2010年6月26日 講義
第2講 社会主義は
フランス革命の「第2幕」として誕生
1.「科学的祉会主義」とは
資本主義の限界を乗り越え、
社会主義の実現を目的とする学説と運動
①「空想から科学への社会主義の発展」(エンゲルス)
●「科学的社会主義の入門書J (フランス語版へのマルクスの序文)
● 社会主義を科学の対象とすることにより「科学的社会主義」の入門書
・ 「二つの偉大な発見」 (唯物史観と剰余価値により資本主義的生産の秘密
を暴露)によって「社会主義は科学になった」
・資本主義の基本矛盾を解明することにより、資本主義から社会主義への移行
の必然性を科学的に明らかにした。古典中の古典。
② 社会主義思想のルーツは何かを考えることが、
科学的社会主義を根本からつかむことにつながる。
● 社会主義とは何を求め、どんな歴史的背景から生じてきたのか
● 社会主義の本質的要素とは何か
2.「共産党宣言」
(1848.マルクス・エンゲルスの共著)
① 科学的社会主義(マルクス主義)宣言の書
●科学的社会主義の最初の綱領的文書
・「 共産主義者同盟」の綱領
・当時の様々な社会主義思想のうえに、科学的社会主義とは何かを対置したも
のー「万国のプロレタリア団結せよ! 」
・第3章「社会主義的および共産主義的文献」で、当時の様々な社会主義思想
を紹介
・1)反動的社会主義
・2)保守的社会主義またはブルジョア社会主義
・3)批判的=空想的社会主義および共産主義
・ 当時の様々な社会主義思想のなかから、歴史の審判をつうじて科学的社会主
義の学説と運動が生き残った
② 「妖怪がヨーロッパをさまよっている・・・共産主義の妖怪である」
● 共産主義(社会主義一高村)は、すでにヨーロッパのすべての権力からひとつ
のカと認められている」
●「共産主義の妖怪ぱなしに党みずからの宣言を対置すべきときがきている」
・この宣言は、英語・フランス語・ドイツ語・フラマレ語(ベルギー北部の言
語一一高村) ・デンマーク語で発表
● 何故1848年当時、社会主義・共産主義の妖怪がヨーロッパ中で「ひとつの力」
として歴史の舞台に登場することになったのかが問題
・その歴史的背景を抜きに社会主義思想を論じることはできない
3.フランス革命のヨーロッパへの波及
① 「自由・平等・友愛」を掲げたフランス革命
● フランス革命を準備したフランス啓蒙思想(特にノレソーの人民主権論と自
由・平等論)
・人聞は生まれながらに自由で平等(「人聞は自由なものとして生まれた。し
かしいたるところで鎖につながれている」『社会契約論』)一人間の本質論
と人間疎外論の原望
・ 人民の「一般意志」(普遍的意志)にもとづく統治により
本来への人間の回復を訴える(人民主権論) 人間解放論
・ルソーの「人間不平等起源論」と「社会契約論」には「マルクスが『資本
論』でたどっていたものと瓜二つの思想の歩みがある」
(全集⑩ 146ページ)
・「 おお、なんじ真の崇高なる人類の友よ。羨望と陰謀と専制によって迫害さ
れたなんじ、不滅のジャン・ジャックよ。この名誉はまさになんじにこそあ
たえられるべきものだ」(パンテオン移葬時のロベスピエールの挨拶)
・理性国家、ルソーの社会契約はブ〉レジョア的民主共和国としてこの世にう
まれた」 (「空想から科学へ」) ーエンゲルスもルソーをフランス革命を
代表する思想家ととらえる。
● 絶対主義と封建的土地所有を徹底的に廃止したブルジョア民主主義革命
・1789革命の推進カとなったのはブルジョアジーとパリの民衆(サン=
キュロットと呼ばれる無産階級)
・妥協の産物としての1789年フランス人権宣言
・人民主権は「国民主権J に。自由・平等をうたいながら民衆に選挙権与えず
・ブルジョアジーは王党派と結んで、革命を裏切る
② 第2革命(王制廃止、第1共和制)
● ジャコバン独裁によるフランス革命の推進
・1792. 9. 22 サン=キュロットの武装蜂起により王制廃止。
第1共和制樹立、男子普通選挙権を実現
・1793. 6 ジャコパン独裁の政治(ロベスピエール、サン・ジュストは
ルソーの影響を強く受けるト封建的土地所有の撤廃その他の民主的改革
・憲法史上最も民主的憲法とよばれる1793年憲法制定
・ルソーの「社会契約論」にもとづき人民主権と「自由・平等・友愛」を名実
ともに実現するもの
● 1793年憲法
・ノレソーの人民主権論に立脚
・「主権は人民に存する」
・「社会の目的は共同の幸福」
・「社会は、不幸な市民に労働を与え、または労働することができない人々の
生存の手段を確保することにより、これらの人々の生計を引き受けなければ
ならない」
③ フランス革命の挫折
● 1794. 7. 22 ブルジョアジーのクーデター(テルミドールの反動)
・これによりフランス革命の理念は挫折
・1793憲法は実施されないまま失効
・以後ブルジョアジーの権力が継続し、ナポレオンの帝政へと続く
④ 社会主義思想はフランス革命の「第2幕」として
1848年当時全ヨーロッパに広がる
● フランス大革命は「一方の交戦者だった貴族が滅ぼされて他方の交戦者だった
ブルジョアジーが完全に勝利まで、ほんとうにたたかいぬかれたどいう点で
も、最初のものであった」(エンゲルス『空想から科学へ』英語版への序論)
・エンゲルス「ロンドンにおける諸国民の祝祭」(1845. 末)で、「ヨー
ロッパの社会運動の全体は革命の第2幕」(全集② 639ページ)
・1845. 9. 22 ー「1792. 9. 22 のフランス共和国の創設を記念」 してマルク
ス・エンゲルスが準備し、ロンドンにチャーテイストの左翼、ドイツ人
「義人同盟」の労働者、ロンドン在住の革命的亡命者の集会
・「今日のヨーロッパの社会運動全体は革命の第2幕にすぎず、1789年にパ
リにはじまっていまでは全ヨーロッパをその舞台にしている劇の大団円の準
備にすぎなし」(全集② 639ページ)
● フランス革命の「第2幕」として社会主義思想は全ヨーロッパに広がったもの
・挫折したフランス革命の理念を実現しようとして社会主義思想が登場
⑤ フランス革命のなかから生まれたパブーフ共産主義
● バブーフ共産主義
・1796. 3 パブーフの「平等のための陰謀」
・「パブーフの陰謀は、93年の民主主義の最後の帰結」 (全集② 638ページ)
・バブーフは「ほんとうの自由およびほんとうの平等、すなわち共産主義」
(全集① 524ページ) を打ち立てた。
・フランス革命の本質は「特権者と平民、金持ちと貧乏人の聞に宣せられた戦
争」(パブーフト階級闘争としての位置づけ
・民主主義と私有財産の廃止による平等な分配
● バブーフ共産主義を経て、民主主義は共産主義へ
・「民主主義、それは今日では共産主義である」(全集② 639ページ)
ー「1846年には、ヨーロッパの民主主義者はみな、共産主義者」(同)
・バブーフの人民主権論は、プロレタリアート執権論を先取りしたもの(杉原
泰雄「国民主権と国民代表制」234ページ)
・ルソーの平等論と人民主権論は、93年憲法を媒介にバブーフ共産主義と結び
つく
・「フランス人は、はじめに政治的な自由と平等とを求め、そしてそれが不十
分なことを知ると彼らの政治的要求に社会的自由および社会的平等をつけく
わえるというようにして政治的に」(全集① 523ページ)共産主義に達し
た。
⑥ イギリスのチャーテイスト運動と共産主義
● 18C後半から19Cはじめにかけてイギリスの産業革命
・ ブルジョアジーと労働者階級の台頭
・1832年、選挙権獲得はブルジョアジーと労働者階級の協力で実現したが、
労働者に選挙権なし
● チャーテイスト運動(1830〜48)
・世界最初の労働者階級独自の大衆的政治闘争
・男子普通選挙権、平等選挙区、毎年選挙などの民主主義的要求
・人民権力の実現を目指す革命闘争の性格も
● 1845. 9. 22 「ロンドンにおける諸国民の祝祭」
・「最左翼のプロレタリア党が実行してしも諸国民の親睦」(全集② 637
ページ)は、「フランス革命にはじまって、フランス共産主義とイギリス
のチャーテイズムとに発展した近代民主主義の旗のもとにおこなわれる」
(同)
・チャーテイストの大多数は、共和主義者であり1793年憲法を自分の信条とす
る共産主義者
・「フランス共和国の創設という一見共産主義とは全然関係のない出来事を祝
うために集まった」(同651ページ)この集会は、「ロンドンのチャーテイ
ストであるプロレタリアの大衆をかなり正確に代表」(同652ページ)
・「この集会は、共産主義的原理を、いな共産主義という言葉すら、満場一致
で採決したのである。チャーテイストの集会は共産主義的な祝祭であった」
(同)
・「民主主義は今日では共産主義である」(同)
⑦ ドイツ古典哲学と共産主義
●「フランスの政治革命に伴って、ドイツでの哲学革命がおこった」(全集①
535ページ)
・カント・・・「フランス革命のドイツ的理論」(同93ページ)
・フィヒテ、シェリングを経てへーゲルで完成するドイツ古典哲学は、フラン
ス革命に影響を強く受ける
● エンゲルス「大陸における社会改革の進展」(全集①) 一1893. 1. 1
・1842. 秋 青年へーグノレ派の「ある人々は、政治的な変革では不十分であ
ると主張し、彼らの意見によれば共有制にもとづく社会的変革が、彼らの抽
象的な諸原理に一致する、人類の唯一の状態であると、宣言した」( 同537
ページ)
・彼らの「ライン新聞」(1842. 1〜1843. 3)は共産主義の論文をいくつか
発表 ーマルクスは1842. 10 から編集長
・「共産主義は、新へーゲル哲学のきわめて必然的な帰結」(同 538ページ)
・「ドイツ人は、・・・哲学的に共産主義者になった」(同 523ページ)
⑧ まとめ
・イギギリス、フランス、ドイツの「三大文明国」で「財産の共有制を基礎に
した」(全集① 523ページ)共産主義思想
・イギリスでは、「悲惨と退廃と貧窮」によって実際的に、フランスでは「政
治的に」 、ドイツでは「哲学的に」共産主義思想へ(同)
4.社会主義とは、真の自由、平等、民主主義
① 社会主義思想は、ブルジョア民主主義革命を
完成させるものとして誕生した
●「近代の社会主義は、・・・その理論上の形式からいえばそれは、はじめは、
18世紀のフランスの偉大な啓蒙思想家たちが立てた諸原則を受け継いでさらに
押しすすめ、見たところ首尾一貫して現れる」(「空想から科学へ」)
・フランスの啓蒙思想、とりわけルソーの掲げた自由、平等、民主主義をブル
ジョア民主主義の枠内の形式的自由、平等、民主主義から、実質的な自由、
平等、人民主権に前進させるために私有財産の廃止を唱えるものとして初期
の社会主義思想が誕生
● 1793年憲法がヨーロッパ共産主義の旗印に
② 科学的社会主義も真の自由、平等、人民主権の実現を
その出発点においてもっている
● マルクスからルーゲへ(1843. 5)一自由と民主主義
・人間の自己感情である自由「だけが、この社会を人間の最高目的のための共
同体に、つまり民主主義国家にすることができるのである」(全集① 375
ページ)
・「社会主義的原理全体は、これはこれでまた、真の人間的存在の実在にかん
する一面にすぎない」( 同381ページ)
●「ユダヤ人問題によせて」(1843. 秋)一人間解放のためには人民は現実的な
主権者に
・「完成した政治的国家」(同393ページ)のなかでは「人聞はある仮想的な
主権の空想的成員であり、その現実的な個人的生活をうばわれて、人間は非
現実的な普遍性でみたされている」(同)
・フランス革命にみられる政治的解放は、まだ人間的解放ではない。
・・・人間的解放のためには、「現実的な個人的生活」において解放されね
ばならないとの問題意識
●「ヘーゲル法哲学批判」(1843末〜1844. 1. 7)ー政治的解放から人間解放に
・マルクスは、へーゲル「法の哲学」は、政治的国家への幻想をもたらすもの
と考え、批判した
・「部分的な、たんに政治的な革命J (全集① 424ページ) から「普遍的人
間的な解放」(同) へ
・人間解放の「頭脳は哲学であり、それの心臓はプロレタリアートである」
(全集① 428ページ)
・人間解放とは何かを考えるために人間論、人間疎外論の探求と経済学の研究
に。
●「共産主義者とカール・ハインツェン」(1847. 10)
・「民主主義がまだ獲得されないかぎりは、共産主義者と民主主義者とは共同
してたたかい、民主主義者の利害は、同時に共産主義者の利害である」
(全集④ 333ページ)
● こうした土台のうえに1848年「共産党宣言」
・「共産主義の特徴は、所有一般を廃止することではなくて、ブルジョア的所
有を廃止することである}(全集④ 488ページ)
・「労働者革命の第一歩は、プロレタリアートを支配階級に高めること、民主
主義をたたかいとることである」(同494ページ)
・「共産主義者は、どこでも、すべての国の民主的諸党の連絡と了解を達成す
るために努力する」(同508ページ)
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