして「直接的な形態」(同)

 ・偶有は「単なる可能性」(同)として「他の現実へ移っていく」(同)


151節 ── 実体と偶有の絶対的相関

●実体は「絶対の力」(104ページ)

 ・実体は、偶有の全体を生みだす「絶対の力」

 ・実体は「あらゆる豊かな内容」(同)を顕示する

 ・豊かな内容をもつ偶有は「実体の力のうちで移り変わっていく」(同)実
  体の「形式の1モメント」

● 実体と偶有は、形式から内容へ、内容から形式への「絶対的な交互転化」
 (同)


151節補遺 ── スピノザの実体論批判

● スピノザの実体論

 ・スピノザの神は、実体というものの単なる必然性であり、有限な事物は
  「一時的なもの」(105ページ)

 ・唯一実体(神) ── 神の属性(思惟と拡がり) ── 神の様態(個物)

 ・無神論との批判 ── 神を唯一実体とするものであるからこの批判は当た
  らないが、客観世界の有限性を正当に認めず

 ・汎神論との批判 ── 汎神論は、客観的事物を神そのものとみるが、スピ
  ノザは「世界一般は全く真理を持たない」(104ページ)とするので、そ
  の批判も当たらない

● スピノザの実体論は形式、内容上の欠陥をもつ

 ・スピノザは、世界は「思惟と拡がり」(106ページ)をもつという前提に
  立って両者の統一を実体としてとらえるという「形式上の欠陥」(同)を
  もつ
 ・内容の展開も「最初の定義と公理」(同)を展開するという演繹的方法。
  最初の出発点が証明されていない「内容上の欠陥」(同)

 ・スピノザのように「弁証法的な媒介をせずいきなり実体を把握」(107ペ
  ージ)すれば、実体は「豊かな内容」をもつ偶有として自己を顕示するこ
  となく、「普遍的な否定力」(同)となってしまう


152節 ── 実体性の相関から因果性の相関へ

● 実体と偶有の相関では、内的なものと外的なものとが区別されている

 ・この区別に着目するとき、実体と偶有の相関は「本来の相関、すなわち因
  果性の相関」となる

 

3.「b 因果性の相関」

153節 ── 実体は原因、偶有は結果

● 実体は必然的に「現実を産出する」(108ページ)

 ・この側面に注目するとき、実体は原因、結果は偶有

 ・原因は「本源的な事柄」(同)であり、必然的に結果に移行して結果の内
  容となる

● 原因と結果の絶対的な同一性

 ・内容上の同一性 ── 原因の内容が結果の内容に

 ・形式上の同一性 ── 原因は結果をもつことで原因となる

● 真の原因は、内容・形式の同一性としての自己原因

 ・ヤコービは、神を形式上のみの自己原因とする


153節補遺 ── 因果法則の有限性

● 因果法則は必然性の「一側面」(110ページ)

 ・一般に必然性とは因果関係であると考えられている

 ・しかし、真の必然性は自己原因による自己産出

● 因果法則の有限性

 ・原因と結果とが「あくまで区別」(同)

 ・原因と結果の形式上の同一性も「同じ関係」(同)における同一性ではな
  い


154節 ── 因果性の相関から交互作用へ

● 交互作用において原因と結果は「同じ関係」において同一として定立され
 ている

 ・作用=反作用の関係

● 交互作用において、原因と結果は形式、内容ともの同一性

 ・しかし、交互作用においても、自己原因による自己産出という真の因果関
  係は定立されていない

 ・交互作用では、原因と結果という「2つのモメントの区別の交替」(112
  ページ)が行われるのみ

 

4.「c 交互作用」

交互作用から概念に

● 運動には、反復する運動と一回限りの運動とがある

 ・反復する運動の必然の法則が、対立物の相互移行の法則としての因果法
  則、交互作用

 ・1回限りの運動の必然の法則が、対立物の相互排斥の法則としての発展法
  則

 ・発展とは、「真にあるべき姿」(概念)に向かっての質的高度化

● 客観的論理学の最後は、概念をとらえる発展の法則

 ・しかしヘーゲルは、そこに革命性の哲学があるところから、それを明確な
  ものとして打ち出していない


155節 ── 交互作用における2つの規定は即自的な同一

● 交互作用における2つの規定は「即自的には同じもの」(同)

 ・どちらも能動的であると同時に受動的 ── 力の働く方向が逆になってい
  るのみ

 ・「即自的にはただ1つの原因」(同)が存在するのみ


156節 ── 2つの規定は対自的にも同一

● 2つの規定は「対自的」(113ページ)にも同一

 ・原因と結果の「交替の全体」(同)は、「原因自身の措定作用」(同)か
  ら生じる同一性

 ・交互作用そのものが「措定された2つの規定」(同)を「反対の規定へ逆
  転させる」(同)

156節補遺 ── 交互作用の真理は概念

● 交互作用は「完全に展開された因果関係」(同)

 ・交互作用は「原因と結果の関係の最も近接した真理」(114ページ)とし
  て「概念の入り口に立っている」(同)が、まだ概念ではない

 ・交互作用は自己原因による自己産出という「概念の入り口」に立っている

● 交互作用の不十分さは、対立物における「第3のモメント」(概念)を認
 識しないことにある

 ・客観的事物は、現にある姿から「真にあるべき姿」に発展させられなけれ
  ばならない

 ・それが対立物の闘争による矛盾の止揚としての発展

 ・発展とは、概念に向かって質的に高度化、複雑化していく過程

 ・必然性の「最後的な満足」は、客観的事物をイデアとしての概念に発展さ
  せることにある


157節 ── 必然性の紐帯は概念

● 交互作用における原因の「自己交替」は、真の原因は「より高い第3のモ
 メント」にあることを推測させるもの

 ・「必然性そのものの紐帯は、まだ内的で隠れた同一性」(115ページ)

 ・交互作用とは、第3のモメントによって「定立された必然性」

 ・この第3のモメントが概念

● 実体は「因果性と交互作用とを通過」(同)して「無限の否定的自己関係
 」(同)を定立する

 ・実体はその展開をつうじて、真の原因は概念にあり、概念の否定として諸
  規定の必然性が定立されることを明らかに

 ・「ヌースあるいは精神が世界の原因」(㊤ 74ページ)


158節 ── 実体の真理は概念

●「必然の真理は自由、実体の真理は概念」(同)

 ・客観世界は「必然」の世界であり、「実体」が担う物質世界

 ・客観世界、物質世界の真理は、概念をかかげて客観世界を「真にあるべき
  姿」(概念)に発展させることにある ── それは概念を自由な意志でと
  らえることにはじまる

 ・概念は反発して「独立物」(同)となりながらも「あくまで自分自身のも
  とにとどまる」(同)

 ・現実性は、概念と一致してこそ真理となる ── 理想と現実の統一

158節補遺 ── 自由と必然

●「必然は冷酷である」(同)

 ・必然は他のものを襲い、滅亡させる冷酷なもの

 ・必然のもとにおける自由は、「抽象的な自由」(必然的自由)であり、
  「諦めることによってのみ、救われる」(116ページ)自由

 ・真の自由は必然性の「硬い外面を克服」(同)し、それを真にあるべき姿
  という「一つの全体の諸モメント」(同)にかえる

● 必然との関係における自由

 ・否定的自由 ── 形式的自由 ── 必然的自由 ── 概念的自由

 ・真の自由は必然を「揚棄されたものとして自己のうちに含んでいる」(
  同)

 ・真の自由は「絶対的理念の規定」されている自由=概念的自由


159節 ── 概念は二つの意味で有および本質の真理

● 概念は二つの意味で客観世界の真理

 ・客観世界は発展して概念となる

 ・概念は、概念にもとづき客観世界を変革する

 ・有から概念への進展は、有の発展による「有の内部」(117ページ)の開
  示

 ・概念から有への移行は「より完全なものの出現」(同)

● 必然から自由へ、現実から概念への移りゆきは「最も困難なもの」(118
 ページ)

 ・現実性も、概念も自立したものと考えられているから

 ・「必然を思惟する」(119ページ)ことによって現実性と概念は統一され
  ている

 ・これが「自我」(同)または「自由な精神」(同)

 ・「概念そのものは必然の力と真の自由を実現する」(同)


159節補遺 ── なぜ概念からはじめないのか

● 真理は到達点であって出発点ではない

 ・有からはじめ、一歩ずつ真理に向かって前進し、本質を経て概念に至る

 ・真理は「確証されたものでなければならない」(120ページ)

 

5.弁証法は真理認識の唯一の思惟形式

● 弁証法は真理認識の唯一の方法

 ・弁証法を「一般的な運動と発展法則にかんする科学」というのでは狭すぎ
  る

 ・弁証法は、運動も静止も、表面も内奥も、現にあるものもあるべきもの
  も、すべてのものについての真理を認識する

● 運動をとらえる基本形式は、対立物の相互排斥(矛盾)

 ・「運動そのものが一つの矛盾」(エンゲルス)

 ・位置の運動 ── 「ここにあってここにない」、生命体の運動 ── 同化と
  異化の統一

 ・運動には、矛盾の揚棄としての発展という運動も ── 種における胚と胚
  乳、階級社会における階級闘争

● ヘーゲルは論理学を「萌芽からの発展」の体系として展開

 ・1つのカテゴリーから次のカテゴリーへの移行が「揚棄された矛盾」(
  ㊤ 278ページ)としてとらえられている

 ・マルクスは、ヘーゲルの揚棄は「思惟的揚棄」(全集㊵ 505ページ)にと
  どまり、現実は「そのままにしておく」(同)と批判

 ・そういう側面もあるが、「本質論」の最後で現実そのものの発展をも概念
  との関係で論じている

 ・それを受けて概念論で、主観と客観の対立物の闘争による理想と現実の統
  一を論じている

 ・それが明確にされていないのは当時の検閲事情による