2010年3月3日 講義
第38講 第3部「概念論」⑥
1.「B 客観」「c 目的的関係」(2)
205節 ── 外的目的の有限性
● 外的目的は、目的関係の最初の形態
・ここでは、内的目的と異なり概念は変革の対象としての「客観に対峙」
(199ページ)
● 外的目的の目的は有限 ── 内容(真にあるべき姿)からしても、実現の
素材としての客観が外的であることからしても
205節補遺 ── 外的目的の対象となる客観は効用の見地から
とらえてはならない
● 外的目的からすると、対象となる客観は「それ自身のうちに自己の規定を
持」(200ページ)つのではなく、単に目的により「使用され消費される
手段」(同)と考えられている
・しかし、これは「効用の見地」(同)
・有限な目的であっても事物の本性にそって働きかけて、はじめて事物をそ
の真にあるべき姿に変革しうる
・有限な事物の否定性は「有限な事物自身の弁証法」(同)
・目的論的考察方法は、事物の概念を示そうとする「正しい意図」(同)を
もっているが、事物を手段としてその目的を探し出すとの考えは、「貧弱
な反省」(201ページ)としての「効用の見地」
● 外的な目的は「理念のすぐ前に立っている」(同)が、その概念は真にあ
るべき姿ではないから「最も不十分なもの」(同)
206節 ── 目的的関係は、主観的目的 ── 中間項 ── 外的な
客観を連結する推理
● 主観的目的が中間項を通じて客観と連結する推理
・中間項には「合目的活動」(同)と「手段」(同)とがある
・合目的活動は、主観と客観を連結させようとする活動
・手段は、目的実現のために作られた客観(道具、機械)
● 207節以下は、この推理の形式の詳しい説明をしたもの
206節補遺 ── 目的から理念への発展の3つの段階
●「目的から理念への発展」(同)には、①主観的目的、②実現の過程にあ
る目的、③実現された目的の3つの段階あり
・主観的目的は「向自的に存在する概念」(同)として具体的普遍
・すなわち①主観的目的として「自己同一な普遍性」②実現の過程にある目
的として「普遍者の特殊化」③実現された目的として客観としての個
・ドイツ語の「決心する」には、主観と客観を「連結する」という意味があ
る
207節 ── 主観的目的は外に向かう
● 主観的目的は、普遍的な概念が特殊を通じて個と連結する推理
・目的的関係は「個は普遍と特殊の統一である」「個は主観と客観の統一で
ある」という個の「原始分割」(202ページ)と同様の関係
・すなわち、目的的関係は、普遍を特殊化した個という推理であると同時に
主観と客観の対立を定立しながら統一を実現して自己へ復帰する
・主観的目的(主観)は、自己を不十分なものとして外へ向かい、客観との
同一性を定立して個となる
208節 ── 目的的活動は手段を作り出す
● 目的的活動は、客観を目的の手段にかえる
・概念は直接的な威力 ── 目的は直接的に客観を支配して自己と同一なも
のに変革する
・媒介項は「活動」(203ページ)と「手段として役立つ客観」(同)の2
つ
・目的 ── 活動 ── 手段という推理は、目的実現の推理の「第1前提」
(同)
・この第1前提は目的実現の推理の「媒介項」(同)となる
208節補遺 ── 目的実現のためには手段が必要
● 目的実現のためには、目的の「直接的な実現」(204ページ)としての手
段が必要
・人間はその目的実現のために、まず自己の肉体を「魂の道具」(同)とし
て「占有しなければならない」(同)
209節 ── 目的は客観相互の作用の外にあって客観を支配する
● 目的は手段を媒介に前提された客観(素材)と直接的に関係
・目的が手段(客観)を使って素材(客観)と結合することは、手段と素材
を目的より下位の機械的、化学的関係として関係させること
・目的は、客観相互の作用の過程の外にあって自己を保持(理性の狡智)
209節補遺 ── 目的は「理性の狡智」
● 理性の狡智は、自分は過程の外にあり客観を相互に作用させながら「自分
の目的をのみ実現するという、媒介的活動にある」(205ページ)
・『資本論』に引用
・神も人々を好きなようにさせながら、神の意図を実現
210節 ── 目的の実現は主客の統一の定立
● 目的の実現は、主観と客観のそれぞれの一面性の揚棄としての統一
・客観は目的に「従属し、順応させられている」(同)
・目的は具体的普遍として客観のうちで「自己を保持する」(同)
211節 ── 目的の無限進行
● 有限な目的の実現は、自己を再び手段とする分裂を含む
・目的の実現された手段が媒介項であったのと同様
・成就されたものは材料が加工されたという形式にすぎない ── この形式
も偶然的
・達成された目的は「再び他の目的にたいする手段あるいは材料」(206ペ
ージ)に
● 目的の無限進行は、絶対的真理に無限に接近していく
212節 ── 目的から理念へ
● 目的の実現とは一面的な主観と一面的な客観との揚棄
・目的の実現は客観の「独立性の仮象」(同)を否定
・目的の形式活動は、目的を内容として定立し、内容と形式の対立は消失
・主客の統一は客観における潜在的なものから、目的の実現による顕在化へ
── これが理念
212節補遺 ── 無限の目的が国家、社会を真にあるべき姿に
発展させる
● 目的の実現は、「即自的な概念」(207ページ)としての「客観自身の内
面の顕現」(同)
・客観は「その下に概念がかくされている外被」(同)
・「絶対の善」(同)は「永遠に自己を実現しつつあり」(同)、「われわ
れを待つ必要はない」(同)
・人間の有限な目的をかかげた実践が、客観のうちに潜む概念の顕在化を促
進する ── 合法則的活動は「分娩の苦痛を短くし、緩和する」(マルクス)
・「無限の目的は、それがまだ達成されていないかのような錯覚を除きさえ
すれば」(同)、目的の無限進行により「達成されるのである」(同)
・錯覚は「活動力」(同) ── 「真理はただこうした誤謬からのみあらわ
れ出る」(同)
・「誤謬は、それが揚棄されるとき、それ自身真理の必然的なモメント」
(208ページ)
2.「C 理念」の主題と構成
●「C 理念」は理想と現実の統一を論じるヘーゲル哲学の核心
・ヘーゲル哲学は「絶対的理念論」(㊤ 179ページ)
・理念〔イデア〕はエネルゲイア ── 1つは必然的に現実性に転化するエ
ネルゲイア、もう1つはより善く生きるエネルゲイア
● 構成
・総論(213~215節)で ・ は、理念とは概念と存在との一致であ
り、それが絶対的真理であることが明らかに
・「a 生命」とは、内的目的性(概念)と存在との統一としての理念。自然
的、社会的生命体が論じられる
・「b 認識」では、人間(主体)の認識と実践を媒介にした概念(理想)と
存在(現実)との統一としての理念が論じられる
・「c 絶対的理念」では、絶対的真理を認識する思惟形式が弁証法であるこ
とが明らかになり、再び有に帰って論理学の円を完成させる
3.「C 理念」総論
213節 ── 理念は絶対的真理
● 理念は概念と存在との統一としての絶対的真理
・ヘーゲルは、真理を客観に一致する認識(主客一致の認識)とするにとど
まらず、主客の同一性の定立ととらえる
・理念とは、真にあるべき姿としての客観 ── 概念の「外的な定有」(208
ページ)
● すべての定義は「絶対者は理念である」の定義に帰ってくる
・「理念は真理」(同) ── 「真理とは、客観が概念に一致すること」(
同)
・あらゆる現実的なものは、「理念によってのみ」(209ページ)真理を持
つ
・概念に一致しない存在は、有限であり、滅亡する
● 絶対者は、普遍的な「1つの理念」(同)
・1つの理念が分化して「諸理念の体系へと特殊化」(同)
・理念の「発展した真の姿」(同)は「主体」(同)「精神」(同)
● 理念は「形式的な抽象物」(210ページ)ではない
・理念は「自分自身を規定して実在となる概念」(同)として「本質的に具
体的」(同)
・概念は「主体性」(同)として具体的な統一
213節補遺 ── 真理とは概念と存在の同一
● 真理とは「客観が概念と同一であること」(同)
・客観に一致する認識は「意識との関係における真理」(同)であり、「単
なる正しさにすぎない」(同)
・真の国家、真の芸術作品とは、この意味の真理
・「世界の諸事物が存在するのはただ概念による」(211ページ)
・哲学の目的は個々別々のものを絶対的統一に還元することにあり、それが
理念
● 理念は、有論、本質論、概念論に媒介されたものであると同時に、これら
を媒介してモメントとするもの
ヘーゲル哲学の本質は唯物論的な革命の立場
● エンゲルスはヘーゲルを観念論者と批判
・彼は「事物とその発展」(全集⑳ 23ページ)を「『理念』の現実化され
た模写にすぎない」(同)と考えた、としている
● しかし、ヘーゲルの理念は人間主体による理想と現実の統一の立場
・しかもその理想は、空想的な理想ではなく、現実を否定的に反映した唯物
論的理想
・その理想を人間主体が実践することにより、国家、社会を真にあるべき姿
に変革し、絶対的真理に到達するとする革命の立場
・つまり唯物論的な革命の立場 ── 観念論的側面は隠れ蓑としての装いに
すぎない
214節 ── 理念は真理として対立物の統一
● 真理としての理念は、対立物の統一
・理念は「理性」(無限の真理を認識しうる能力)として対立物の統一
・理念は、主観と客観、観念的なものと実在的なもの、有限なものと無限な
もの、魂と肉体の、統一
・「理念のうちには悟性の相関のすべてが、無限の自己復帰と自己同一とに
おいて」(212ページ)含まれている ── 対立の定立と統一への復帰
・対立物の相互「移行と、2つの端項を揚棄されたもの、仮象、モメントと
して含んでいる統一とこそ、それらの真理」(213ページ)
● 悟性による理念に対する「二重の誤解」(同)
・1つに、悟性は「理念の2つの端項」(同)を「具体的統一の外にある抽
象的なものと考える」(同)
・2つに、悟性は矛盾を「理念そのものとは無関係な外的反省と考えてい
る」(同)
・「理念は弁証法」(同)であり、自己同一のものから対立を定立し、続い
て対立する区別されたものは仮象にすぎないとして、それを「統一へ復帰
させる」(214ページ)
● 理念において「概念そのものだけが自由で真の普遍」(同)
・あれこれの対立物の統一は「規定された概念のどれか1つの段階」(同)
にすぎない
・「概念そのものおよび客観性のみ」(同)が対立物の相互移行という無限
判断として「完成された全体」(同)
215節 ── 理念は弁証法的な運動の過程
● 理念は本質的に弁証法的な運動
・理念は概念から客観に、客観から「主観性へ復帰する」(215ページ)と
いう運動
・理念は過程であり、「主体性」(同)として運動する
・理念における対立物の統一は、「中和された」(同)統一ではなく、「否
定的統一」(同) ── 対立するものを内に含む統一
215節補遺 ── 理念は3つの段階を通過する
● 理念の3つの形態
・生命 ── 「直接性の形態のうちにある理念」(216ページ)
・認識 ── 媒介、差別の形態にある理念(このうちに「理論的理念および
実践的理念」の2つあり)
・絶対的理念 ── 「区別によって豊富にされた統一」(同)としての理念、
「最後の段階であると同時に真の始源」(同)、論理学は完成した円とな
る
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