2010年2月3日 講義

 

 

第36講 第3部「概念論」④

 

1.1.「A 主観的概念」「c 推理」各論(2)

「ロ反省の推理」

190節 ── 反省の推理は、普遍から個を、個から普遍を
       推理する

● 反省の推理は、中間項の特殊が普遍と個を媒介する理性的推理

 ・反省の推理は概念をうちにもち、全称推理(演繹推理)、帰納(帰納推
  理)、類推の3種に分かれる

 ・推理の中心的カテゴリー

● 全称推理

 ・「すべての人間は死すべきもの、カイウスは人間である、ゆえにカイウス
  は死すべきもの」 ── 普遍から個を推理

 ・中間項は「主語の多くの規定性の1つ」(171ページ)としての特殊

 ・主語の普遍は、中間項の特殊を内に含むことで、結論の個を推理する

 ・大前提は、結論を「前提としている」本末転倒の推理

● 帰納推理

 ・この欠陥を補うのが帰納推理。「個別的なものの全体」(同)から普遍を
  推理

 ・「人間aが死んだ、人間b、c、d、eも死んだ、ゆえに人間は死すべき
  もの」

 ・エンゲルス「帰納推理は本質的に蓋然的推理」(全集⑳ 535ページ)

 ・「直接的な経験的個別性」(171ページ)と「普遍性」とは別のもの ──
  論理の飛躍あり

● 類推

 ・帰納の欠陥から類推に

 ・「a、b、c、dが死んだ、彼らはいずれも人間である、ゆえにすべての
  人間は死ぬ」

 ・ 媒介項は帰納と同様の個だが「本質的な普遍性、類」を共通にもっている
  ところから、その類的同一性に着眼して普遍を推理

 ・ a、b、c、dが死んでも、e、fが死ぬとは限らない

● 演繹、帰納、類推のいずれも完全ではありえないのであり、相互に補完し
 あってはじめて正しい結論に接近しうる

 ・第1、第2、第3の推理をつうじて「個と普遍との外面的な関係」を克服
  し「類としての個」を推理する「必然性の推理」に移行する


190節補遺 ── 演繹、帰納、類推の相互補完性

● 全称推理の欠陥は帰納推理に導く

● 帰納推理は、個を媒介に普遍を推理する推理の第2格

 ・しかし「けっして個も余すところなく汲みつくすことはできない」(173
  ページ)

● 帰納の欠陥が類推に導く

 ・類推では同様に個を媒介に普遍を推理するが「一定の類に属する」共通な
  性質をつうじて類的同一性を推理

 ・ヤコービの「直観」に相当する ── 類推は「理性の本能」(同)

 ・類推には「皮相なものと深いもの」(174ページ)がある ── 前者は「無
  意味な遊戯」(同)にすぎない

● 帰納、類推における論理の飛躍は、反面からすると新理論の発見に


「ハ 必然性の推理」

191節 ── 必然性の推理は、類と種、個の関係を推理する

● 必然性の推理は普遍を媒介項とする第3格

 ・媒介項の普遍は類。類からその類に属する個を推理

● 定言的推理

 ・「両生類は脊椎動物、カエルは両生類、ゆえにカエルは脊椎動物」

● 特殊は「特定の類あるいは種」(175ページ)として媒介規定

● 仮言的推理

 ・「もし両生類ならば脊椎がある、カエルには脊椎がある、ゆえにカエルは
  両生類である」

 ・カエル(個)は、大前提(両生類)に媒介されると同時に結論(両生類)
  に媒介する

● 選言的推理

 ・「両生類は、イモリかカエルかサンショウウオである、これはイモリでも
  サンショウウオでもない、ゆえにこれはカエルである」

 ・「媒介の働きをする普遍」(175ページ)が「特殊化の総体」(同)「個
  々の特殊」(同)「排他的な個」(同)として規定されている

 ・3つの項のいずれにも「形式をのみ異にして同一の普遍が存在」(同)


「概念の推理」

● 概念の推理は示されていない

 ・しかし確然的判断はもはや「推理」(156ページ)

 ・「社会主義とは国民が主人公、旧ソ連では国民が主人公ではなかった、ゆ
  え旧ソ連は社会主義ではない」

 ・概念の推理も価値に関する推理として最高の推理


192節 ── 主観的概念は自己を揚棄して客観となる

● 推理の「経過」(175ページ)のなかで、それが含んでいる「諸区別およ
 び概念の自己外有が揚棄される」(同)

 ・3つの格による両端項と中間項の区別の揚棄

 ・選言的推理における「概念の自己外有」、つまり個、特、普の概念のモメ
  ントの揚棄による概念の統体性に

● こうして概念の統一が回復

 ・推理の経過のうちで、推理は概念の諸モメントを揚棄することで、主観的
  概念を揚棄し、概念は自ら客観に移行する

 

2.主観的概念から客観への移行

192節補遺 ── 主観と客観の二元論批判

● 主観と客観の二元論は「真理ではない」(176ページ)

 ・「主観も客観も明かに思想」(同) ── 思惟にもとづいているものとし
  て示さねばならない

 ・これまで「有および本質の弁証法的成果」(同)として概念が示され、概
  念が客観に移行することをつうじて概念は「主観性すなわち主観的概念」
  (同)であることを明らかに

 ・主観性そのものが「自己の制限をうち破り、推理をつうじて客観性への道
  をひらく」(177ページ)


193節 ── 概念はエネルゲイアとしてのイデア

● 概念の「直接的な統一」(177ページ)の実現が客観

 ・客観世界の統体性は概念の統体性の実現のあらわれ

 ・客観は、概念に媒介されながら、媒介を揚棄した「直接的な統一」

● 推理から客観への移行と客観の表象とは一致する

 ・客観の「完全性」(178ページ)→概念の統体性のあらわれ

 ・客観は主観に対立

 ・客観世界の統体性と、個々の客観の統体性→概念の統体性と概念の諸モメ
  ントの統体性


概念から客観への移行は一面性の揚棄による真理の定立

● 概念から客観への「移行の意義」(179ページ)は、概念の規定性が本来
 の規定性とは「ちがった形態へ移っていく」(同)のをみることにある

 ・客観は「その特有の形式を失っている概念」(同)

 ・概念そのものは、自己のもつ一面性を揚棄し、「それに対立している一面
  性」(180ページ)としての客観への移行で自己を揚棄する

 ・概念は、即自的な抽象物から顕在的に具体的なものへ移行する

 ・概念と客観とは「即自的」(本来的)同一性ではない ── アンセルムス
  の神の証明は、神の表象と神の存在の即自的同一を主張するもの

● 存在を含まない単に主観的なものも、概念に一致しない客観も、いずれも
 有限な事物であり、有限な事物は、その一面性を揚棄することで無限の真
 理となる