2011年4月23日 講義

 

 

第12講 科学的社会主義の社会主義論 ①

 

1.社会主義論は科学的社会主義の中心的課題

① 社会主義とは何か

● 社会主義論は科学的社会主義の中心的課題

 ・20世紀の社会主義の実験がもたらした最大の課題

 ・どうすれば資本主義の基本矛盾を解決しうるのかが、社会主義論の中心的課
  題

● 社会主義とは「社会的生産と資本主義的取得」の矛盾を解決した「社会的生
 産と社会的取得」の社会

● 資本主義の本質とその基本矛盾との関係

 ・資本主義の本質は利潤第一主義―人類史上資本主義のみ

 ・利潤を求めて生存競争―弱肉強食のたたかいをつうじて独占資本主義へ

 ・独占資本のもとで「社会的生産と資本主義的取得」の矛盾の激化


② 資本主義の矛盾の解決としての社会主義

● 問題の解決には、社会的生産力にふさわしい社会的生産関係が必要

 ・資本主義的生産は、形式上は社会的生産であっても、内容上は私的生産と私
  的取得

 ・それは生産手段を資本家が私的に所有しているため

 ・生産手段を社会が掌握することにより、内容・形式ともに社会的生産となる

 ・内容・形式ともの社会的生産によって社会的取得が実現される

● 社会主義とは、何よりも「生産手段の社会化」

 ・社会主義の中心的課題は「生産手段の社会化」にある

 ・「生産手段の社会化」を実現するには「プロ執権」の権力が必要

 ・社会化された生産手段は、社会の手により「社会主義的な計画経済」によっ
  て管理・運営されなければならない
  →「生産手段の社会化」「社会主義的な計画経済」「プロ執権」は、一般に
   社会主義の3つの基準といわれている

 

2.社会主義論 ①ー生産手段の社会化

① 社会主義的変革の中心課題は生産手段の社会化

● 生産物の資本主義的取得は、資本家による生産手段の私的所有から生まれる

 ・内容上は、資本家の所有する生産手段と資本家の購入した労働力による、資
  本家の私的生産と生産物の私的取得

● 生産手段の社会化

 ・生産手段を私的所有から社会的所有に

 ・社会的所有の形態には、国有化、公有化、協同組合有化、その他の集団有化
  など

 ・生産手段には、物質的財貨の生産にかかわる生産手段と、公共サービスの生
  産手段(金融、通信、交通運輸、教育、福祉、医療、年金、防災、救急)が
  ある―後者はサービス水準統一のために国有化がふさわしいか

 ・対象となるのは、巨大化した生産手段―小農民の農地や中小企業の手工業的
  生産手段は対象外


② 経済的アソシエーション

●生産手段の社会化とは、生産者が生産・分配の主役となる経済的アソシエー
 ション

 ・「資本のもとへの労働者の実質的包摂」(『資本論』③ 874ページ)から
  生産者の自由なアソシエーションへ

 ・社会主義とは「生産者の自由で平等なアソシエーションを基礎にして生産を
  組織しかえる社会」(全集㉑ 172ページ)

 ・「生産者が主役」(日本共産党綱領)

● 経済的アソシエーションには、社会的分業として「生産諸手段」の生産部門
 と「消費諸手段」の生産部門の2部門あり

 ・前者の生産物は社会的所有に、後者のみが商品として流通することに

 ・生産者は社会的生産物のなかから生産手段分と社会的諸費用分(税負担分)
  を社会に与え、社会から生産手段の提供と社会保障、教育、医療の公的サー
  ビスを受ける

 ・「個々の生産者は、彼が社会に与えたのと正確に同じだけのものを―控除し
  たうえで―返してもらう」(「ゴータ綱領批判」全集⑲ 20ページ)
  ―社会的諸費用の人件費を控除したうえで

● 搾取がなくなることで、生産力が発展するほど国民のくらしは豊かになり、
 本来の意味の「経済」(経世済民)が回復する

 ・搾取がなくなることで、労働時間は短縮し、政治的、経済的アソシエーショ
  ンを担う事務に従事しうることになる―個と普遍の統一

 

3.社会主義論 ②ー社会主義的な計画経済

① 利潤第一の生産から国民のくらし第一の生産に

●恐慌の解決

 ・1825年以来10年に1度の恐慌は、資本主義固有の病
  ―2008年 百年に1度の世界的大恐慌(リーマンショック)

 ・利潤第一主義から「生産のための生産」に突っ走り、「生産と消費の矛盾」
  の爆発としての恐慌に

 ・2008年経済危機も、住宅をめぐる「生産と消費の矛盾」に、「実体経済と金
  融経済(架空経済)の矛盾」が加わったもの
  →社会主義的な計画経済は、「生産のための生産」から「消費のための生
   産」に転換し、「生産と消費の矛盾」を解決する

 ・ソ連の計画経済は、1929年の世界大恐慌の影響を受けず

● 工業と農業、都市と農村の矛盾の解決

 ・利潤第一主義のもとでは、工業は農業を駆逐し、都市は農村を解体する

 ・社会主義的計画経済のもとで、工業と農業、都市と農村のつりあいのとれた
  発展を実現しうる


② 計画経済は市場経済を否定しない

● マルクス、エンゲルスは社会主義的な計画経済は、商品も商品交換の市場も、
 価値自体も消滅すると考えていた

 ・「生産手段の共有を土台とする協同組合的社会の内部では、生産者はその生
  産物を交換しない」(全集⑲ 19ページ)

 ・「直接の社会的生産と直接の分配」(全集⑳ 318ページ)のおこなわれる
  社会では「生産物の商品への転化、……それとともにまた生産物の価値への
  転化は、いっさい起こりえない」(同)

● しかし、社会的な計画経済はマクロ経済にかかわる問題であり、市場経済を
 否定しない

 ・生産と消費、工業と農業などのマクロ経済

 ・ 価値、商品、市場というミクロ経済の問題まで当然に含むものではない

 ・20世紀の社会主義の実験は、市場経済のもつ独自の機能を浮き彫りにした

 

4.社会主義論 ③ープロレタリアート執権

① 「プロ執権」は民主共和制
 
●パリ・コミューンは普通選挙にもとづく民主共和制

 ・コミューンでは、議員も、行政、司法の職員も、裁判官も普通選挙で選ばれ
  た民主共和制

 ・「民主的共和制は、……プロレタリアートの決定的な勝利によって、その終
  末に到達することのできる唯一の形態」(全集㉒ 287ページ)

●「プロ執権」は、たんなる民主共和制ではない

 ・「プロ執権」は「一般意志」を実行する人民主権の権力

 ・労働者階級の政党の提示した一般意志を、人民のなかで徹底的に討論し、人
  民的合意に高め、普通選挙を実施する

 ・「プロ執権」は一般意志を実践する民主共和制

 ・「真理は必ず勝利する」


② 「プロ執権」は直接民主主義と間接民主主義の統一

● 民主共和制のもとにあっても人民の直接民主主義を貫く

 ・パリ・コミューンは人民自治の権力(治者と被治者の同一性)

 ・イギリスが「自由なのは、議員を選挙する間だけのことで、議員が選ばれる
  やいなや、イギリス人民はドレイとなる」(『社会契約論』)

 ・「プロ執権」のもとで、人民は日常的に主権者として行動

 ・一般意志が実行されているかの見地から権力を監視し、チェックする役割を
  政党と労働組合が担う

● 社会主義・共産主義社会の国家と党は基本的には区別すべき

 ・党の基本的任務は、人民を導き、人民の政治的自覚を高め、主権者たる人民
  が国家統治を実現することにある

 ・労働時間の短縮により、人民は自ら統治する事務に携わる

 ・これが「プロ執権」のもとでの政治的アソシエーション

 ・「現実の個別的な人間が、抽象的な公民を自分のうちにとりもどし、個別的
  人間のままでありながら、……類的存在となったときはじめて、……人間的
  解放は完成されたことになる」(全集① 407ページ)