2010年1月20日 講義

 

 

第35講 第3部「概念論」③

 

1.「A 主観的概念」「b 判断」各論(2)

「ニ 概念の判断」

178節 ── 実然的判断

● 概念の判断は、真にあるべき姿(概念)に一致するか否かの判断

 ・概念の判断の内容をなすのは概念

 ・正しいか否か、善いか悪いか、などの価値判断

● 実然的判断

 ・主語がその概念に一致するか否かを「断定」(実然)する判断

 ・価値判断である概念の判断こそ「本当の判断」(153ページ)

● ヘーゲルは「価値論」を正面から議論せず

 ・しかし概念こそ価値あるものと考え、事実と価値の統一という一元論のた
  った

 ・ウェーバーは、史的唯物論は1つの価値観にすぎず、科学ではないとし
  て、事実と価値を峻別する二元論に

 ・ヘーゲルの概念の判断は、ウェーバーへの批判となっている


179節 ── 蓋然的判断、確然的判断

● 蓋然的判断

 ・実然的判断には「反対の断言」(156ページ)が「同等の権利(同)をも
  つ

 ・よって実然的判断は蓋然的判断(疑わしい判断)に

 ・しかし、蓋然的判断は、概念との一致、不一致を明確にしないところか
  ら、確然的判断に進展する

● 確然的判断

 ・「この家は、土台がしっかりしているから、よい家である」

 ・ 主語の特殊性が性状として示され、これが根拠となって概念との一致、不
  一致の判断がなされる

 ・すべての事物は、普遍と特殊の統一としての個であり、特殊が普遍(概
  念)にしたがわないとき、事物は有限となる


180節 ── 判断から推理へ

● 確然的判断において、主語も述語も「各々それ自身全き判断」(157ペー
 ジ)

 ・主語も述語も、主語の特殊性(性状)に媒介されて、概念に関係する判断
  となっている

 ・「である」という「空虚な繋辞」(同)は、概念のモメントである特殊と
  して「充実」(同)したものとなっている

● 概念の諸モメントは、主語(個)、繋辞(特殊)、述語(普遍)として、
 区別されながらも統一している

 ・この個 ── 特 ── 普の結合という形式が推理をなす

 

2.「A 主観的概念」「c 推理」の主題と構成

● 推理とは、大前提、小前提、結論という3つの判断の結合により、既知の
 判断から未知の判断を推理する思惟形式

 ・ヘーゲルは、伝統的形式論理学と異なり、判断において分裂した概念の諸
  モメントが概念の統一へ復帰することにより真理を推理する形式ととらえ
  る

 ・推理は統体性として定立された概念として、「あらゆる真実なものの本質
  的根拠」(158ページ)

 ・絶対者は推理である ── 絶対的真理はあらゆる事物のうちにある推理で
  ある

 ・推理には、悟性的推理と理性的推理とがある

 ・推理には3つの格があり、3つの格の統一としての「3重の推理」は「あ
  らゆる理性的なもの」(168ページ)の形式

● 推理の構成

 ・総論では、理性的推理が無限の真理をとらえる形式であることが明らかに

 ・各論は有論、本質論に対応して「イ 質的推理」「ロ 反省の推理「ハ 必然
  の推理」に分れる ── 後2者は理性的推理

 ・反省の推理で、演繹、帰納、類推が論じられる ── 帰納、類推には論理
  の飛躍があるが、反面新しい論理を発見しうる推理に

 ・ヘーゲルの推理には「概念の推理」が欠落しているが、補充されるべき

 ・3重の推理により、推理(主観的概念としての)の形式そのものが揚棄さ
  れ、主観的概念の客観化である「B 客観」に移行

 

3.「A 主観的概念」「c 推理」総論

181節 ── 推理は理性的なもの

● 推理は「概念と判断との統一」(157ページ)

 ・概念の統一へ復帰したものとしては概念、概念の諸モメントが大前提、小
  前提、結論という諸規定に定立されているかぎりでは判断

●「理性的なものは推理」(158ページ)

 ・すべての事物は普遍と特殊の統一としての個であり、つまり理性的なもの

 ・推理は定立された概念として、理性的なもの

 ・推理は理性的なものとして「あらゆる真実なもの」(同)をとらえる「本
  質的な根拠」(同)

● 絶対者は推理である

 ・絶対的真理はあらゆる事物のうちにある推理の形式にある

 ・すべてのものは、普遍 ── 特殊 ── 個の結合した推理

 ・推理は、分離している概念の諸モメントを媒介して「現実的なもの」(
  159ページ)を定立する「円運動」(同)


181節補遺 ── 確然的判断が判断を推理に

● 判断から推理への進展をなすのは確然判断

 ・判断自身が自己を進展させて推理を定立し、概念の統一へ帰る

 ・確然判断において個は、特殊な性状をつうじて普遍(概念)と関係する

 ・推理の根本形式は個 ── 特 ── 普

 ・推理が進展すると、主観的概念は客観に移行する


182節 ── 悟性推理と理性推理

● 直接的推理は、3つの項が「相互に単なる外的関係」(159ページ)のう
 ちに

 ・これが概念を欠いた悟性推理(3段論法)

 ・「主語は自分とは別な一つの規定性と結合」(160ページ)

 ・悟性推理は「事物の有限性をのみ表現」(同)

● 理性的推理は「主語が媒介を通じて自己を自分自身と結合する」(同)


182節補遺 ── 推理は直ちに理性的なものではない

● 概念を悟性規定、推理を理性規定とみるのは誤り

 ・抽象的概念(必然に対立する自由)は悟性規定だが、具体的普遍としての
  概念(必然を揚棄した自由)は理性規定

 ・推理も、形式論理学の3段論法は「単なる悟性推理」、概念の諸モメント
  の展開としての推理は理性推理

 

4.「A 主観的概念」「c 推理」各論(1)

「イ 質的推理」

183節 ── 定有の推理(質的推理)

● 定有の推理の第1格

 ・「このばらは赤い、赤は色である、ゆえにこのばらは色を持つ」

 ・個(主語) ── 特殊(1つの質) ── 普遍(普遍的規定性)

 ・大前提 ── 小前提 ── 結論

 ・小概念(ばら) ── 媒概念(赤い) ── 大概念(色)

● 定有の推理は形式のみの推理


183節補遺 ── 定有の推理は悟性推理

● 定有の推理では、個、特、普が「互に全く抽象的に対峙」(162ページ)
 するのみ

 ・形式論理学の3段論法が定有の推理 ── 新しいものを発見するうえでは
  何の役にも立たない「机上の空論」(同)にすぎない

 ・悟性推理は理性推理に移行しなければならない

● アリストテレスは理性的「推理の形式および格」(同)をはじめて考察


184節 ── 定有の推理は要素からして偶然的

● 定有の推理の個、特、普は偶然的に結合するのみ

 ・中間項は「主語の何か1つの規定性」(164ページ)にすぎない

 ・主語はいくつもの規定性をもつから「多くの異った普遍に関係」(同)
  する→「真理にとって価値のないもの」(同)

● 都合のいい媒概念を見出しさえすれば、何でも証明しうる


184節補遺 ── 定有の推理の有限性

● 弁護士や外交官は、定有の推理の有限性を利用する

 ・どちらも、都合のいい媒概念を持ちだして、自己に都合のいい結論を推理
  する


185節 ── 定有の推理は形式の点でも偶然的

● 推理の「本当の姿」(165ページ)は、概念の区別された諸モメントが、
 媒概念によって概念の統一を回復するところにある

● しかし定有の推理では、大前提と小前提と両者に共通の媒概念とは、単に
 「直接的な関係」にすぎない

 ・大前提、小前提は推理によって証明されねばならない→推理の無限進行に


186節 ── 推理第1格から第2格に

● 第1格の形式上の偶然性という欠陥は除去されなければならない

 ・そのためには結論のうちに定立されている「対立的な規定性」(166ペー
  ジ)を取り上げさえすればいい

 ・「個 ── 特 ── 普」の結論は「個は普遍である」というもの

● この普遍を主語とし、普遍に媒介される個を媒介者として、「普 ── 個
 ── 特」の推理に ── これが第2格

 ・第2格は「第1格の真理」(同)をあらわす


187節 ── 第2格から第3格へ、第3格から第1格へ

● 第2格の結論は「普遍は特殊である」

 ・この特殊を主語とし、特殊に媒介される普遍を媒介者として「特 ── 普
  ── 個」の推理(第3格)に

● 第1、2、3格をつうじて、普、特、個のすべてが証明済みとなり、第1
 格の欠陥が克服される

 ・第3格の進展は「個 ── 特 ── 普」となり第1格に復帰する

● アリストテレスは、この3つの「推理の格」を指摘

 ・3つの格は「推理のモメントの各々が、概念の規定として、それ自身全体
  的なものおよび媒介する概念となるという必然性にもとづいている」(
  167ページ)

 ・彼が用いたのは「悟性的推理」(168ページ)ではなく「常に思考的な概
  念」(同)


187節補遺 ── 3重の推理

● 推理の3つの格の意味は、「あらゆる理性的なものが3重の推理としてし
 めされるということ」(同)を示すもの

 ・『エンチクロペディー』の論理学、自然哲学、精神哲学も3重の推理

 ・エンゲルスのヘーゲルを観念論とする批判の一面性

 ・理想と現実の統一も3重の推理


188節 ── 推理の第4格としての量的推理(数学的推理)

● 3重の推理で、3つのモメントの「相等性」(169ページ)が定立される

 ・それが第4格

 ・「AはCに等しい、BもCに等しい、ゆえにAとBは等しい」

 ・第4格は、量的推理(数学的推理)


188節補遺 ── 量的推理は没概念的形式

● 量的推理は公理であり、証明不要とされている

 ・しかし、それは質的推理(3段論法)の「最初の結果にすぎない」(同)

● 量的推理は没概念的形式の推理

 ・ここには、質的推理と同様「概念において規定された区別」(170ペー
  ジ)が存在しない


189節 ── 質的推理から反省の推理へ

● 3重の推理により、3つのモメントの抽象性が失われ、質的推理は揚棄
 される

 ・3重の推理をつうじて3つのモメントはいずれも証明されたものとなり、
  「互に前提しあう媒介からなる円」(同)として構成

● かくて「概念の媒介的統一」が実現されたからには、概念の普遍性は特殊
 を媒介に個として定立されねばならない→これが反省的推理