2010年9月25日 講義

 

 

第5講 人間疎外論

 

1.疎外とは何か

● 疎外とは人間の社会的活動による産物が人間を支配し、敵対する力としてあら
 われること

 ・社会的産物をつくりだす人間の活動そのものが、その人間にとって自由な意
  志によってではなく、外的な、強制的なものとなることによって、社会的産
  物がその人間にとって支配的、敵対的なものとなる

● 疎外によって人間の本質は損なわれ、歪曲される

 

2.マルクスの人間疎外論の原型

① ルソーの自由・平等の疎外論

● ルソーの『人間不平等起原論』には「すでにマルクスの『資本論』がたどって
 いるものと瓜二つの思想の歩みがあるだけでなく、個々の点でも、マルクスが
 用いているのと同じ弁証法的な論法が、多数見いだされる」
 (全集⑳ 146ページ)

 ・自然状態における平等―私有財産のもとでの平等の疎外
  ―「社会契約にもとづくより高度の平等」(同146ページ)の実現

 ・「人間は自由なものとして生まれた、しかもいたるところで鎖につながれて
  いる」(『社会契約論』15ページ)

 ・「人民がクビキをふりほどく」(同)とき、「そのとき人民は、(支配者
  が)人民の自由をうばったその同じ権利によって、自分の自由を回復する」

 ・自然状態における自由―私有財産のもとでの自由の疎外―社会契約国家にお
  ける自由の回復


② ヘーゲルの「搾取」における疎外論

● 人間は自由な意志をもつことによって無限な人格となる

 ・「人間の最高のことは、人格であることである」
  (『法の哲学』35節追 加)

 ・人間は「自己意識」をもつことにより「自分を無限なもの、普遍的なもの、
  自由なものとして知る」(同35節)

 ・人間は「精神的なもろもろの熟練、つまり学問と芸術、そして宗教上のも
  の」(同43節注解)を身につけ、人格を陶冶する無限な人格

● 自由な人格は譲渡しえないし、放棄することもできない(同66節)

 ・しかし、「知識、学問、才能などに一つの外面的な現存在を与える」(43
  節補遺)とき、譲渡は可能となる

 ・自由な人格は、労働生産物の生産により、生産物のなかへ「自己の意志を
  置き入れ」(44節)ることにより、自己の外在化としてそれを、自己の所
  有とする

 ・生産者による生産物の所有は「人間の、いっさいの物件にたいする絶対的
  な、自分のものにする権利である」(同)

 ・自由な人格としての私は「そのなかへ私の意志を置き入れるかぎりにおいて
  のみ、私のものなのだから、私はそれを自分の外に放棄することができる」
  (65節)―自由な意志を外化したかぎりで譲渡しうる

 ・生産者が自己の自由な意志に反して強制されて労働し、その結果労働生産物
  を取得しえないこと(つまり搾取されること)は、自由な人格と自由な意志
  の疎外となる(しかしヘーゲルは直接的にはそれを論じていない)


③ フォイエルバッハの宗教的疎外論

● フォイエルバッハにかんする第4テーゼ

 ・「フォイエルバッハは、宗教的な自己疎外という事実、すなわち世界が宗教
  的な世界と世俗的な世界とに二重化するという事実から出発する。彼の仕事
  は、宗教的な世界をその世俗的な基礎へ解消することにある」
  (服部『新訳』111ページ)

 ・彼は、宗教的世界を世俗的世界へ解消することにより自己疎外から回復する
  と考えた

● マルクスの批判

 ・「この世俗的な基礎そのものが、それ自身において、その矛盾のなかで理解
  されなければならないのと同様に、実践的に変革されなければならない」
  (同)

 ・世俗的な現実世界そのものが現実的自己疎外を生みだしているのであり、疎
  外からの解放のためには、現実世界そのものが「実践的に変革されなければ
  ならない」と主張した

● エンゲルスの批判

 ・「フォイエルバッハの新宗教の核心となっている抽象的人間の礼拝は、現実
  の人間とその歴史的発展とにかんする科学で置きかえられずにはすまなかっ
  た」(『フォイエルバッハ論』全集 295ページ)


④ マルクスの疎外論

● マルクスの人間疎外論は、ルソー、ヘーゲル、フォイエルバッハの疎外論の止
 揚のうえに成立

● ルソーからは、人間の類本質―類本質の疎外―疎外からの解放という否定の否
 定を学ぶ

 ・「資本主義的な私的所有は、自分の労働にもとづく個人的な私的所有の最初
  の否定」(『資本論』④ 1306ページ)

 ・「しかし、資本主義的生産は、自然過程の必然性をもってそれ自身の否定を
  生みだす。これは否定の否定である」(同)

 ・社会主義、共産主義は、「搾取」の否定による「否定の否定」

● ヘーゲルからは、ヘーゲルの明確にしなかった「搾取」が人間疎外の根本的要
 因であることを学ぶ

● フォイエルバッハからは、現実の階級社会、とりわけ資本主義社会における人
 間疎外と疎外からの回復を求める社会変革を反面教師として学ぶ

● マルクスの「弁証法的な論法」における疎外論

 ・搾取を疎外論の土台にすえて、人間の類本質全体の疎外を論じる

 ・古代社会における人間の類本質―階級社会における人間の類本質の疎外
  ―社会主義・共産主義における人間の類本質のの回復(=人間解放)

 ・「あらゆる解放は、人間の世界を、諸関係を、人間そのものへ復帰させるこ
  とである」(全集① 407ページ)

 

3.人間の類本質の疎外

① 原始共同体の人間は自然的人間

● 500万年ないし700万年の人類の歴史のうち、99.8%は階級のない原始共同体
 の社会

 ・生産力が発展して奴隷制社会に突入したのは、狩猟、採集から農耕・牧畜へ
  移行した約1万年前

 ・99.8%の人類史をつうじて人間の類本質が獲得されてきた

● 原始共同体の人間は、人間の本来の姿をもった自然的人間として「自由、平
 等、友愛」の類本質をもつ


② 階級社会は、人間の類本質の疎外された社会

1)階級社会は、搾取する者とされる者の階級対立の社会

● 階級への分裂は、生産力の発展にともなう剰余生産物の私的所有に始まる

 ・「1人の人間が他の人間の援助を必要とするやいなや、またただひとりのた
  めに2人分の貯えを持つことが有効であると気づくやいなや、平等は消えう
  せ、私有が導入され、……奴隷制と貧困とが芽ばえ、生長するのが見られる
  ようになった」(ルソー『不平等起原論』96ページ)

 ・「生産はかなりに発展していて、いまでは人間の労働力は、自分の生計を維
  持するだけのために必要であるよりも多くのものを生産できるようになって
  いた。……こうして……奴隷制が発明されたのである(全集⑳186~187
  ページ」

● 生産手段(奴隷、封建的土地所有、道具、機械、工場)を所有する者がもたな
 い者を自己の生産手段に結合し、もたない者の生産する労働生産物を搾取する

 ・『共産党宣言』(全集④)では「共産主義の特徴は、所有一般を廃止する
  ことではなくて、ブルジョア的所有を廃止すること」「私的所有の廃止」
  と表現

 ・『ドイツ・イデオロギー』では『多数の生産用具が各個人に、また所有が万
  人に従属させられなければならない」(『新訳』98ページ)
  →それが後に「生産手段の所有」が搾取の根源として定式化される

2)搾取は「自由な意志」を疎外する(労働の疎外)

● 搾取は自由な人格を否定し、「自由な意志」そのものを疎外する
 ―自由な意志を対象化した生産物を生産者から取り上げることにより、生産者
  の自由な意志を否定する

 ・労働は自己を「二重化し、そうすることによって己れ自身を己れの創り出し
  た世界のうちに観る」(全集㊵ 437ページ)

 ・「したがって、疎外された労働は人間から彼の生産の対象をもぎ離すことに
  よって、彼から彼の類生活、彼の現実的な類的対象性をもぎ離す」(同438
  ページ)

●「労働者が対象を生産すればするほど、所有しうるものはますます少なくなる
 し、彼の産物であるところの資本の支配下にますます落ちていくほどの疎外と
 してあらわれる」(同432ページ)

 ・「彼の労働が彼の外に、彼とは独立に、余所ものとして存在し、そして彼に
  対峙する1つの自立的な力となり、彼が対象に貸与した命が彼に余所ものと
  なって敵対してくるところにある」(同)

● 搾取による「労働の疎外」が、人間疎外の土台をなす

 ・したがって労働者こそがもっとも疎外された人間となる

 ・「労働の疎外」からの解放が人間解放の中心的課題となる

3)搾取は「共同社会性」を疎外する(人間の人間からの疎外)

● 搾取は階級対立と経済的不平等を生みだすことにより「共同社会性」を疎外す
 る

 ・搾取が土台となって「共同社会性」を疎外する

 ・「人間が彼の労働の産物、彼の生活活動、彼の類的本質から疎外されている
  ことの一つの直接的な帰結は、人間の人間からの疎外である」(同438
  ページ)

 ・「総じて、人間が彼の類的本質から疎外されているという命題は、ひとりの
  人間が彼ならぬ他の人間から、また彼らのおのおのも人間的なあり方から疎
  外されていることを意味する」(同)

 ・労働者は社会的存在から、アトム的なバラバラの存在に

 ・対等、平等、友愛の民主主義的な人間相互の関係は疎外され、支配と従属の
  人間関係が形成される

●「共同社会性」の疎外は言語の疎外を生みだす

 ・言語的コミュニケーションは、本来的には人間相互の「共同社会性」を形成
  するもの

 ・労働は「自己を対象化するよろこび」であるのに対し、言語的コミュニケー
  ションは「社会的存在を確認しあうよろこび」

 ・「共同社会性」の疎外は言語の疎外をもたらし、言語は人を欺し、傷つけ、
  攻撃する手段に転化する―うつ病が社会的現象となる

 ・「われわれはたがいにすっかり人間的本質から疎外されているために、人間
  的本質の直接の言葉はわれわれには、人間の尊厳を傷つけるものに思われ、
  反対に、事物の価値という疎外された言葉が、公認された、自信にみちた、
  自己自身を承認する人間的尊厳のようにみえるのである」(全集㊵381~
  382ページ)

● 言語の疎外は、イデオロギーの虚偽性を生みだす

 ・「支配的階級の諸思想は、どの時代でも、支配的諸思想である」
  (『〔新訳〕ドイツ・イデオロギー』59ページ)

 ・少数者が多数者を支配するための支配階級のイデオロギーはつねに多数者の
  利益であるような虚偽性を伴う

 ・支配的イデオロギーは、階級対立を覆い隠して階級支配を維持・強化する

4)搾取は「人間的価値」観を疎外する

● 本来の人間は「ただ生きるということではなくて、よく生きるということ」
 (「ソクラテスの弁明」)を求める

 ・人間としてより善く生きるために人間的価値観(自由、平等、友愛を価値あ
  るものとする価値観)をもつ

● 資本主義社会では、人間的価値は貨幣的価値に転化し、価値観の疎外が生じる

 ・「貨幣物神」(『資本論』① 159ページ)

 ・「貨幣―富の、いつでも出動できる、絶対的社会的な形態」
  (同 222ページ)

 ・「金はすばらしい物である!金を持つ者は、自分の望むことは何でもでき
  る。金をもってすれば、魂を天国に送り込むこともできる」(同、コロンブ
  ス)

●「労働者が身をすりへらして働けば働くほど、……彼自身、彼の内面的世界が
  ますます貧しくなる」(全集㊵ 432ページ)

 ・「物の世界の価値化に正比例して、人間の世界の非価値化は進む」
  (同 431ページ)

 ・つまり、より善く生きるための人間的価値観が疎外されることを意味してい
  る

● 人間的価値観の喪失は、生きがいの喪失

 ・人間的価値観の喪失は、人間らしく生きることの喪失であり、人間的生きが
  いの喪失

 ・人間的価値は貨幣的価値に転化することにより、金が生きがいとなる拝金主
  義に

 ・「ただ生きる」のみならず「金のために生きる」人間疎外

● マックス・ウェーバーの「社会科学方法論」

 ・「事実と価値」、「存在と当為」を峻別―科学の「没価値性」を主張

 ・人間的価値の「非科学性」を主張することにより、人間的価値を議論の対象
  外に追いやる

 ・搾取の強化のために自然科学の発展は必要だが、搾取とその非人間性を明ら
  かにする社会科学、人文科学は逆にマイナスとなるところから、その真理性
  を否定するもの

 ・史的唯物論は、社会科学のなかに価値観を持ち込むものだから、科学ではあ
  りえないとして、その真理性を否定する

 ・「理念型」は「ひとつのユートピア」にすぎない(『社会科学方法論』91
  ページ、河出書房新社)
  ―(ウェーバーのいう「理念型」とは、主観の構成する思想像、フィクショ
   ンの観念的所産)

 ・「資本主義的な文化の『理念』は……どれもこれもたがいにちがったのがひ
  じょうにたくさん、つくられる」(同92ページ)

 ・「マルクス主義的な『法則』や歴史的な発展についての構成はみな―理念型
  的な性格をもっていることはいうまでもない。…それら……が真実な『活
  動力』『傾向』であるなどと、考えられるならば、たちどころに、それは危
  険なものとなる」(同 104ページ)

 ・ウェーバーは、理念に観念論的理念と唯物論的理念の2種類があることに目
  をつぶる

 ・価値判断こそ人間が人間としてなしうる最高の判断(ヘーゲル)
  ―世界が単にどうあるかの真理を知るだけではなく、どうあるべきかの真理
   を知りうるところに「自由な意識」をもつ人間の類本質がある


③ 国家による人間の類本質の疎外

1)国家の起原

● 原始共同体は国家をもたない

 ・モーガン「古代社会」の部族評議会や同盟評議会は共同の利益を処理する独
  自の組織をもちながらも、全構成員から分離し、全構成員に対立する組織で
  はない

 ・「まだ国家というものを知らない一つの社会の組織」(全集㉑ 98ページ)

● 国家の起原は社会の共同事務を処理する独自の組織を支配階級が独占すること
 に始まる

 ・社会の共同事務―「争訟の解決、個々人の越権行為の抑制、水利の監視」
  「宗教的機能」などの事務―を「職務の世襲化」(全集⑳ 185ページ)す
  ることで、支配階級が独占

● 社会が階級に分裂すると、搾取階級が支配階級となる

 ・国家は「一定の発展段階における社会の産物」(全集㉑ 169ページ)であ
  り、「和解できない対立物に分裂したことの告白」(同)

●「社会は、内外からの攻撃にたいしてその共同の利益を守るために、自分のた
 めに一つの機関をつくりだす。この機関が国家権力である。この機関は、発生
 するやいなや、社会にたいして自立するようになる。しかも、一定の階級の機
 関となり、この階級の支配権を直接に行使するようになればなるほど、いよい
 よそうなる」(全集㉑ 307ページ)

2)国家の本質は階級支配の機関

● いったん成立した国家の本質は、次第に共同事務の処理から階級支配の機関に
 転化していく

 ・国家は共同の利益として誕生しながら、搾取階級=支配階級の機関となるこ
  とにより、階級支配の機関としての比重を高め、住民の武装組織とは「もは
  や直接には一致しない、一つの公的強力」(全集㉑169ページ)をうちたて
  る

 ・少数者が多数者を支配するには公的強力―軍隊、警察、裁判所、監獄など―
  を必要とする

・「それは、通例、最も勢力のある、経済的に支配する階級の国家」(同 170
  ページ)であり、「この階級は、国家を用具として政治的にも支配する階級
  となり、こうして、被抑圧階級を抑圧し搾取するための新しい手段を手に入
  れる」(同 170~171ページ)

● 国家は階級支配の機関としての本質を維持するために「外見上社会のうえに
 立ってこの(階級的利害の―高村)衝突を緩和し、それを『秩序』の枠内に引
 きとめておく権力」(全集㉑ 169ページ)の外観(現象)をもつ

 ・階級支配のためにも、共同の利益を守るという「外見上社会のうえに立」つ
  外観を必要とする

3)階級国家は本質と現象の対立・矛盾

● 階級国家の本質と現象の二面性

 ・「社会は、内外からの攻撃にたいしてその共同の利益を守るために、1つの
  機関をつくりだす。この機関が国家権力である。この機関は、発生するやい
  なや、社会にたいして自立するようになる。しかも、一定の階級の機関とな
  り、この階級の支配権を直接に行使するようになればなるほど、いよいよそ
  うなる」(全集 307ページ)

 ・共同の利益実現という側面(現象)と支配階級の支配を維持・強化するとい
  う側面(本質)の二面性を持つ(現象と本質との対立・矛盾)

 ・いわば普遍的利益と特殊的利益との対立・矛盾

 ・普遍的利益は、特殊的利益に従属

●「国家とは、その全構成員の共同利益を実現する仮象をもちつつ、一方で支配
 階級の利益を擁護するとともに、他方で被支配階級を抑圧するという本質を持
 つ、搾取する階級の階級支配の機関である」(『人間解放の哲学』93ページ)

● 社会主義国家とは、普遍と特殊の対立を解消し、名実ともに普遍的利益を実現
 する全人民的国家

● ネオ・マルクス主義(プーランザス)の国家論批判

 ・国家の本質は、階級支配の機関にあるのではなく、「諸階級の力関係の物質
  的凝縮」にあるとする

 ・これは、資本主義国家の諸政策には一定の労働者保護政策が含まれているこ
  とをとらえたもの
  ―しかしそれは単なる現象としての「共同の利益」を示すものにすぎない

 ・労働者の階級闘争の力関係によって、現象としての「共同の利益」を拡大し
  たり、縮小したりすることはあるが、国家の本質はかわらず

4)国家による類本質の疎外

● 国家は「自由な意志」を疎外する

 ① 国家は政治と法を使って、一方で支配階級の搾取の自由を擁護することで
  「自由な意志」を疎外する

 ・国家は租税制度をつうじて間接的に搾取の強化を手助けする(大企業への優
  遇税制)と同時に、直接的に国民から収奪する(消費税増税)

 ② 国家は、国家権力を利用して国民の反抗を抑圧し、その自由を疎外する(思
  想、良心、表現の自由の侵害)

● 国家は「共同社会性」を疎外する

 ・国家は階級対立と対立する諸階級間の支配・従属の関係を肯定し、「共同社
  会性」を疎外する

 ・国家は、公的強力を使って人間の類本質の回復を求める階級闘争を抑圧する

● 国家は「人間的価値観」を疎外する

 ・国家は宗教や教育、観念論的イデオロギーを流布宣伝することにより、より
  善く生きるための人間的価値観、ひいては国家・社会のあり方から国民の目
  をそむけさせる

 ・「支配階級の諸思想は、どの時代でも、支配的諸思想である」(『ドイツ・
  イデオロギー』服部訳59ページ)

5)階級社会は、二重に人間の類本質を疎外する

● 搾取による経済的疎外と、国家権力による政治的疎外

 

4.階級闘争

●「これまでのすべての歴史は、原始状態を別とすれば、階級闘争の歴史であっ
 た」(全集⑳ 657ページ)

  ・階級闘争は「一言でいえば経済関係の産物」(同 25ページ)

  ・「それぞれの歴史的時期における法的および政治的諸制度」(同)をめぐる
  階級闘争も、「終局的にはこの土台によって説明すべきもの」(同)

● 人間は階級分裂の社会となって以来、人間の類本質が搾取と国家権力により二
 重に疎外されていることに対し、人間の類本質回復を求めて階級闘争に立ち上
 がってきた

 ・階級闘争は、単に経済的利害の対立のみならず、人間の類本質の回復を求め
  るたたかいとして必然的なものであり、階級による人間疎外の存在するかぎ
  り消滅することはない

 ・階級闘争の諸課題は、土台に対する要求においても、上部構造に対する要求
  においても、自由、民主主義、人間的価値という類本質にもとづく欲求とし
  て現象してくる(フランス革命、ロシア革命など)
  ―経済的民主主義と政治的民主主義

 ・階級闘争の前進は、自由、民主主義、人間的価値のより発展した形態をもた
  らす

● 階級闘争の諸課題をつうじて、疎外された類本質という仮象のなかから人間の
 類本質がそのまま現象してくる(本質は現象しなければならない)

● 原始共同体、奴隷制、封建制、資本主義、社会主義という社会構成体の発展
 は、人間の自由と民主主義の拡大の歴史

● 資本主義社会の階級闘争の前進により、人間解放の実現した社会が社会主義・
 共産主義の社会

  ・ロシア革命直後の自由、民主主義の発展は一定程度それを証明するもの