2010年2月17日 講義

 

 

第37講 第3部「概念論」⑤

 

1.「B 客観」の主題と構成

●「B 客観」では主として真にあるべき姿としての概念が取扱われる

●「B 客観」と客観的論理学

 ・有論、本質論は客観的論理学、概念論は主観的論理学

 ・概念(主観的概念)は、客観的事物のうちに潜む真にあるべき姿を顕在化
  させて認識のうちにとらえたもの

 ・「B 客観」は主観的概念が客観に移行した、概念をうちに含む客観を考察
  しようとしたもの

●「B 客観」の構成

 ・総論(194節)、各論としての機械的関係、化学的関係、目的的関係

 ・総論では、客観は概念のあらわれとして独立と非独立の統一であり、また
  主観と客観の統一であることが明らかに

 ・機械的関係、化学的関係、目的的関係と進展するにつれ、客観のうちの概
  念が顕在化してくる

 ・目的的関係で概念(主観)と客観は一致して「C 理念」に移行する

 

2.「B 客観」総論

194節 ── 客観は多様なものの独立と非独立との絶対的矛盾

● 概念のあらわれとしての客観は、概念の統体性をもつ「直接的な存在」(
 同)

● 客観は独立と非独立の絶対的矛盾

 ・客観は概念として「自己のうちで統体をなしている」(同)と同時に区別
  を持つ

 ・諸区別は、個々の客観として「それ自身統体」(同)

 ・客観は多様なものの「完全な独立」(同)と「完全な非独立との絶対的な
  矛盾」(同) ── 直接性と媒介性の統一の展開

●「絶対者は客観である」(同)

 ・絶対的真理は、完全な独立と非独立の矛盾のうちにある客観にある

 ・ライプニッツのモナド論は、「完全に展開された矛盾」(184ページ)


194節補遺1 ── 真理は主観と客観の弁証法的統一のうちに
          ある

● 真理は主観と客観の統一

 ・神(絶対的な客観)は「主観性を本質的なモメントとして自己のうちに含
  んでいる」(184ページ)

 ・神を客観としてのみとらえることは「迷信と奴隷的恐怖の立場」(同)

 ・キリスト教の神は「人間が救われ、人間が幸福になる」(同)ことによる
  「人間と神との統一」(同)を求める

●「科学および哲学の任務」(185ページ)は「主観と客観との対立を克服す
 る」(同)ことにある

 ・認識の目的は、客観を「われわれの最も内的な自己である概念へ還元」(
  同)して、客観に一致する主観を定立することにある

● 主観と客観との弁証法的な統一

 ・主観的概念は、自己を客観化

 ・他方客観は、自己を「主観的なもの」(同)、つまり概念として示す


194節補遺2 ── 「客観」の構成

● 概念に媒介されることによって、客観は、独立と非独立、統一と区別の「
 絶対的矛盾」

 ・機械的関係 ── 「即自的な概念」(186ページ)として「直接的で無差別
  の客観」(185,186ページ)であり、無関係な区別が外的に結合するのみ

 ・化学的関係 ── 概念の統体性が分裂して生じた区別をもち、「客観は本
  質的に区別」(186ページ)されながら、統一を求めている

 ・目的的関係 ── 概念を「自己のうちへとじこめ」(同)ている、区別を
  もった統体。「目的の実現が理念への移行」(同)をなす

 ・エンゲルス ── この3区分は「その時代にとっては完全だった」(全集
  ⑳ 557ページ)

 

3.「B 客観」「a 機械的関係」

195節 ── 形式的な機械的な関係は概念を自己の外にもつ

● 機械的関係は「即自的な概念」

● 形式的な機械的関係は、概念を「自己の外」(同)にもつ

 ・「すべての規定性は、外的に措定された規定性」(同)

 ・「区別されたものの統一としては、寄せ集められたもの」(同)

 ・「他のものへのその作用は、外的な関係」(同)

● 機械的関係は、客観の普遍的関係

 ・物質相互の関係のみならず、客観的精神(精神活動の産物)相互の関係に
  も妥当する

 ・言葉 ── 意味不明のまま外国語を暗記するのは機械的関係

 ・神を敬うのも「かれ自身の精神と意志」(187ページ)にもとづくもので
  なければ機械的な関係


195節補遺 ── 機械的関係は普遍的カテゴリー

● 機械的関係は「客観性の最初の形態」(同)

 ・「皮相で浅薄な考察方法」(同)であり、精神はもとより自然にかんして
  も不十分なカテゴリー

 ・にもかかわらず、精神の世界においても「機械的な見方が不当に勢力を持
  っている」(188ページ)

● 他方で機械的関係は「普遍的な論理的カテゴリー」(同)

 ・力学・領域外にも妥当するが、但し「従属的な位置」(同)

 ・「有機的な諸機能」(同)が故障すると従属的な機械的関係が「支配的な
  ものとして頭をもたげてくる」(189ページ)

 ・「機械的な記憶」(同) ── 「一定の記号や音が、単に外的な結合にお
  いてのみ、理解され」(同)る


196節 ── 親和的な機械的関係は即自的な概念

● 親和的な機械的関係は「即自的な概念」(190ページ)として独立(統一
 )しながら、非独立性(区別)をもっている

 ・区別された客観は、相互に自己のうちに「中心性」(同)をもち、相互に
  引き合って「否定的統一」(同)を実現しようとする

 ・引力という中心性による「落下」(同)。異性への愛が中心性となる「欲
  求、社交本能」(同)


197節 ── 絶対的機械的関係は即自的概念の完全な展開

● 絶対的機械的関係は「1つの推理を形成する」(同)

 ・非独立な客観(月) ── 相対的中心(地球) ── 絶対的中心(太陽)個
  ── 特 ── 普の推理

 ・ここにおいて、即自的概念としての機械的関係は、概念の諸モメントの結
  合としての推理として、完全に展開されたものとなる


198節 ── 絶対的機械的関係は3重の推理

● 月 ── 地球 ── 太陽は3重の推理

 ・ヘーゲルは地球のみならず、月も太陽も中間項になるとしているが、今日
  からみれば、無理な論理づけ

● 国家、市民社会、個人も3重の推理

 ・この3重の推理は、人民が主人公の社会主義国家として納得のいくものと
  なっている

 ・この3者の関係を論じたものが『法の哲学』

 ・資本主義社会は、市民社会が「絶対的中心」として、国家、個人を従属さ
  せる社会であり、その批判のうえに『法の哲学』


199節 ── 機械的関係から化学的関係へ

● 絶対的機械的関係において客観の直接性は「即自的に否定されている」
 (192ページ)

 ・「自己の固有の他者にたいして吸引的なもの」(同)として定立されてい
  る客観相互の関係が化学的関係

 

4.「B 客観」「b 化学的関係」

200節 ── 化学的関係は概念の統体性を実現しようとする区別

● 化学的関係は概念を内にもつ

 ・化学的関係は「概念の統体性」(193ページ)を内にもつものとして「親
  和的な客観」(同)

 ・化学的関係は概念の統体性と区別との矛盾であり、「この矛盾を揚棄し、
  そしてその定有を概念に等しくしようと努める」(同)


200節補遺 ── 化学的関係と機械的関係の同一と区別

● 化学的関係と機械的関係の同一

 ・両者はいずれも「潜在的にみ現存在する概念」(同)として「顕在的に現
  存在する概念」である目的的関係に対立している

● 化学的関係と機械的関係の区別

 ・機械的関係は相互に「外的な関係」(同)

 ・化学的関係は「相補って1つの全体となろうとする絶対的な衝動」(194
  ページ)をもつ


201節 ── 化学的過程の産物は中和的なもの

● 化学的関係のうちにある2つの客観は「親和性」(同)を通じて概念の統
 体性を実現する

 ・その過程は「2つの端項の中和したもの」(同)

 ・概念(普遍)、親和性(特殊)、産物(個)の3重の推理


202節 ── 化学的関係では中和と分離が相互に外的

● 化学的関係は「客観性の反省的関係」(同)

 ・化学的関係では中和と分離という「2つの形態の間をいったりきたり」(
  同)するが、「2つの形態はあくまで相互に外的」(同)

 ・分離の過程は「第1の過程とは無関係」(195ページ)

 ・この外的関係が、化学的関係の有限性をなす


202節補遺 ── 化学的関係の有限性は概念の潜在性に由来

● 化学的関係の有限性

 ・概念は、「顕在的に現存する」(同)に至っていない

 ・概念は、無限に統一と区別の間を「交替運動をする自立性」(115ペー
  ジ)であるが、化学的関係ではこの交替運動が顕在化せず


203節 ── 化学的関係から目的的関係へ

● 化学的関係は、区別された客観が「空無なものであることを表現」(同)

 ・概念の同一と区別の交替運動が顕在化したものが目的的関係

 ・目的的関係において、概念は「自由かつ独立なもの、すなわち目的として
  定立されている」(190ページ)


203節補遺 ── 目的的関係は概念の顕在化

● 目的的関係において概念は「独立的に現存する」(同)

 ・概念は、化学的、機械的関係では「即自的にのみ存在」(同)しているの
  に対し、目的的関係では概念は「目的」(同)として「自由に」(同)な
  っている

 

5.「B 客観」「c 目的的関係」

204節 ── 目的とは自由な現存在としての概念

● 目的とは客観の外にとびだした「自由な現存在」(同)としての概念

 ・目的は「自由な現存在にはいった、向自的に存在する概念」(同)

● 目的は「主観的なもの」(同)として客観性に対立している

 ・目的は「概念の統体性とくらべると一面的」(同)

 ・目的は、客観との「対立を否定」(197ページ)して、客観を「自己と同
  一なもの」(同)に作りかえる活動 ── これが「目的の実現」(同)

 ・目的の実現により、目的は客観のうちに「自己を保存」(同)

 ・作用原因は他者への移行のうちで「その本源性を失う」(同)が、目的原
  因はその作用のうちで「自己を保持する」(同) ── 目的は「終わりに
  おいて……本来の姿を保っている」(同)

 ・目的は概念そのものとして、主観と客観の対立を含みながらその対立を揚
  棄する

● 内的目的と外的目的

 ・外的目的とは、生命体の「意識のうちに存在する形式」

 ・カントは、「内的な目的性」(同)により「生命という理念を再びよびさ
  ました」(同) ── 機械的自然観から再び目的論を復活させた

 ・「欲求、衝動」は目的の「最も手近な例」 ── 主観的にすぎない目的と
  客観との矛盾のあらわれであり、矛盾を解決しようとして「活動へ移って
  いく」(同)

 ・衝動とは、単に主観的なものは真理ではないという「確信の遂行」(199
  ページ)による、客観との対立の揚棄

● 目的活動は、目的が手段を媒介に客観をつくりかえるという推理

 ・目的活動において、主観としての目的、手段、前提された客観の「3つの
  項の否定が見出される」(同)

 ・この否定は、主観と客観の一面性の否定による真理の実現という高揚